変わる物流に広がる課題…三菱ふそうが配車サービスに参入するわけ

三菱ふそうとフリート管理サービスプロバイダーが協業
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  • ドライバーはスマホだけでよい
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  • バドワイザーの配送はWise Systemsのサービスが利用されている

自動車排出ガスの問題は、大気汚染や環境問題からカーボンニュートラルという世界的な社会経済モデルの変革を迫っている。このうち、走行距離や平均稼働率が高いトラック・バス・タクシーなど旅客輸送関連は、1台あたりの削減効果が高いということで、注目が高い分野でもある。

さらに物流業界では、高齢化とドライバー不足、交通渋滞、過酷な労働といった慢性的な問題に加え、パンデミックによる消費・物流傾向の変革が、これまで以上の貨物輸送、物流倉庫やトラックステーション、多様なラストマイル輸送のニーズを急激に高めている。

課題の多い物流業界のAIソリューション

国内では外環道周辺で倉庫用地や荷物の保管場所が確保できず、各地の空港、茨城・福島・静岡などから陸揚げした貨物が首都圏に運べないといった事態も起きている。パンデミックによる宅配・デリバリーニーズの高まりが、さらなる人手不足を呼びつつも、配送コストを市場価格に反映しにくい状況が混乱に拍車をかけている。

根本的な解決は難しいが、ソリューションはある。AIや通信技術、クラウドネットワーク、IoTデバイスを活用した、さまざまなサービス、管理システムが多くの企業から提案されている。旅客輸送では、従来から配車サービス、フリート管理、車両管制システムやサービスが存在する。

15日、三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)と米Wise Systemsが発表した配車計画システムもそのひとつだが、特筆すべきは、完成車両OEMである三菱ふそうが、自社のコネクテッドサービスとは別の独立したサービスとして提供されるという点だ。国内外の主なトラックメーカーは、すでに自社のコネクテッドサービスを構築し、ユーザーに高度なナビゲーションサービスやメンテナンスサービス、一部はフリート管理機能も提供している。三菱ふそうも、ダイムラーグループとしてTrackonnectという独自のモビリティクラウドサービスを展開している。

米Wise Systemは、MITのAI・機械学習研究者らが起業したテック企業。独自のアルゴリズムによる配車・ルートスケジューリングにより、とくにラストマイルの配送管理システムに強い企業だ。創業から7年以上の実績があり、食品から自動車部品、リテール、管制サービスなどを手掛けている。企業名を公開できる採用事例には、「バドワイザー」で有名なアンハイザー・ブッシュがある。全米のバドワイザーは同社のシステムでデリバリーされている。導入効果として、走行距離の13%削減、配達遅延を80%減らすことができたという。

遅延を減らせる理由

配車システムは、事前の配送先リストをベースにタスクを登録する。要は注文データだ。管制オペレータは管理画面からスケジュール作成のボタンをクリックするだけで、ドライバーごとの最適ルート、順序を決定する。必要なら手動アサイン(朝イチ最優先など)も可能だ。事故や渋滞情報、さらには現場到着から集配終了までの時間の管理、予測も行う。

遅延の削減は、通常のルートナビゲーションでは考慮されない人手の作業、現場環境の違いを予測・計算しているので可能になる。駐車場の問題、バースアクセスのしやすさ、戸建てや高層マンション、入館セキュリティといった細かい要因を、ドライバー、事業者ごとに学習する。

コアシステムはクラウド上で稼働するので、事業所やドライバーは特殊なハードウェア、車載器など必要ない。事業所には大画面、マルチスクリーンのPCが、ドライバーはスマホが1台あればすぐに利用できる。クラウドシステムは、API対応しているため、すでの自社の管制システムやフリート管理システムを導入している場合も、配車アルゴリズムやスマホアプリ(ルートスケジュール等の確認のほか、集配履歴、検品、受領処理などもできる)との連携も可能だという。

Wise Systemsは、国内企業とは3社と交渉をしているという。三菱ふそうとの提携は、国内最初の事例となる。

完成車メーカーがフリートサービスに参入する理由

通常、クラウドサービスは、開発ベンダーが直接、または現地の代理店などを通じて提供されることが普通だ。実際、国内でもいくつかのベンチャーやサービスプロバイダが、これと同様なフリート管理システムの提供を行っている。しかも三菱ふそうとしては、このサービスは三菱ふそうのユーザーに限定したり、ディスカウントを行ったりするものではなく、文字通りのクラウドフリート管理サービスとしてどんな事業者も利用できるとする。

OEMたる三菱ふそうがサービスビシネスに参入するメリットはないように思える。が、これはこれまでの自動車業界の考え方だ。もちろん、独自のモビリティクラウドでクローズドなサービスを展開し、自社車両の販促、サポートにつなげるというのは有効なモデルだ。しかし、一方でこのような囲い込みビジネスモデルの限界もきているのも事実だ。CASE車両の時代は、プロダクトセントリックよりもサービスセントリックなビジネスが拡大すると言われている。いわゆる「いい車を作れば売る時代」ではなくなってきている。

課題山積みの物流業界において、車両の機能だけで対応しようとしてももはや限界がある。車両技術での対応は不可欠であるが、同時にそれは出発点でしかない。顧客が求めていることに対するソリューションを提供するという視点からビジネスを考える必要がある。人手不足、配送効率、コストダウン、遅配の撲滅、CO2削減といった問題にどう対処するか。車両はそれを解決する手段のひとつであるという考え方が、結果として市場の活性化、車両需要の喚起につながる。

三菱ふそうは、いまのところ自社車両との連動は考えていないというが、将来的にTrackonnectと連動できれば、より正確な位置情報、車両センサーやECU情報との連携ができれば、フリート管理に予防整備や高付加価値メンテナンス、ロードサービスといった発展が期待できる。スマホアプリでも走行距離(移動距離)でメンテナンス提案くらいはできるが、エンジン、サスペンション他からの情報は車両との通信が必要だ。

従来OEMの考え方では「アプリサービスなど製造業の仕事ではない」となりがちだが、変革期に求められるのは、いい意味での体制の打破である。フリート管理という業務プラットフォームにAI企業とアライアンスし、サービスプロバイダーにもなるという戦略は、三菱ふそうが、変革を怖れないダイムラーグループの一員だからできたのかもしれない。

《中尾真二》

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