【池原照雄の単眼複眼】日産が2020年の商品化めざす“古くて新しい”FCV

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バイオエタノールから発電した電気で走行する新燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」
  • バイオエタノールから発電した電気で走行する新燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」
  • e-Bio Fuel-Cellのコンセプト
  • バイオエタノールから発電した電気で走行する新燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」
  • 日産自動車 坂本秀行副社長
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バイオエタノールを改質して水素を得る

日産自動車が、他社が市販しているタイプとは異なる方式の燃料電池車(FCV)の技術発表を行い、2020年の商品化を打ちだした。サトウキビなどバイオエタノールを水素に改質し、その水素で発電した電気でモーターを駆動する仕組みだ。燃料電池(FCスタック)などのコストが抑制できるほか、燃料供給のインフラも南米などのように、すでに整っている地域もある。日本でどれだけ普及するかは未知数だが、グローバルに見た場合、新たなエコカーとしての可能性を秘めている。

日産が発表した技術は、純粋なエタノールまたは水55%対エタノール45%の比率で混ぜた「エタノール混合水」を燃料タンクに搭載し、これを改質器に投入して水素を得る方式。この水素と大気中の酸素をFCスタックで反応させて発電する。ここから先は電気自動車(EV)と同じで、発電した電気は一度バッテリーに貯め、モーターを駆動して走行する。一般のEVの走行可能距離を伸ばすことができるので「レンジエクステンダー」とも呼ばれる分野だ。実際、この方式だとエタノールを満タンにした状態からは800km程度の航続も可能という。

◆現行FCVとは異なるFCスタックによるコストの優位性

これに対し、トヨタ自動車とホンダが販売を始めているFCVは、燃料の水素を700気圧の高圧でタンクに充てんし、FCスタックで発電する。この電気は一部をバッテリーに回すこともあるが、基本はモーターに直接供給される。つまり、アクセルとFCスタック制御が直結状態になっている。

これら2方式のFCスタックは発電メカニズムが異なっており、今回日産が発表したのは「固体酸化物型」、一方の市販車用は「固体高分子型」。それぞれ長所短所があるが、固体酸化物型は純度の低い水素でも発電でき、タンク(メタノール)→改質器という車載装置で生産が完結する水素も使える。

ただ、「瞬発力のある発電は苦手であり、またスタックは高温と低温を繰り返すので熱疲労の破壊に耐える素材の開発が課題」(日産の坂本秀行副社長)という。高温時には700~800度Cに達するそうだ。だが、これによる利点もある。もう一方の固体高分子型は反応(発電)を進めるため、プラチナという高価な希少金属を触媒に使っているが、固体酸化物型には不要だ。

高圧水素を蓄える高強度のタンクも不要なため、坂本氏は「普通の安い材料を使える」と、コスト面の利点を強調する。また、ランニングコスト(燃費)も、水を混ぜた「エタノール混合水」を燃料にした場合、EV並みという。同社の試算だと、EVはガソリン車のほぼ3分の1のランニングコストとしている。

◆化学プラントのような改質器を車載するのは大変…

このシステムでは、燃料はエタノールだけでなく、都市ガス(天然ガス)なども使える。日産がバイオエタノールにこだわっているのは、環境上の均衡(=カーボン・ニュートラル)を保つと考えられているからだ。つまり、サトウキビなどは生育段階でCO2(二酸化炭素)を吸収するので、エタノールにして燃やしたり、水素に改質したりする際に発生するCO2と相殺されるというものである。

現行のFCVの燃料である水素は、まだ製造過程での環境負荷が決して小さくないという課題もあるので、その点でもバイオエタノールを使う意義はある。

日産による「新しいFCV」という表現もできるこの技術だが、実は、改質器を車に積む方式は、以前からあった。世界の自動車メーカーがFCVの研究に着手して間もない1990年代半ばごろには、内外のメーカーが試作しており、日産もそのころから手掛けてきた。結局「化学プラントのような改質器を車に積むのは大変」(当時の各社の担当技術者)ということで、本命は高圧水素を車載する今のFCVに移った。かつては「大変」だったことを地道に研究してきたことが開花するのか---日産が今夏に体験させてくれるという試作モデル(商用バンタイプ)の試乗が楽しみだ。

《池原照雄》

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