ヤマハ発動機、実はプールも作っていた…FRPプールでシェア9割、高まる需要その理由

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全国の小中学校のプールがヤマハ発動機のFRPプールに置き換わりつつある。工期が短く、メンテナンスが簡単、耐震性に優れるなどのメリットがある。
  • 全国の小中学校のプールがヤマハ発動機のFRPプールに置き換わりつつある。工期が短く、メンテナンスが簡単、耐震性に優れるなどのメリットがある。
  • リゾート施設にもヤマハのFRPプールが導入されている
  • 民間のスイミングクラブにもヤマハのFRPプールが。FRPは軽量なため、ビルの上階にも設置できるのがメリットだ
  • ヤマハのFRP製ウォータースライダーや流れるプールが導入されている施設
  • ヤマハ発動機 プール事業推進部 加賀谷牧 営業部長
  • FRPプールの生産をおこなうヤマハ発動機 新居事業所
  • ユニットごとに生産されるFRPプール。
  • FRPプールの生産をおこなうヤマハ発動機 新居事業所
ボートレース浜名湖の最寄り駅、東海道線の新居町駅から歩いて20分ほど。ここにヤマハ発動機のとある拠点がある。その「発動機」という名からも、この会社がつくるプロダクトといえば、バイク・スクーター、電動アシスト自転車、エンジンなどがまず浮かぶはず。知る人ならばプレジャーボート、水上バイク、カート、4輪バギー、ゴルフカー、無人ヘリコプター、ドローンなども思い浮かべるだろう。

そこへきて、静岡県湖西市新居町にあるこの拠点は、プール事業推進部営業部。まずヤマハ発動機が、「プールまでつくっていたのか!」と驚く。その「発動機」という名からは、ちょっと異端な部門で、言ってみれば「動かないプロダクト」だ。

「プールをつくっている現場を見てみて」ということで、プール事業推進部営業部ビルの向かいにあるヤマハ発動機新居第三工場に行く。灼熱の工場前には、その道一筋というヤマハの“プールマン”、加賀谷牧営業部長が立っていた。

◆ボートの逆発想、水を張るプロダクトに
生産されたユニットはバラバラの状態で出荷、現地で組み立てられる。
工場内部に入る手前、屋外にプールの一部であるバスタブのようなパーツが整然と並んでいる。これが、何かを想わせる並び……そう。ヨットやボートの艇庫にも似た光景がある。ここまできて、ようやく「そうか!」と気づく。「このプール製造技術は、ヤマハ発動機のボートなどの艇体製造技術から派生したものだ」と。

「ヤマハは、1974年に国内初のオールFRPプールを発売しました。小中高といった学校のプール、世界水泳選手権大会なども手がけ、2016年にはスクールプール納入6000基を達成しています」と加賀谷部長。さらに、「プール総納入実績は3万8000基を突破した」というから、驚く。

そうだったのか。ボートなどの艇体のFRP加工技術を、プールに注ぎ込み、この40年余りで6000基も全国へ送り出してきたと。日本の子どもたちは、ヤマハ発動機がつくったプールであることを知らずに、20メートル以上のプールといっしょに青春時代を過ごしてきた、と。

◆FRPプール市場の9割がヤマハ発動機製
全国の小中学校のプールがヤマハ発動機のFRPプールに置き換わりつつある。工期が短く、メンテナンスが簡単、耐震性に優れるなどのメリットがある。
そして、ヤマハ発動機の技術力が積み重なり、日本のプールの素材も30年間でガラリと変わったという。1985年当時の20メートル以上のプールは、FRP製プールは全体の4割弱を占め、コンクリート製が2割、その次にアルミニウム製、ステンレス製と続いていた。それがいまやFRP製が6割を占めステンレスが4割弱という具合。

「国内の20メートル以上のFRPプールでみると、その91%をヤマハ発動機製が占めている」と加賀谷部長。では、なぜヤマハ発動機製のFRPプールが日本で支持されるのか。

ヤマハ発動機製FRPプールの強みの前に、日本のプール事情と背景について。日本列島各地に存在する学校プールに注目すると、その数はなんと3万基。そのうち1984年以前に設置された2万基が、老朽化のため、改修・改築が迫られていた。

◆日本の旧来プール1万基を狙う
既存のコンクリートプールにFRPを設置する「リニューアル工法」
この改修が必要な2万基の学校プールのうち、「改修せずにプールをやめる」「すでに修繕した」というプールを除くと、残っている改修待ちプールは「今後10年間で1万基がその対象になる」という。こうした市場背景のなかで、ヤマハは、古いコンクリート製プールをFRP製プールで覆うようにして、新品同様にリニューアルするというパッケージで売り出した。

これが支持されている理由のひとつ。既存のコンクリート製プールに大規模修繕を入れることなく、軽くて丈夫で長持ちするFRP製プールに変身させるという技術が、受けている。しかも、工期にもアドバンテージがある。一般的に90日かかる工期を、45日ほどに短縮できるという。

さらに、建設コスト削減、低騒音、廃棄物抑制といったメリットがあるうえに、文部科学省「既設プールの耐震補強交付金制度」の対象プロダクトとして認められ「地震に強いプール」として支持されているそうだ。

このヤマハFRPプールの「デッキ・側面・底面が一体となって地震の大きな力に耐える」「FRPの一体構造が造りだす粘り強さで地震時の揺れに対応」というアドバンテージが、ユーザー(多くは自治体など)に響き、選んでもらう強みだとか。

◆施工パッケージと安全性でさらにリード

もうひとつのヤマハ製FRPプールの強みは、工場でパーツをつくり、建築現場で組み立てるという施工パッケージ。「フロアーユニットはヤマハ独自のFRP一体化接合、サイドユニットはフロアからオーバーフローまで継ぎ目のない一体化構造で、構成している」と加賀谷部長。

そして、ヤマハFRPプールが支持される3つめの理由は、安全性だ。「プールは一般的に、汚れた水を一定の基準できれいにするために、水を循環させてろ過しています。ここにもヤマハ独自のガーター吸込法式を採用。循環吸い込み口を分散させ、吸い込み流速を低減。遊泳時の吸い込み事故防止へとつなげています」(加賀谷部長)。

危ないと思うところはすべて改善し、吸水口の二重構造化や、デッキまわり・スタート台・プール内壁面にはスリップレスパターンを採用。FRP一体成形のメリットを最大限に活かし、加工全面に角が立たない曲面仕上げなどを施しているという。

◆その工場はまさに職人たちの牙城
型からFRPプールのユニットをはがしているところ。
加賀谷部長に、ここまで聞いてきて、「この圧倒的シェアと技術力、安全性でリードするぐらいだから、工場も最新のラインで構成されてるのだろう」と思いきや、現場に潜入してみてびっくり。職人たちの手と感覚で、ひとつひとつ、パーツと対峙しながら流れる工程だった。

「25メートルプールであれば、吹付けや積層、仕上げといった、おもに7つの工程を経て、総勢20人の手で作っていきます」と加賀谷部長。25メートルプール1基を組み上げることができるユニットを生産するのに掛かる期間はおよそ1か月だという。

しかも「年間200基までつくれる」というから、さらに驚きだ。ヤマハ発動機のFRP製プールは、競技用・学校用プールのほか、ヘルス系・医療用プール、分解・組立がかんたんな幼稚園・保育園向けプール、ボディースライダー・ウォータースライダー、流れるプール、スパプール、オフシーズンはフットサル場に変身する可動床プール……などなど、水を張るプロダクトのあらゆる分野に入り込む。

日本のプールは、ボートの艇体をつくるヤマハ発動機のFRP技術が支えていた。加賀谷部長はさらに“次”への想いも打ち明ける。「今後は、海外へも目を向けている。富裕層邸宅内のプールや、レジャー施設とか。まずは韓国や台湾など、アジア圏から入り込んでいきたい」と話していた。
ヤマハ発動機 プール事業推進部 加賀谷牧 営業部長
《大野雅人》

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