サブスクリプション1000社の経験と知見とは…Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏

株式会社Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏
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サブスクリプションのサービスが身近に感じられるようになってきた。実際に利用している人も多いだろう。ネットフリックスやセールスフォースといったクラウド型サービスはもちろん、モビリティ領域でも取組みが始まっている。

そういった状況のなか、サブスクリプションサービスの実現を支援するZuora Japan 代表取締役社長の桑野順一郎氏は、「サブスクリプションを、単なる課金形態のひとつだと思っている人が多い」と投げかける。

アドビシステムズは、サブスクリプションに移行して以来、過去最高益を更新し、株価は7倍になった。しかしそれは、単に月額課金に移行したからではない。グローバルで1000社以上のクライアントを抱える(自動車メーカートップ10のうち7社がそこに含まれる)Zuoraの桑野氏に、サブスクリプションとはなにか、成功させるためには何が必要なのかを聞いた。

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”フェンダー”に見るサブスクリプションの本質とは


サブスクリプションの本質を説明するための事例として、桑野氏は、エレキギターのトップブランドである「フェンダー」の例を挙げた。フェンダーがサブスクリプションに取り組んだきっかけは、ギターという楽器に潜むフェンダーの強い課題意識だったという。

「ギターを購入した人の約9割が、半年で演奏を断念してしまう。それほどギターの習得は難しい。その壁を乗り越えさせないと、この先ギターを買ってもらうチャンスがない、という課題意識をフェンダーは抱えていました。」

そこでフェンダーが採った手段は、ギターのトレーニング動画を制作して、それをサブスクリプションで提供するというものだった。

「動画配信で収益を挙げることより、動画を配信することで、メーカーとユーザーが直接つながることが重要でした。フェンダーは、様々なミュージシャンの動画を用意し、また、初級から中級、上級までスキルレベルに合わせた動画を用意しました。すると、ユーザーはどのような音楽ジャンルやミュージシャンを好み、どんなスキルレベルで、何に悩んでいるのか、わかるようになったのです。」

「お客様と直接つながり、正しく理解すること。そして、ユーザーのニーズの変化を捉え、サービスを”永遠のベータ版”として進化させ続け、価値をずっと提供し続けること。それによって、一日でも長く使い続けてもらい、収益を最大化すること。これこそがサブスクリプションの本質です。」

サブスクリプションは経営視点でも必然だった


所有から利用へ、モノからコトへ。消費者の価値観の変化はここ数年で加速し、これまでの”モノ売り”のビジネスモデルに影響が出てきている。

「モノを売るビジネスモデルは、毎月毎月ゼロから売上を積み上げていかなければならない。右肩上がりでマーケットが拡大しているならいいが、今はそうではありません。いっぽうサブスクリプションは、前月の売上にプラスして新規の売上を積み上げていく方式で、成長が前提になっている。モノが売れない時代に、ビジネスを成長させる方法として、サブスクリプションのほうがいいと企業が考えるのは必然です。」

「たとえばアップルも、ハードウェアの印象が強いですが、サブスクリプションへの移行が進んでいます。同社のサービスの売上は、四半期で1兆円に達しており、売上全体の20%になっている。これを来年までに40%にすると言っています。」

「アップルはiPhoneの販売台数を発表するのをやめました。また、3月の発表会でははじめてハードウェアの発表がなかった、と話題になりました。アップルにとってiPhoneの販売台数は指標ではなく、今後はAppleIDのユーザー数を増やし、ARPUを拡大してChurn(解約率)を減らす。これがあらたなKPIです。ストック型で安定した収益を上げていくためにビジネスモデルを転換しているのです。」

株式会社Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏株式会社Zuora Japan 代表取締役社長 桑野順一郎氏

サブスクリプションに失敗するケース


とは言え、これまでモノづくりに必死で取り組んできた企業が、サブスクリプションに取り組むのは簡単ではない。では、企業はどう考え、行動すべきなのか。桑野氏は、”売ってからが勝負”だと説いた。

「モノづくりのビジネスにおいては、まずはいいプロダクトを作ることに主眼があり、それをたくさん売ることを目指します。数さえ売れば、お客様が誰であるかは二の次だった。マーケットが拡大している状況では、売上は伸びていくので、それでよしとされていました。」

「ではサブスクリプションではどうか。顧客を理解するために顧客とつながり、そしてニーズの変化をとらえ、サービスを”永遠のベータ版”として価値を提供し続ける。そうでないと顧客は離れて行ってしまいます。」

「つまり、プロダクト販売モデルは”売るまでが勝負”だった。関心事はどれくらい売れるか。いっぽうのサブスクリプションは、売ってからが勝負。なぜなら、売ったその瞬間から利用が始まるからです。目的は、一日でも長く使ってもらうこと。だとすると関心事は、顧客が満足しているかどうか。ここを理解しない限り、サブスクリプションはうまくいきません。」

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桑野氏はさらに、ビジネスの段階ごとに具体的に説明した。

「マーケティングは、いままでは数を売ればよかった。ブランディングをしてどんどん売る。しかしサブスクリプションにおいてはブランディングだけではだめです。サービスを利用するので、エクスペリエンスを向上させないといけない。営業も、モノを売るのではなく、価値を提供するという考え方に変える必要がある。」

「そしてファイナンスも、一個売って利益がいくらか、ではなく、ライフタイムバリューがどれだけかという捉え方が必要です。企業カルチャーも、ヒット商品の開発ではなく、顧客とのリレーションシップを強化する、というように変えていく必要があるのです。」

時にはダウングレードの提案も


サブスクリプションにおいてもっとも重視すべきなのは、いかに長く使ってもらうか。そのためには、一時休止やダウングレードなど単価が下がる方法もいとわないという。

「夏季休暇の一か月間、契約を休止できるプランがあったり、あるいはユーザーの利用状況に合わせてダウングレードの提案もすることもあります。利用されていない機能があれば、それを検知してよりベーシックなプランを提案する、ということです。」

スポーツ番組を配信する「ダゾーン」では、一時休止オプションを導入してから、顧客の再帰率が4割改善したという。

「簡単に休止ができるので、また気軽に戻ってくる人が多いということです。これもひとつのエクスペリエンスの事例です。単価が下がったとしても、解約を阻止し、利用期間を延ばすことができれば、そのうちにアップセルのチャンスがあるかもしれません。料金と提供価値のバランスをうまく調整しながら、利用期間を伸ばして収益化していくことが不可欠です。」

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サブスクリプションプラットフォームでできること


一人ひとりの顧客の価値観やニーズの変化に応じて、柔軟に料金体系を変化させることは、企業の開発部門にとっては大きな負担でもある。顧客データベースと課金処理にかかわるため、セキュアかつ柔軟なシステムを作り上げなければならない。技術・コストの両面で、多くの企業にとって至難の業であろう。Zuoraが提供するのは、まさにこの部分である。10年以上のサブスクリプションSaaSの提供経験によって、あらゆるオプションが用意され、即時に利用可能だ。

「定額制、従量制、フリーミアム、1か月フリートライアル、アップグレードといった課金体系や、顧客ごとの契約プランの管理、アップグレード、休止などをサポートしています。さらに料金の請求、回収、分析、売上の管理も可能です。これらの機能をSaaSとして用意しています。」

そのようなプラットフォームがあったとしても、特にモノづくり企業にとってはサブスクリプションモデルへの転換は決して容易ではない。これまでの企業カルチャーを大きく変える必要があるからだ。そしてもっとも重要なのは、言うまでもなく、顧客にどのような価値を提供するか。桑野氏のもとには、覚悟を決めた数多くの企業から問い合わせが届いているという。

「みずからを第二の創業期にあるとして、もう一度事業を再構築するんだ、と強い危機感を持っている企業も少なくありません。そういった企業が大きな転換を成功させるんだと思います。」

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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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