三菱のSUVは「ただの下駄ではない」…エクリプス クロス 開発責任者インタビュー

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エクリプス クロスの開発責任者をつとめた三菱自動車 山内裕司プログラム・ダイレクター
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  • モータースポーツジャパンで国内初披露となった三菱エクリプス クロス
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三菱自動車の新世代商品群第1弾として、久々の完全新型車となる『エクリプス クロス』。今年3月のジュネーブモーターショーでワールドプレミアされ、三菱の新たな一歩を示すモデルとして注目を集めたのは記憶に新しい。クーペタイプのSUVであること、そしてその斬新なデザインは従来の三菱車にはなかったアプローチだ。このエクリプス クロスがいかにして誕生したのか。その経緯、思いを、開発責任者である山内裕司プログラム・ダイレクターに聞いた。

とにかくデザインを最優先

エクリプス クロス最大の特徴はやはりそのデザインにある。『アウトランダー』や『RVR』などで先行採用されている三菱SUVのフロントデザインコンセプト「ダイナミックシールド」はさらに進化。ひと目で三菱車とわかるキャッチーさを持たせながら、彫りの深いサイドデザイン、そして2分割ガラスをそなえるクーペタイプのリアのシルエットは、これまでの三菱車にはないスタイリッシュさを実現している。

このクルマを開発するにあたっては、「とにかくデザインが最優先だった」と語る山内氏。そしてエクリプス クロスのデザインは、単に新型車の目新しさだけを追求したものではなく、「これから先の三菱のクルマを示す、ひとつのキープロダクトになる。そういう思いで開発を進めてきました。ここまで徹底的にデザインにこだわったことは(三菱車では)ないのではないか」とそのねらいを話す。

デザインを最優先するために、設計エンジニア達と衝突することもあった。その最たる部分がクーペSUVデザインを実現するためのリアセクションだ。屋根の後端を低くするクーペスタイルは、外観のスタイリッシュさを表現する一方で、車内からの後方視界を犠牲にしてしまう。だが三菱としては実用性や安全性を犠牲にすることはあり得ないと考えた。後ドアの切り込みの位置や、リアの2分割ガラスの“仕切り”をどれだけ細くできるか、荷室の容量と後席スペースの両立など、「とにかく工夫をして、デザインをうまく実現するためにどうしたら良いかを徹底的に考えた」。

インテリアに関しても、空間サイズ的には「ちょっと狭いと感じるかもしれない」と話す山内氏だが、これを逆手に取って、デザインの力で「包まれ感」を演出した。「できるだけ乗った瞬間にお客様にワクワクしてもらって、早く走りに行きたいっていうのを演出したいと。タッチパッドコントローラやそのレイアウトも、ドライバーのディストラクション(気が散る要素)がないように、徹底的にエンジニア達と喧嘩をしあいました」。

「とにかくデザイン」「徹底的にやった」。この2つのワードを山内氏は繰り返す。そのこだわりは当然、ユーザーに向けられたものだ。

「やっぱり我々三菱自動車は、何かこだわりを持ったクルマをお客様に提供したいというのがあります。ただあればいい、ただ下駄で良い、ではないクルマなんです」(山内氏)

こだわりを持った人たちに、こだわりを持ったクルマを提供する。そうした三菱のクルマ作りの哲学を、エクリプス クロスでは特にデザインに注いだというわけだ。

そのターゲットユーザーについて山内氏は、「日本で言えば、40代後半から50代。子育てが済んでしまって、夫婦ふたりで、遊びにいきたいというような人たち。若いときは子育てをしてミニバンに乗って、自分たちの時間とお金を子どものために費やして来た。だけどやっぱり自分たちが本当に自己表現をするにはやっぱりちょっとガマンしてきたことがあるはずなので、それを一気に開放してあげて、このクルマとともに第2の人生を楽しめるような。そういう人たち」と、明確なビジョンを語った。

SUVへのこだわり

ボディサイズは全長4405mm×全幅1805mm×全高1685mm、ホイールベースは2670mmと、ちょうど『アウトランダー』と『RVR』の中間サイズに位置するが、その立ち位置は決して両車の隙間を埋めるモデルではないという。三菱SUVならではの確かな実用性を持ちながらも、全く新しい世界観・価値観をデザイン提案するモデルだからだ、と山内は説明する。

昨今、コンパクト~ミドルSUVの市場は拡大しており、各社は主力モデルの投入を急ぐ。市場拡大にともない、SUVに対する要求も「本格的なオフロード性能」や「アウトドア用途」から、「オシャレ感覚」「他と違う個性」が求められるようになってきている。だが、『パジェロ』をはじめ本格SUV(あるいはクロカン)を作り続けて来た三菱として、スタイルだけの“なんちゃってSUV”を世に出すという選択肢はない。

「我々の考え方としては“SUVはSUV”だと思っている。SUVというものに対して、基本的にお客様が期待するところは最低限しっかりとこの中に詰め込んで、その上で“よりカッコいいSUV”を作りたいといった方向性がこれなんです」(山内氏)

エクリプス クロスには、特別に技術的なエポックメイキングがあるわけではない。だが、これまでのSUVづくりの中で磨き上げて来た4WD技術(S-AWC)や、クリーンディーゼルエンジンの信頼性、悪路走破性の高さといった元来の三菱の強みを武器に“プラスアルファの価値”を提案する。「やっぱり我々三菱としてSUVにはこだわりがあるので、それを持った上でこういうクーペスタイルというのは、そうそうないんじゃないか」。

技術的に参考にした同カテゴリのSUVとして山内氏は、日産『キャシュカイ』、ヒュンダイ『ツーソン』、キア『スポルテージ』、そしてマツダ『CX-5』を挙げた。ただ技術的なベンチマークとしたものの、実際にユーザーの目線で競合するとは考えていない。「新しい提案をしたいというのが根底にあったので。このサイズ感で、スタイリッシュなSUV、これと真っ向対抗するようなクルマっていうのは、私自身もまだピンときていないですね」と自信たっぷりだ。

三菱再生のフラグシップとなるか

ファンの期待もさることながら、三菱としてもエクリプス クロスへの期待は決して小さくない。それは新規顧客の獲得や市場開拓の使命を担うというだけではない。エクリプス クロスは、2016年に発覚した燃費不正問題以来、初の完全新型車として世に送り出されることになる。特に販売に苦戦する日本市場においては、信頼の回復、再生を示すフラッグシップとなることが求められる。それだけに「プレッシャーはものすごいものだった」と山内氏はふり返る。

「開発の佳境の時期に、問題を起こしてしまった。エンジニア達のモチベーションも下がりました。私にとってもビックリするようなことでしたから。ただそういう意味では逆に、社員、チーム一丸となったというのはあります。ああいうことが起きたからこそ、クルマとしてはすごく誠実に作らなければという気持ちは一層高まりました。そんな中で丁寧にクルマづくりを続けてきました」

4月15、16日に開催された「モーターフェスジャパン」の中で、初めてエクリプス クロスの日本初披露がおこなわれた。ブースに足を運んだ多くの三菱ファンからは「かっこいい」「高級そう」「色がきれい」などポジティブな声が聞かれた。今回の展示車は欧州仕様の左ハンドル車だったが、今年10月に開催される東京モーターショーでは、より市販車に近い日本仕様の右ハンドル車をお見せしたい、と三菱関係者は話していた。

エクリプス クロスは2017年内に欧州での販売を開始、日本では2018年初頭に発売される見通しだ。

《宮崎壮人》

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