『グランツーリスモSPORT』は今後20年を見据えた…山内一典代表取締役兼プロデューサー【インタビュー】

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【特集】『グランツーリスモ SPORT』は今後20年を見据えたタイトル―山内一典氏インタビュー
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10月19日に発売を控えるPlayStation4専用リアルドライビングシミュレーターゲーム『グランツーリスモSPORT』。本作を手がけるポリフォニー・デジタルの東京本社にて、7月26日、代表取締役兼プロデューサーを務める山内一典氏への合同インタビューが実施されました。初のPS4世代となる『GT』はどのように作られ、そしてこれからどのように進化していくのかうかがってきました。

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――今作にかける意気込みをお聞かせください。

山内一典(以下、山内):今作は、これまでの20年間の『グランツーリスモ』の良いエッセンスを全て取り入れ、さらにスポーツモードやHDRへの対応、HDRフォトグラフィといった新しい要素も導入されています。HDRフォトグラフィでは、写真の世界に車を置くだけでなく人物を配置することも可能です。そういった新しいフィーチャーをプラスし、新世代の『グランツーリスモ』の基本形が整ったのが『グランツーリスモSPORT』なんです。僕らにとっては、最初の(初代PSタイトルの)『グランツーリスモ』を作った時と同じ気持ちで作っています。もう一度、『グランツーリスモ』のこれからの20年間を考えて、デザインし直したものが『グランツーリスモSPORT』ということになります。

――車を所有する喜びや車がある環境の表現が今作のコンセプトなのかなと感じたのですが、このようなコンセプトは最初の『グランツーリスモ』の頃からあったものでしょうか。

山内:最初の『グランツーリスモ』が発売された後に、例えば電車の中で「俺、(ゲームの中で)あの車買っちゃったよ」という話を聞いたんですよ。ですので、当初から車を所有する喜びというのは、ゲームの中心にあったと思います。シリーズを重ねるごとにいろいろなトライアルを重ねてきているのですが、それが正しかったこともあるし間違っていたこともあります。これまでいろいろなことをやってきた中で、今回の『グランツーリスモSPORT』は、本質的に重要なことを過去20年間から振り返って、それをきちんと統合しようという気持ちがすごくありました。

――今作は発表から発売まで、過去作と比べて比較的スムーズに運んでいるように見えます。開発体制など、以前と比べて変わった部分はあったのでしょうか。

山内:ビデオゲームの進化は凄まじいものがあって、PS1からPS4まででガラッと変わってきています。制作体制や制作手法が同じであり続けるということは基本的になくて、その都度作り方から見直して作っています。『グランツーリスモ』というタイトルは、それぞれのピースが全てやりすぎなんですね。ここまでで十分という境界がなくて、それ以上のところまで実際にやってみるというところが特徴だと思っていますので、事前の計算通りにはいかないタイトルですよね。ある程度やることを絞ってしまうと、その分だけ未来を予想することが可能になるのですが、『グランツーリスモ』はこの20年間、いろいろな部分でやりすぎたことによって全世界で8000万人が買ってくれているという背景があるものですから、僕らとしても手は抜けないんです。どこまでいけるかというは、常に限界までチャレンジしているということはありますね。


――車1台のモデリングに6ヶ月の期間を費やしているとお聞きしましたが、過去作と比較して開発期間というのは伸びているのでしょうか。

山内:変わってないですね。『GT5』や『GT6』の時代も6ヶ月はかかっていました。製作プロセスの効率化であるとかツールの進化であるとか、そういったものも含めて効率自体は上がっているんですが、その分、僕らがターゲットにしているクオリティのレベルも上がっているので、期間はなかなか短くならないんです。

――今後、期間が短くなっていくということはあるのでしょうか。

山内:車のモデリングに関してはかなり難しいのではないかと思います。自動化できるところは全て自動化してますが、人間しかできないという部分があり、常に超人的に仕事はしているわけですしね。これ以上効率化するというのは難しいです。『グランツーリスモ』の車のモデルというのはPSゲームの中で唯一全て内製で外注には出してないんですよ。それが『グランツーリスモ』のクオリティを支えているので、そこは守らないといけない基準なんだと思います。

――今作は従来のタイトルと比べると、ウインカーやライト、ワイパーなど細かい点までユーザーが動かせれるようになっています。自由度が上がっている中で、ユーザーに体験してほしいものというのは過去作から変わってきていたりするのでしょうか。

山内:ウインカーやハザードなどは以前からやりたかったことなんです。やりたくてもできなかったものが、今回できるようになったということが大きいですね。もともと、『グランツーリスモ』はシンプルな作りで、車自身の美しさや車の運転の楽しさ、光が入った時の美しさといった要素から成り立っています。車・ドライビング・光・ですね。その中で最大限の自由度をユーザーの肩に体験して欲しいと思っていますから、今回はそれが全部ではないにしろ実現したことになります。


――本作はVRに対応していますが、平面によるリアリティとVRの3Dによるリアリティは全く違うものだと思います。開発での苦労はあったのでしょうか。

山内:VRへの対応で一番大変なのは、主に負荷対策なんですね。ステレオで2枚描画しなくてはいけないですし、フレームレートに対してもかなり厳しいですので、そこが一番大変でした。結果として、今PS VRでできるVR体験という意味では最高レベルのものになったのではないかと思います。(車の3Dモデルの)内装をあそこまで作ってあるのもVRを見据えてだったので、本物の内装体験はVRでこそ生きるというところはありますね。

――VR酔いへの対策については。

山内:VR酔いの対策はできることは全てやっていますし、車というものはもともと酔いにくいものではあります。本物と同じで座って操作するものですし、ステアリングとアクセルとブレーキと操作系も限られています。内装があって、その先に景色が広がっているという自分のポジションを見失わないような空間になっていますから、もともとの相性の良さはあります。あとは、車の挙動が普段皆さんが運転している車と同じ挙動のものであれば、未来予測ができます。人は話している時も歩いている時も、0.数秒の未来を予測して無意識に行動しているのですが、その未来予測がずれた瞬間に一瞬にして酔うんですよね。それを徹底的になくすようにしています。

――何世代先にも通用する3Dモデリングをはじめ、開発スタッフの皆さんは終わりの見えない戦いがあるように見受けられます。どういった心構えで皆さんは仕事と向き合っているのでしょうか。

山内:『グランツーリスモ』は日本的なタイトルだと持っていて、通底している部分というのはユーザーを持てなしたいという気持ちがすごく大きいですね。やり過ぎてしまう、必要以上のことをやってしまうというのは僕は日本的な感性だと思っています。ここはこれだけコストをかけたからこれだけゲインをかけないといけないという取引の感覚がそこにはないですよね。なんにせよオーバーアチーブすること、それを差し出すこと、そこから全てのコミュニケーションが始まるという考えかたというのは結構日本的なのではないかという気がしています。


――今作の開発は、今後を見据えてとおっしゃっていますが、まだまだアップデートしていくと。

山内:そうですね。現行のモデルというのは少なくとも向こう10年は十分に使えるものなので、1000台、2000台という規模までは現在の仕様で作ると思います。10年経った時に、そのクオリティが自分たちのやりたいことに対して十分でないと判断下ならまた1から作り直すんじゃないでしょうか(笑)。今回のモデルは『グランツーリスモ』のシリーズでいうと4世代目で、その間にハードウェアのスペックも数十万倍という規模で上がっていますしね。

――ローンチ時の収録車数は150台以上となっていますが、そのほとんどがスポーツカーとなっています。今後、『GT5』や『GT6』に登場していたトヨタ・プリウスやFiat500などの大衆車も追加される予定はあるのでしょうか。

山内:アップデートやDLCで追加していこうと思っています。今回はスポーツカー、とりわけレーシングカーが最初の時点で必要だったのは、FIAグランツーリスモチャンピオンシップをやるために全てのカテゴリのレースカーを一通り用意する必要がありました。一見するとそちらに比重が偏っているように見えますが、『グランツーリスモ』の本質というのはレーシングカーだけではなくてちょっと古い車だったり、ファミリーカーであったり、クラッシックカーであったりと、そういったものまでがシリーズでは大事な車ですので、どんどん追加していこうと思っています。

――ゲームのダウンロードサイズが60GB以上となっています。ここまでの容量になるとBlu-rayの限界との戦いになりそうですがいかがでしたか。

山内:完全にそうですね。車との写真を作れる「スケープス」に使われている画像は32bitのHDRで境界情報ももっていますので、1枚だけでも数百MBになってしまうんです。発売日の時点で「スケープス」は1000ロケーションを用意しようと思っているのですが、全部はディスクに入らなくて必要に応じてダウンロードする方式にせざるを得なかったんです。

――以前は2枚組ディスクのゲームがありましたが、今は難しいのでしょうか。

山内:物理的には不可能ではないと思いますが、できることなら1枚で収めておりて、必要に応じてダウンロードしていった方がユーザーも利便性は高い気がします。


――実車のメーカーさんと常にやり取りしているわけですが、今作のやり取りの中で印象深かったエピソードなどはありますか。

山内:自動車メーカーの皆さんとのやりとりというのは常に刺激に満ちていますね。自動車業界は競争が激しい業界ですし、面白い人たちもたくさんいます。デザイナーの方やエンジニアの方と大変仲良くさせてもらっていますが、常に興味深い話に展開することが多いです。そのどれもが刺激的なのですが、1つあげるならポルシェが収録されることになったきっかけでしょうか。去年のル・マン24時間レースでポルシェのエンジニアの皆さんにお会いしたんですよ。時間をとってもらって『グランツーリスモSPORT』がどういうことをやっているのかというコンセプトをプレゼンテーションしたのですが、そこでポルシェの人たちがコンセプトや考え方に対して「これは本物だ!」って言ったんですよ。ポルシェとしてはこれは関わらないといけないとその場で言ってもらえたことは面白かったですね。

――車好き同士の熱意が伝わったということでしょうか。

山内:熱意というよりはエンジニアリングなんだと思いますね。『グランツーリスモSPORT』のチャンピオンシップに関しても、コンセプトやシステム、ルールに対して、長年レースをやってきた方のツボを押さえているということなんでしょうね。

――現在、車の自動運転化の流れがありますが、自動運転がゲームに限らず車にどのような影響を与えていくと思いますか。

山内:自動運転はいろいろな見方があると思いますが、まずスポーツカーと自動運転の関係でいうと、僕はフェラーリにこそ自動運転が欲しいと思っているんです。渋滞の中でフェラーリに乗るのは苦痛ですから、ワインディングロードに行くまでとか、サーキットに行くまでは自動運転で行ってくれるのがいいなというのがあります。スポーツカーであればあるほど、普段乗りの快適性というのは落ちてきてしまうので、そういうときこそ自動運転があった方がスポーツカーは活きるのではないかと思っています。ゲームとの関係については、現状で『グランツーリスモ』を使って自動運転の開発をされている会社というのは結構あるんですよ。自動運転というものは、実際に実験するのは難しいのでシミュレーションベースでいろいろ実験をしないといけません。一度事故を起こしてしまうとおしまいですしね。僕らが望む望まざるに関わらず、『グランツーリスモ』は自動運転の開発に使われています。おそらく、『グランツーリスモSPORT』もリリースされると、様々な形で自動運転技術の開発に使われるのだろうと思っています。

――10年先まで戦えるという3Dモデルですが、自動車メーカーから使わせて欲しいという声はあるのでしょうか。

山内:そういう話は良くあります。今回の「ステープス」のようなテクノロジーは、自動車メーカーの皆さんにとっても初めてのテクノロジーで、カタログ写真に使うにはすごく向いているんですよね。実際にそういった以来は来ていて、僕らは『グランツーリスモSPORT』を完成させたら業務用向けの『グランツーリスモ』を開発しなければいけないと思っています。

――先ほど話にあがった自動運転の分野へは。

山内:まさに自動運転がそうですね。今は市販されている『グランツーリスモ』をそのまま使って開発しているのですが、例えば車の車速を読むのに実際画面に表示されている車速を画像認識させたりしているんですよ。そういった情報であれば、既存のAPIを通じて外に出すこともできますしね。

――本日はありがとうございました。

【特集】『グランツーリスモ SPORT』は今後20年を見据えたタイトル―山内一典氏インタビュー

《Daisuke Sato》

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