【マツダ デミオ 試乗】言い訳不要のコンパクトカー、中距離走行で知るその実力…高山正寛

試乗記 国産車
マツダ デミオ XD ツーリング Lパッケージ
  • マツダ デミオ XD ツーリング Lパッケージ
  • 高山正寛氏
  • マツダ デミオ XD ツーリング Lパッケージ
  • マツダ デミオ 鹿児島試乗会
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  • マツダ デミオ 13S

マツダはメディア向けの中距離試乗会を、鹿児島にて開催した。もはや「恒例」とも言える本試乗会は2012年の『CX-5』から始まり4度目となるが、その地に持ち込まれた今回の主役は国産Bセグメントで今、最も勢いのある新型『デミオ』である。

試乗したのは、一般路からワインディングロードなど巧みに設定されたコース。往路は起点となる鹿児島のホテルから指宿へ、翌日の復路はこの逆だ。ホテルでは試乗前に簡単なプレゼンテーションが行われたが、昨年の9月11日に予約を開始してからその後の販売はマツダの販売規模から考えても極めて好調と言える。実際月販目標台数5000台に対し、3ヶ月で約3万5000台の受注が入っているという。元々昨年10月末の段階で約4倍の受注が入っており、その際のディーゼル車の比率は63%、頻繁にマツダの関係者に話を聞くと「ディーゼルの比率は予想より高い」と皆、口を揃えて言うのだが、これは謙遜している部分もあるだろうし、ガソリンもしっかり売れてくれないと困る、という意識の裏返しだろう。

忘れてはいけないのが、デミオの販売が始まった9月26日はガソリン車のみ、ディーゼル車は10月23日、さらに言えば4WD車は12月から発売を開始している。つまり初期のユーザーの多くは試乗をすることもなく、ディーゼル車をオーダーしたことになる。まあこれが良いか悪いかに関しては議論の分かれる部分だが、すでにCX-5、『アテンザ』、『アクセラ』で高い評価と実績を打ち出している「SKYACTIV-D」が日本における新時代のディーゼル文化を創出したようにブランドとしての認知度向上なども含めた上での期待の表れだと思っている。

◆XDは大人3人乗車も余裕のトルクを発揮

往路となる1日目に用意されたクルマは「XD ツーリング Lパッケージ」の6AT仕様、ここまでは別に驚かないのだが、この試乗車は何と4WD車である。前述したように12月から発売を開始した4WDグレード、昨今はスタッドレスタイヤの著しい性能向上があるものの、降雪地などでは4WDのニーズは高い。過去、6代目『ファミリア』で日本初のフルタイム4WD車をラインナップするなど、技術的なブレークスルーを果たしてきたが、正直その後は低迷。しかし社内的に「第6世代」と呼ばれるモデルから前輪スリップ予知検知機能などを搭載した電子制御式を採用することでマツダとしてはこの分野でも一気にレベルアップさせたい狙いがある。

試乗に際して何よりも気になるのが車重増による加速フィーリングなどの低下だ。FF車に比べ大人1名+αに該当する90kg増、さらに今回の試乗は編集担当、カメラマンを含め常に3名乗車とコンディションは決していいものではない。しかし…だ。この部分もデミオは良い意味で大きく期待を裏切る。何よりもディーゼル&過給器による最大トルク25.5kgm/1500-2500rpmの恩恵が大である。もちろん自分が望む加速領域に達するためにはスロットルはやや多めに開くことなる。しかしトルクの大きさはもちろん組み合わされるATのキレの良いシフト制御により一番難所と思われた指宿スカイラインも余裕で駆け上がる。

一方下り坂ではディーゼル車のフロントヘビー感が若干ではあるが和らぐ印象。前述の電子制御4WDシステムは操舵力やスリップ量などからも後輪への駆動力を配分する構造になっているが、FF車に比べるとインへの入りがスムーズ、駆動力の変化を感じ取ることはさすがにできないが、前後の重量配分と駆動力コントロールは十分利いているはず。そういう点では安全のための単なる“生活4駆”は言うに及ばず、走りのためにも効果があることは乗りこなすことでさらにわかってくるのだろう。

◆走りの質を上げた、“元祖”SKYACTIV

2日目の復路はガソリンエンジンを搭載する13Sの6AT仕様。最廉価の13Cに比べるとSRSカーテン&フロントサイドエアバッグやSCBS(スマートシティブレーキサポート)など10以上の安全&快適装備が付く。価格差もこれだけ付いて10万8000円しか違わないのだから実際購入を検討する時はここがスターティングプライスと考えるのが妥当だろう。

正直に言えばどうしてもデミオの場合、ディーゼルエンジンに注目が集まってしまう。前述したように実際の販売もディーゼルの比率の高さは圧倒的だ。しかし、元々旧型デミオで14.0という高圧縮比を達成したSKYACTIVの“元祖”と言えるこのガソリンエンジン。大きな改良を施すことで単なるスペック上での比較以上に走りの質を上げているのだ。そのキモとなる部分で気に入ったのはやはりATである。旧型のCVTは確かに燃費という点では高効率の部分をピンポイントでミートさせやすい。しかしCVTのある意味アキレス腱である回転と実際の加速フィールの乖離(かいり)だけは性能が向上していても付きまとう。

改良を受けた1.3リットルガソリンエンジンは燃費性能においては数値的には確かに落ちている。しかし試乗した印象では実用燃費の落ち込みは少ない。それよりも得られたのは実用的なトルクの出方とダイレクトな走りのフィーリングである。ワインディングロードでは常にトルクの美味しい部分にギアを適切にシフトダウン、シフトチェンジのキレの良さは昨今人気のDCTにも迫るものだ。またロックアップ領域も拡げられていることで定常走行時の燃費向上にも寄与している。またディーゼルエンジンより約100kg軽いことによるターンイン時の軽快さもガソリンならではの味わいだろう。

ここまでは内燃機関を中心に語ってきたわけだが、走りのフィーリングというものそれだけではない。それが顕著に現れているのが室内、特に旧型より+20mm右側にオフセットしたペダルレイアウトやフロントシートの出来の良さだろう。ここでは多くは触れないが、マツダ車としても初となる振動吸収ウレタンの採用や座面の前端部の形状の改善などアクセラのフレームを使いつつ、新基準となるシートを作り上げたのは見事。座った感じは身体にじわーっと馴染む感じが気持良い。食べ物で言えば「モチモチ」っとしているのである。

◆後席シートとマツダコネクトには改善の余地あり

一方で、期待も込めて改善してほしい部分がある。これだけ秀逸なフロントシートに対し、後席シートはこれだ! という工夫が感じにくい。もっと言えば何故、アシストグリップがないのか。後席に試乗して感じたのはここだったりする。

また最後に自分の専門領域のひとつであるナビゲーション、つまり「マツダコネクト」についてもお願いと期待をしておきたい。アクセラに採用された時から色々と不評が出ており、それでも真摯な対応と改善により、現在のバージョンでは大分良くはなった。しかし、まったく地の利のない筆者がナビを見て確実に目的地まで行くにはまだまだ改善しないと実用性という面でも厳しい。また「これはまいった」と思ったのがAM/FMチューナーを操作した時に放送局名が表示されないのである。FM局は試乗エリアに3局表示されたが、どこの局なのかがわからないのは何とも心許ない。

とは言え朗報もある。先の事は未定なので無責任なことは言えないが、すでに大改良を行なったCX-5とアテンザ、そしてニューモデルである『CX-3』に搭載されるマツダコネクトにはOSのバージョンがまったく新しいVer.51.00.500が採用されている(ナビも日本製に変更、実用性は大きく向上している)。元々マツダコネクトは共通のアーキテクチャーを採用しているわけだからシステムのアップデートも行えるはず。ユーザーの声はしっかりマツダには届いている。現行ユーザーも含め、この部分がもしネックになっているのであれば、期待して待つことにしよう。

最後にこの試乗を通じて感じたことはまだまだ改良の余地はあるにせよ、主査の土井歩氏が「クラスレスを実現する」と言っていたことは十分達成されているということだ。個人的にはコンパクトカー「だから」と「なのに」という言い訳はデミオの前では不要だということ。このクラスではまず最初に薦めたいクルマと言える。

《高山 正寛》

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