事故発生時などでドライブレコーダーではわからない詳細なデータを記録することで知られるEDR(イベント・データ・レコーダー)。ボッシュはそれを解析するCDR(クラッシュ・データ・リトリーバル)についての勉強会を、一部報道関係者向けに開催した。
EDRデータを正確かつ公正に分析することが重要
EDRは言わば自動車版フライトレコーダー。飛行機に搭載されるフライトレコーダーのように、エアバッグ等が作動するような事故が発生した際、その車両の状況をデジタルデータで記録する車載型の事故記録装置のことだ。記録装置の本体はエアバッグのECUに内蔵され、事故発生時にこれを回収して分析することで事故時の運転操作やクルマの挙動の状況を把握することができる。ボッシュによればEDRは20年ほど前から搭載されるようになり、今では一部の限られたメーカー以外、ほぼすべてのの新車に搭載されるようになっている。
しかし、このデータに含まれる特殊なコードを解析するには、読み出すのに必要な専用ツールが欠かせず、そのために各自動車メーカーは長いこと自前で対応してきた。ところが2010年、トヨタに対する「意図しない急加速」問題で開かれた米国の公聴会において、自動車メーカーが独自に解析したデータは信頼性に欠けると指摘を受けた。これを契機にこの対応は大きく変化。それ以降、トヨタも含め、自動車メーカー各社は公平性が保てるシステムで解析を進める方向へと転換し始めた。その時に白羽の矢が立ったのが、ボッシュが進めていたCDRだったというわけだ。
その後、米国では2012年9月1日に米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)が連邦規則として、EDRの搭載内容および読み出しについて法制化。これにより、米国内でボッシュのCDRツールで読み出せるメーカーは17年時点でこそ約86.3%だったが、19年からはスバルと三菱が加わり、現在は90%以上にまで増加することになったという。一方、日本ではEDRはほとんどのクルマに搭載されるものの、CDRへの対応はGMやフォード、FCAなど米国系メーカとボルボやアウディ、VWの欧州系、そして日本メーカーがトヨタ/レクサス、スバル、三菱が対応したのに止まっているのが現状だ。
今後は需要がますます高まっていく「CDデータアナリスト」
ただ、これは2019年6月に、国連WP29でEDR/DSSAD(データ記録装置)技術基準の検討項目に追加されることが決まっており、日本とオランダ、米国が専門家会議の議長国となって国際基準作成を主導することにもなった。その内容は2020年11月までに米国EDR法規をベースに、自動運転レベル3搭載車両の法規化を目指すというもの。これを踏まえ、日本もEDR等記録装置義務化検討を明示しており、遠くない時期に法規化へ向かうと予測されている。
となれば求められるのが、CDRを使ってデータを分析できるCDデータアナリストの養成だ。2020年以降、自動運転車レベル3以上の車両が段階的に市場へ導入されるとされているが、そうした状況になると従来の実況見分では通用しないのは言うまでもない。特に交通事故は死亡に至るケースも多いわけで、その原因がシステム側にあるのか、ドライバーにあるのかも含め、正確かつ公正な視点で分析することは極めて重要となるのだ。
現在は警察庁やその傘下の科学警察研究所、損保会社の国内に約100名の方が資格を取得している状況だが、運転支援機能の進化に自動運転化とクルマの進化はとどまることを知らない。様々な角度からみて、安全な交通社会の実現に向けた取り組みは必要なわけで、今後は整備工場にとっても欠かせない資格となるのは確実だ。ボッシュとしては、そうした需要に応え、研修を含めた制度作りを新たなビジネスモデルとして捉えていくことにしている。