「日本は要素技術は素晴らしいが、新しいものを生み出す力が弱い。多くの企業が産業分野の枠を越えてコミュニケーションを取ることで新しい日本型のイノベーションを打ち出すきっかけを作りたい」
2月24日、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)は高速画像処理技術をベースとした新しいモノづくりへのチャレンジを目的とする組織「WINDSネットワーク」の設立を発表した。ホストの一人である東京大学大学院情報理工学系研究科教授の石川正俊氏は記者会見において、日本の産業は今こそ要素技術型からビジネスデザイン型に飛躍すべきと訴えた。
高速画像処理技術とは、今日の一般的な動画のフレームレートである秒速30コマをはるかに上回るスピードで動画を撮影する技術。近い将来の実用化を目指しているハイエンドスペックは、現行品の30倍以上にあたる秒速1000コマであるという。
応用範囲は幅広い。クルマでいえば、秒速30コマの場合だと100km/h巡航時に1コマあたり1m走り、情報が飛び飛びになるのに対し、秒速1000コマなら3cmとほぼシームレス(つなぎ目なし)になり、大事な目標を見失うことなく正確にトラッキング(追跡)できる。先進安全システムや自動運転システムのコンピュータが的確な状況判断を下すためのベースとなる情報収集能力が飛躍的に上がるのだ。応用範囲はクルマだけでなく、工場における品質検査の高速化、遠隔操作による手術、セキュリティシステムにおける個人識別、ロボットの視覚向上、果ては軍事など、枚挙にいとまがない。
日本企業は得てして、秒速1000コマのイメージャーを作るようなことは得意だったが、それを使って自分でアイデア商品を考案することについては手薄だった。先進的な要素技術を生み出すことで満足してしまい、それを価値ある商品に仕上げた海外勢に逆襲を食らって沈没するというのが、ここ10年ほどの日本の負けパターンとして定着してしまっている。このことについて、日本企業や政府は強い危機感を抱いている。WINDSネットワークは、そのパターンを打ち破るためのトライのひとつなのだ。
ネットワークへの参加企業・団体は会長企業のソニーをはじめとするデバイスメーカー、日産自動車などデバイスの利用者側に立つセットメーカーやサービス事業者、東京大学ほかの研究機関など。立場や産業分野の壁を越えてコミュニケーションを取ることがデザインを生むという考え方で運営していくという。NEDO電子・材料・ナノテクノロジー部の山崎知巳氏は参加企業・団体数について、300を当面の目標とすると語った。
要素技術開発力の高さという自分の強みに溺れ、時代の変化を見ずにそれに延々としがみつくという日本の悪癖を打破するという意味では面白い試みだが、人間の本質はそうそう簡単には変わらない。皆が変化に殺到するには、行動する勇気をふりまく劇的な成功例が必要だ。果たしてWINDSネットワークはそのリード役となれるか。