【池原照雄の単眼複眼】日産、中国ローカルブランドの「ヴェヌーシア」に注力…高付加価値路線で勝負

ヴェヌーシアの新SUV  T60
  • ヴェヌーシアの新SUV  T60
  • ヴェヌーシアT60の運転席
  • 東風南方ヴェヌーシア新塘店(広州市)の呂潔華店長
  • 東風南方ヴェヌーシア新塘店(広州市)
  • 東風汽車有限 内田誠総裁

専用デザインセンターで独自開発

日産自動車が中国の合弁事業で、ローカルブランドと呼ばれる中国固有ブランドの育成強化に力を入れている。

背景には、ローカルブランドが「東風日産」(日産車)や「一汽豊田」(トヨタ車)といった日米欧を中心とする合弁ブランドに拮抗するまで勢力を伸ばしてきたことがある。専用のデザインセンターの設置や、斬新なディーラー店舗の展開などを進めており、2022年までの5年間で販売台数を3倍増とする計画を打ち出した。

日産の中国事業は、国営大手である東風汽車集団との合弁会社「東風汽車有限」(2003年設立、湖北省武漢市)が中核企業として担っており、その傘下に日産ブランドの乗用車部門である「東風日産」や、同高級車部門の「東風インフィニティ」などがある。これらに加え、ローカルブランドとして「ヴェヌーシア」を運営している。ローカルブランドは外国企業による中国への技術移転も狙いとなっており、現地スタッフが主導するため「自主ブランド」とも呼ばれる。日系では広汽本田の「理念」などもこれに当たる。

ヴェヌーシアが市場参入したのは2012年と、まだ歴史は浅い。当初は日産のコンパクト車「ティーダ」のプラットフォーム(車台)と車体を使い、「廉価だが日産と同等の品質」を売りに、エントリーユーザーの開拓を狙った。ところが、クルマがステータスそのものの中国では、品質よりも豪華な見栄えや大きさなどが求められ、ヴェヌーシアは苦戦を強いられた。合弁の東風汽車有限は数年で方針転換、15年からは車体の流用はやめて独自デザインの採用に切り替えた。

高品質とハイテク感を具現化した新SUVのT60を投入

運営自体も東風日産の一部門から独立させ17年2月には「東風ヴェヌーシア」(広東省広州市)を設立。本社内に専門のデザインセンターを設置するなど体制を刷新し、若年層をターゲットにブランドコンセプトもしっかり打ち出した。デザインセンターの豊田泰治副総経理は「クラスを超える品質感とハイテク感で、高付加価値イメージを確立し、中国市場のメインストリームで闘っていく」と強調する。

そうした狙いを具現化した新モデルが11月の広州モーターショーで3番目のSUVとして発表・発売された『T60』(1.6リットル・ガソリン車)だ。ヴェヌーシアのSUVとしてはエントリーモデルだが、内外装ともに高級感があり、8万5800元(約137万円)から11万8800元(約190万円)とした価格は割安に映る。

先進技術ではコネクティビティーに力点を置いた。クルマと自宅の家電などが音声認識によって相互操作できる「中国では初めて」(商品開発幹部)の車載システムを標準搭載、まさに「ハイテク感」をアピールしている。このシステムは「今年の3月にアイデアが出され、社外企業の協力も得て8月には完成させた」(同)という。このスピード感は、東風日産ブランドではとても出せないだろう。

22年には3倍増の58万台を目指す

ヴェヌーシアは体制刷新後の17年には前年を22%上回る販売実績をあげ、オール日産の中国販売の1割近くを占める存在となっている。日産は22年までの5か年中期計画で、17年に152万台(前年比12%増)だった中国での新車販売実績に100万台の上乗せを図る目標を掲げている。ヴェヌーシアについては足元の3倍増を画策しており、「今後5年で58万台への拡大」(豊田副総経理)を狙う。

しかも、19年には一気に3車種の電気自動車(EV)も投入する計画だ。日産グループは今年から19年にかけ、中国で5車種のEVを売りだすが、過半をヴェヌーシアで展開するわけであり、同ブランドテコ入れの本気度を示している。

「5年で3倍」の新車販売を支える中国全土のディーラー網については、現状の265店を倍近い500店とする計画。新規開設店は、ブランド方針に沿った新デザインの店づくりを導入する計画で、9月にはそのモデル店となる「東風南方ヴェヌーシア新塘店」(広州市)がオープンした。ブランドカラーのブルーを基調に、ショールームにはEV専用のコーナーも準備している。女性店長の呂潔華(32)さんは「店舗はお客様からも好評で、来店者が増えている。開店1か月で70台と計画に沿った受注を得た」と、手ごたえ十分の表情で話した。

ヴェヌーシアをグループの活性剤にも

かつては品質や性能などの面で外資系合弁ブランドとの格差がぬぐえなかったローカルブランドだが、近年は「品質は明らかに良くなり、デザインも高く評価されるようになった」(東風汽車有限の泉田金太郎経営企画本部長)と、合弁ブランドをキャッチアップしつつある。それを反映するように、EVで先行するBYD、SUVが得意の長城汽車など独立系に、国営や地方政府系の大手などを合算した全ローカルブランドの新車販売シェアは、10年の35%から18年(1-9月)には41%に高まった。シェアは右肩上がりとなっており、「22年ごろには合弁ブランドとほぼ拮抗するまで伸びるのではないか」(泉田氏)と観測している。

オール日産で見れば、今後はヴェヌーシアと東風日産ブランドが競合する局面も予想される。ただ、東風汽車有限の内田誠総裁(日産専務執行役員)は「われわれの強みは東風日産やヴェヌーシア、さらにプレミアムなどのマルチブランドを展開していること。相乗効果で競争力を高めていきたい」と話す。ヴェヌーシアの躍進をグループ内の活性剤にもしていく構えだ。

《池原照雄》

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