脚光を浴びる水冷60度Vツイン
ハーレーダビッドソンの『スポーツスター』がすっかり生まれ変わり、バイクファンらに注目を集めている。伝統的な空冷Vツインエンジンを水冷化し、オーソドックスなダブルクレードルフレームは、エンジンを車体の強度メンバーとする三分割フレーム構造へと“激変”した。
車名は末尾に“S”を加え、『スポーツスターS』へ。45度だったV型2気筒のシリンダーバンク角は60度に見直され、バルブ機構もプッシュロッドがロッカーアームを動かすOHV方式から現代的なDOHCへと進化している。
ハーレーダビッドソン スポーツスターS
ボア・ストローク=105×72.3mmで、排気量は1252cc。最大トルクは125Nm/6000rpmに達し、空冷モデルの『アイアン883』の68Nm/4750rpmや『アイアン1200』の96Nm/3500rpmを大きく凌ぐ。
またハーレーには2017年式まで、ボア・ストローク=105×72.0mmで排気量を1246ccとした水冷60度VツインDOHC4バルブを心臓部とする「Vロッドファミリー」も存在したが、最大トルク値のもっとも高い『V-Rod マッスル』でも110Nm/6,500rpmで、『スポーツスターS』の心臓部「レボリューションマックス1250T」はこれよりさらに強力だ。
空冷45度Vツインエンジンを主軸としつつ、Vロッドなどで開発と進化を繰り返してきた水冷60度Vツインの技術が、ここへきて再び花開く。
振り落とされそうになるほど強烈な加速
フロントタイヤは160mm幅とかなり太く、ヘッドライトは細長い楕円のLED式に。正立フォーク&ツインショックだった前後サスペンションは、倒立フォーク&モノショックにグレードアップされた。
車体重量は228kgで、『アイアン1200』より28kg、『V-Rod マッスル』より79kgも軽い。これほどに軽量化され、パワーアップされているから、乗ると従来のハーレーとは“別モノ”の感覚が味わえる。
ダッシュが力強く、3000~6000rpmのトルクが太い。フォワードコントロールのライディングポジションでは踏ん張りが効かないから、シートにどっしりと荷重しニーグリップもして、駆動輪が路面を掴む感覚を味わいつつアクセルを開けて欲しい。さもないと、振り落とされそうになるほどの強烈な加速だ。
ブレーキもシングルディスク仕様ながら、フロントにはブレンボ製の4ピストンラジアルマウントキャリパーも備わり強力。急制動も太いタイヤでしっかりと受け止めてくれる。
パパサンより低いシート高
シート高は755mmと低く、足つき性も良好。レバー位置をダイヤルアジャスターで調整できるなど扱いやすさも考慮された。フォワードコントロールでは足が伸びってきってしまうと不安なら、純正オプションでミッドコントロールキットも用意される。
■シート高と車体重量
スポーツスターS:755mm/228kg
アイアン1200:735mm/256kg
アイアン883:760mm/256kg
V-Rod マッスル:705mm/307kg
ただし走行画像を見ればわかる通り、身長175cmの筆者(青木タカオ)の場合、ヒザが曲がりステップは遠くない。“くの字”型のライポジはハーレーではお馴染みだが、『スポーツスターS』ではフットペグの位置をライダー側に寄せ、バンク角を稼ぐために上げたことで、ゆったりとした乗車姿勢となった。
ライディングモードは「スポーツ」「ロード」「レイン」の3種が予め設定され、さらにスロットルレスポンスやエンジンブレーキ、コーナリングABS、トラクションコントロールの介入度などを自分好みに細かくセッティングできるカスタムA/B、2つのモードも用意。
109mm丸型TFTディスプレイのデジタルメーターを見ながら、ハンドル左のスイッチで直感的に設定でき、クルーズコントロールもセット後に速度設定が1km/h刻みでできるなど使い勝手がいい。
従来のスポーツスターがそうだったように扱いやすく、さらにパワフルとなって先進的な電子制御も加わった。ポルシェのエンジンが水冷化したときのようにファンらに賛否両論あるものの、初めてのハーレーに選ぶのにもうってつけで、乗り手を選ばずリターンライダーや大型ビギナーにもオススメできる。ハーレーが新たなファンを数多く獲得する可能性を大きく秘めたニューモデルだ。
■5つ星評価
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★
コンフォート:★★★★
足着き:★★★★
オススメ度:★★★★★
青木タカオ|モーターサイクルジャーナリスト
バイク専門誌編集部員を経て、二輪ジャーナリストに転身。多くの専門誌への試乗インプレッション寄稿で得た経験をもとにした独自の視点とともに、ビギナーの目線に絶えず立ち返ってわかりやすく解説。休日にバイクを楽しむ等身大のライダーそのものの感覚が幅広く支持され、現在多数のバイク専門誌、一般総合誌、WEBメディアで執筆中。バイク関連著書もある。