【インタビュー】険しく壮大な道を駆け抜け育まれる、クルマづくりの精神…TOYOTA GAZOO Racing「5大陸走破プロジェクト」

自動車 ビジネス 企業動向
PR
杉田憲彦 実験企画統括室 主査(左)と柳澤俊介 モータースポーツマーケティング部 TGR企画室 国内マーケティンググループ 主任(右)
  • 杉田憲彦 実験企画統括室 主査(左)と柳澤俊介 モータースポーツマーケティング部 TGR企画室 国内マーケティンググループ 主任(右)
  • 2014年の豪州走破プロジェクトの模様
  • 杉田憲彦 実験企画統括室 主査
  • 柳澤俊介 モータースポーツマーケティング部 TGR企画室 国内マーケティンググループ 主任
  • 2014年の豪州走破プロジェクトの模様
  • 2014年の豪州走破プロジェクトの模様

TOYOTA GAZOO Racingは、東京五輪開催年の2020年をひとつのマイルストーンとして「5大陸走破プロジェクト」を展開している。その目的は「もっといいクルマづくり」と、それを支える「人づくり」だ。

始まりは2014年秋に実施した「豪州走破プロジェクト」。参加した従業員自らがステアリングを握り、猛暑の中さまざまな未舗装路や悪路が続く過酷な道のり約2万kmを駆け抜けた。昨年の舞台は北米大陸。その名を“5大陸走破”プロジェクトと改め、約2万8000km、約半年間のプロジェクトを達成した。車両は、1台のみではなく『ランドクルーザー』『ハイラックス』を中心としながら、『86』『プリウス』『カムリ』『カローラ』など数台を、道路環境に応じて使用する。

このプロジェクト立ち上げのきっかけ、走破することで得たものはいかに。そして今後向かう先とは…。実際に参画しているふたりの“トヨタマン”、杉田憲彦 実験企画統括室 主査と柳澤俊介 モータースポーツマーケティング部 TGR企画室 主任に話を聞いた。

◆現地、現物、現実…「三現主義」をまさに体現

----:2014年のオーストラリア(豪州)大陸走破から始まったこのプロジェクトですが、トヨタの社員の方々が数多く参画し、いろいろなクルマを使って走ることが大きな特徴の大陸走破だと思います。まず、発足の狙いについてお聞かせください。

杉田憲彦氏(以下敬称略):「もっといいクルマを」ということを我々トヨタは常に考え続けているわけですが、それはハードとして良ければ、ということだけではないと思うんです。「お客さまの人生のパートナーになるクルマを」と考えた場合に、ハードとしていいことはもちろん、世界各地における販売であったり、アフターサービスであったり、そういうところも良くなければならない。そのためには、実際に各地のお客さまがクルマにどんな価値観をもっていて、どういう使い方をしているのかを我々自身が知り、そこに想いを馳せてクルマづくりをしていきたい。そういうところから始まっています。

----:昨年は北米を走破、そして今年は南米へと挑戦されますが、現在はTOYOTA GAZOO Racing(TGR)としての活動になっています。このあたりの経緯については?

柳澤俊介氏(以下敬称略):14年の時点ではTOYOTA NEXT ONE PROJECTという名称で始まりましたが、昨年TGRに関しての組織変更等があり、(競技系モータースポーツとは)ドライバーと時間軸が違うだけでどちらも活動の根っ子は「道が人を鍛え、クルマを鍛える。」という同じところにあるわけですから、TGRとして一緒にやろうというかたちになりました。

杉田:技術の人間も、技術以外の分野の人間も、トヨタのすべての人間が今以上に「魂の入ったクルマづくり」をできるように、というのが目的ですね。(専門性の高い職域では)視野が狭くなったりもしがちですから、そういうことがないようにもしたい。クルマをお客様の価値観でクルマ全体として感じ、現地、現物、現実のトヨタの三現主義を体現するプロジェクトだと思っています。そこで感じ、考えることで、ボトムアップ的に(もっといいクルマの考えが)もち上がるようなイメージの人材育成でもあります。

柳澤:「どうしてこの地域ではこのクルマが売れるのか」というところを知る、これも目的です。それと、これは私個人の経験談になるんですが、私はマーケティング系の人間なので、最初の年(14年、豪州)は社内の業務上の運転資格の問題で助手席と後部座席だけの体験だったんです。もちろんそれもすごく楽しいですし、貴重な経験だったんですが、自分で運転してみたい気持ちが強くなったんですね。そこで2年目(15年、北米)に向けては社内の資格を取って、実際にアラスカで運転をしました。

----:運転もされてみての実感はいかがでしたか?

柳澤:ドキドキするけど、やっぱり楽しいです。(あらためて)クルマを好きになる、という気持ちが生まれました。杉田が言うようにストイックでスパルタンな主旨のプロジェクトではありますが、シンプルにそういう楽しさも味わえています。

柳澤氏は後輩からも「会社人生が変わった2週間だった」という参加報告を受けるなどしており、「トヨタのなかではクルマづくりとの直接的な距離が遠いと思いがちな我々(技術系以外の社員)ですが、技術系の人たちと一緒に合宿のような時間を過ごすことで、彼らがどういう考え方をしているかを知ることもできました」と、プロジェクトの副次的効果をも実感している。14年が80人、15年が140人という規模の参加(含現地組)だったというが、彼らのクルマづくりへの意識と知識はさらにステージが上がったことだろう。

◆各大陸のクルマ事情を肌で知る

----:実際に現地で感じたなかで、特に印象に残るのはどのようなことだったのでしょう。

杉田:例えば豪州ですと、本当に単調で真っ直ぐ長い道というのが多いんですね。でも道自体は日本より厳しい。そういうところに行くと、「真っ直ぐ走ることほど(クルマにとって)難しいことはない」と気付かされるんです。それと、当然ですが長距離を走っての疲れという要素についても考えさせられます。これは社内のテストコースでは得にくい、感覚の評価尺度ですね。

----:北米ではいかがでしたか?

杉田:アメリカの免許制度は日本とはだいぶ違いますから、我々の常識があちらでは通じない、というようなこともあります。向こうは長い下り坂でもフットブレーキ頼りの運転をする人が多いんですよね。ブレーキがフェードすることを日本人ほど気にしない。ですから、Dレンジでもエンジンブレーキがもっと効くようにしないといけない、でも燃費がわるくなってもいけない、なんてことを我々もずっと考えてきてはいるんですが、実際に現地でのクルマの使い方を知ることで、より真摯にこの状況を受けとめてクルマづくりに反映していかなければ、と思いました。

----:今年は南米に挑まれます。どんなことを期待されていますか。

柳澤:私は技術の人間ではないので、クルマの違いのようなものを深く感じることはできないですが、南米でもランドクルーザーがこれまでの地域と同様に無事まわってくるだろうというところに期待していますね。それと、ランドクルーザー以外のもっとコンパクトなクルマはどんなふうに南米を走ってくれるんだろう、そういう期待もしています。

杉田:いわゆる先進国という地域から、今度は新興国を含む地域に入ります。そこのお客さまはまた全然違うクルマの使い方をしてらっしゃるでしょうから、そこをしっかり学んできたいですね。ブラジルとアルゼンチンでも、まったく違うでしょう。道もたいへん険しいですので、いい走破になると思います。現地でつくられたクルマを使うことも楽しみですね。

◆残すは3.5大陸、さらなる発見に向けて

----:大陸の数え方というのはいくつかの説があるわけですが、今後の走破計画のようなものは決まっているのでしょうか。

柳澤:五輪の5大陸は豪州、南北アメリカ、アフリカ、アジア、ヨーロッパというかたちになりますので、今年の南米が終わって2大陸走破なんです。今後の順番は決まっていませんが、この後は(17~19年で)アフリカ、アジア、ヨーロッパということになりますね。そして、どういう終わり方をするかは、まだノープランです。

----:こういった走破系プロジェクトというのは、ある意味では大昔からあるものです。今、「走りきっただけですごい」という時代とは違うなかで、マーケティング的にはどういうものを目指しているのでしょうか。

柳澤:ファーストプライオリティが内向き(社内人材育成主眼)であることは間違いないですし、それはそう見えて構わないと思っています。100年前からやっていることをトヨタは今もやり続けているんだ、ということでもあると思います。ただ、それに付随してビジュアルの素晴らしさやグローバル感というものを、今(の映像技術等)だから面白い、という見せ方はできると思っています。実際、学生が目を輝かせてこのプロジェクトの映像を見たりしてくれているんですよ。そういうところは同時に伝えていきたいですね。

----:今後の3.5大陸に向けての意気込みをお願いします。

杉田:安全第一ではありますが、だからといって腑抜けた走破では意味がないと思っています。そのあたりを両立しつつ、参加した人間が現地の人間になりきれるような走破にしていきたいですね。

柳澤:自分がそうだったように、あらためてクルマが好き、クルマって面白い、と多くの参加者が思えるようにしていきたいです。そして、お客さまに「トヨタのクルマって、本当にクルマが好きな人たちがつくっているんだな」と思っていただけるようになれば嬉しいですね。

TOYOTA GAZOO Racingというと、どうしてもSUPER GTやWEC(世界耐久選手権)、来年からワークス参戦復帰するWRC(世界ラリー選手権)など、トップモータースポーツでの派手な活躍に目が向きがちだが、トヨタの“普通の”社員の人々が挑戦している、意義深く遠大なプロジェクトもあるのだ。

世界5大陸走破というチェッカーフラッグに向けての長い道のりを、広大かつ勇壮、そして世界中の様々な人々の興味深いカーライフまでもが伝わってくるビジュアルとともに我々も楽しんでいきたい。2020年、世界中から多くの人々が日本にやってくるその時までにそういった知の集積を進めることは、我々、普通の日本人の今後の生き方にも大きなプラスになるのではないだろうか。

《遠藤俊幸》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集