変速機の研究組合 TRAMI トラミが発足---これまでの流れと課題

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自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI=トラミ)理事長の前田敏明氏。
  • 自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI=トラミ)理事長の前田敏明氏。
  • 従来の大学研究室との共同研究と、トラミが目指している共同研究のイメージ。
  • トラミが実現したい共同研究の連携イメージ
  • 産学協同での駆動系基礎技術の要素
  • 2030年までを目処とした各研究テーマとその進行の方向性
  • 2030年までを目処とした各研究テーマとその進行の方向性
  • 設立にあたって参加した国内11メーカーの組合員各社の代表

●エンジンのAICEに続き産学官の共同研究により開発を効率化

5月15日、自動車用動力伝達技術研究組合(TRAMI=トラミ)が設立記者会見を行った。この団体はアイシン・エィ・ダブリュ、いすゞ自動車、ジヤトコ、スズキ、SUBARU(スバル)、ダイハツ工業、トヨタ自動車、日産自動車、本田技術研究所、マツダ、三菱自動車といった9つの自動車メーカーと2つの変速機メーカーの国内11社が資本と人材を投入して、大学の研究室とも合同で基礎研究を行い、技術進化を加速させると共に人材育成を目指す、というもの。

これは従来、個々のメーカーがそれぞれ社内で研究、あるいは大学の研究室と共同研究してきた分野を、組合としてメンバー間で連携を取ることにより基礎研究のスピードアップや技術レベルの底上げ、技術の深堀りを実現することができる、としている。4年前にエンジン技術の基礎研究を行う自動車用内燃機関技術研究組合(AICE)が立ち上げられたのと同様、競争分野ではない基礎研究については共同戦線を採ることにより効率良く開発のスピードを高めるのが狙いだ。

実際の研究についてはメーカーによって従来得意としてきた分野があることなどから、テーマごとの研究会、委員会ごとにリーダー企業を設定し、そこに各メーカーのエンジニアが研究メンバーとして参加することにより共同研究を行う。研究によって得られた成果は組合企業全体で共有するそうだ。

トラミ理事長で本田技術研究所の四輪R&Dセンター第4技術開発室の前田敏明上席研究員は当面、研究開発のための資金はメーカー11社の出資金のおよそ2億6000万円によって賄われるが今後、国の事業として研究を依託されるようになった際には、それに対応できるようにすると言う。

●これまで「学」の研究参加がなかった変速機の世界

個別企業の大学研究機関との共同研究をネットワーク化するのがトラミの目的の1つだが、それ以前に驚くべきことに、大学には変速機関連の研究室はほとんど存在しなかったのだとか。考えてみれば、MTは50年以上も構造にほとんど変化がないまま使われてきたほど(こう書くとMTエンジニアの方には失礼だが)、完成された機械であるし、ATも流体力学としては研究分野の一つではあったがやはり主役はエンジン、それも燃焼のメカニズムに関する分野が大半を占めていたようだ。

すでに2016年からの先行トライアルによって研究の成果と共に大学研究室の活性化や所属学生のモチベーション向上などの成果を上げており、今回の正式発足でより本格的な研究への取り組みとより積極的な人材育成が図られることになる。

具体的には変速機内部で起こる様々な、特に金属部品の摩擦状態の制御技術、いわゆるトライボロジー分野の解明や、熱・流体力学分野での状態解析などで大学研究室は貢献することになりそうだ。そして自動車メーカーや変速機メーカーは多段ATで様々な役割を果たすATFの気液混相状態での制御技術など、状態解析から制御分析、そしてモデル化などを担うことになるようである。

一先ずの目標を伝達損失や軽量化、NV(音・振動)などのロス半減とし、2030年までに様々なテーマで基礎研究を行うことで変速機の性能向上に貢献する基盤技術を確立し共有する考えだ。

●地域によってニーズが異なる変速機の多様化が圧迫していた開発リソース

「クルマは100年に1度の大変革期を迎えている」とは先日の決算発表でトヨタ自動車の豊田章男社長が口にした危機感を示した言葉だが、それは変速機というパワートレインの主要要素についても同様である。EVへのシフトが急速に進みつつある世界の自動車市場で、エンジン車やハイブリッド車が支持を集め続けるためには、変速機の一層の進化が求められる。それができなければエンジンと共に変速機が廃れていくことになるからだ。

ここ30年ほどでATやCVTが急速に進化を果たし、さらにはDCTやAMTなど新しい変速機が登場してきたことで、自動車メーカーの変速機開発に対する負担は想像以上に大きくなっていたようだ。アイシンやジヤトコなどの変速機メーカーについてもリソースやマンパワーは限りあるものだけに、納入する自動車メーカーとの個別研究ではなく、縦横無尽に連携を取ることで開発を効率化できることは間違いない。

具体的な目標設定や、製品開発への発展など早くも先々の展開を期待するような声も聞かれたが、今回はあくまで基礎研究分野での共同研究。独自性を削ぎ落としすぎても自動車メーカーのブランド競争力が低下することになる。これまで独自性にこだわってきたホンダ、アイシンと専用ATやハイブリッドTMを開発してきたトヨタが、国内メーカーと広く手を組んで基礎研究を行うだけでも、これまでにはない動きなのである。

こうした組合とは別にトヨタとマツダ、トヨタとスズキといったように個別に販売面や開発面での提携関係を結んでいることや、ルノー日産三菱のアライアンスのような強固な同盟関係もある。さらには車両の相互OEMなどを行っている現状を含めて、提携関係はますます多様化していくことになりそうだ。

《高根英幸》

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