【池原照雄の単眼複眼】三菱自の燃費不正、「体質の問題」で終わりにするのでなく…

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燃費データに不正があったとして謝罪する三菱自動車相川哲郎社長(20日)
  • 燃費データに不正があったとして謝罪する三菱自動車相川哲郎社長(20日)
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  • 三菱自動車 益子修会長(参考画像)
  • 三菱eKスペースとeKワゴン
  • 三菱自動車本社
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不正への経緯を迅速に解明すべき

三菱自動車工業の軽自動車での燃費不正問題は、2014年度に過去最高の業績と16年ぶりの復配を実現して復活への道を歩み始めていただけに衝撃だ。外部からは「体質の問題」などと突き放されそうだが、大多数の真面目に働く社員や取引先のため、経営陣には粘り強く再生への取り組みを進めてほしい。

まずは不正に至る経緯をスピード感をもってしっかり解明することであり、それは同業他社にも、コンプライアンスを徹底するうえで「他山の石以って」ということになろう。

三菱ではこの3月に「企業倫理委員会」が140回目となる会合を開き、その概要はいつものようにホームページでも公開された。同委員会は、2000年と04年のリコール隠し問題を受け、04年6月に検察OBや弁護士、学者らによるメンバーで、役員会の諮問機関として立ち上げられた。以降、毎月会議を開き、その内容の公表が繰り返され、140回を数えたのだ。しかし、狙いであったコンプライアンスの徹底や企業風土の刷新は、十分に浸透しなかったことが今回の問題で露呈した。

◆仏造って魂入れずの「倫理委員会」

今回の問題以前の12年12月にも三菱は、「不具合情報の届け出」が不十分として国土交通省の立ち入り検査を受けている。これは軽自動車のエンジンオイル漏れに関するもので、10年から12年にかけて約176万台と、同社でも最大規模のリコールに発展した問題だった。

この立ち入り検査のころ、問題となっている軽自動車『eKワゴン』(日産自動車ブランドは『デイズ』)は、13年6月の発売を前に、ちょう度、同省による最終的な燃費の検査時期に差し掛かっていたと思われる。リコール問題ではないにしろ、同社の体質が問われたこの時、なぜ燃費の不正から引き返すことができなかったのかとも思う。

04年の企業倫理委員会発足時には「企業倫理担当役員」の任命や部レベルごとに「コンプライアンス・オフィサー」を配置、社員研修なども積極的に取り組んできた。業界でも極めて熱心な取り組みと見てきただけに、重ねて「なぜ?」との思いが強まる。結局のところ、「仏造って魂入れず」に、終わってしまっているのだ。

◆“強い広報”が風通しを良くするのだが

一方、相川哲郎社長らが出席した20日の国交省の記者会見には、本来出席すべき人がいなかった。05年に社長、14年から会長兼CEO(最高経営責任者)になって 瀕死の状態の三菱を復活に導いてきた益子修氏である。文字通り経営の最高責任者が、この危機的状況の場面でステークホルダーとの接点の場、すなわち記者会見に出席しないのは、驚きである(健康上の理由があったのかは確認できていない)。

自動車メーカーのCEOではほかに、日産のカルロス・ゴーン社長、スズキの鈴木修会長らがいるが、日産やスズキでこのような事態になったら、両氏は間違いなく記者会見に臨むはずだ。でなければ、外部から非難が集中するだろうし、社員の落胆も必至だろう。今回の場合、相川社長とのダブルキャストの会見となっても、いっこうに構わないではないか。それほどの事態である。

このようなことは、以前もあったと思い出す。前述の12年12月の国交省立ち入り調査の時だ。当時、益子氏は社長だったが、当然あるだろうと思われたこの件に関する社長会見はついぞ開かれなかった。ここから見えてくるのは、社内での広報セクションの位置付けの弱さや、風通しの悪さだ。

危機管理のカギも握る広報セクションは「社内野党」として、経営層に耳の痛いことを進言できるほどの人材配置や位置付けも必要だ。それが会社を救うことにもなる。経営トップによるメディア対応を誤って事態を悪化させたケースは数多あるではないか。“強い広報”は社内や外部との風通しを良くする。風が十分に通らないと、不正の温床が育まれやすくなる。

《池原照雄》

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