2015年1月12日に開幕したデトロイトモーターショーにおいて、ホンダの新型『NSX』がアンヴェールされた。その会場においてチーフエンジニアであるテッド・クラウス氏に話を聞くことができた。
今回のNSXの特徴は、開発に関して日本ではなく北米が主導しているところにある。そこで、クラウス氏は、どのような思いで開発を進めてきたのであろうか?
「ちょっと変に聞こえるかもしれないけれど、私は本田宗一郎さんに会ったことはありませんが、彼が亡くなったときに日本にいました。そこで彼のパッションを感じました。宗一郎さんは普通の日本人ではありません。それが私の経験になっています」とクラウス氏は、最初に創業者・本田宗一郎氏からの影響を述べた。
「開発に対するプレッシャーは、いろいろあります。貴方のようなジャーナリスト。そしてホンダやアキュラのディーラー、そして実際にクルマを買うお客様から。ファン・ミーティングなどで、実際のNSXオーナーに会ってもプレッシャーを感じます。また、会社の役員からのプレッシャーもあります。ただし、役員の期待とお客様の期待は、まったく違うものです。お客様が夢としていることを与える。そちらの方が、もっと大きなプレッシャーでした。役員が満足しても、お客が不満足では最低ですからね」
では、これまでのNSXファンを満足させるものとは、一体、どのようなものなのだろうか? クラウス氏は、新型の特徴も「初代のNSXと狙いは同じです」と言う。
「NSXの何がユニークかというと、パフォーマンスが誰にでも手に入るところです。クルマのためではなくドライバーのためにパフォーマンスがあります。もしも、クルマにパワーがありすぎてトラクションをかけるのが難しくなるようでは、我々の車ではありません。じゃあ、“運転が簡単すぎるよ!”と思うかもしれませんが、逆に“なんでそんなに運転の難しいクルマが欲しいの?”と思います。そこがNSXの特別なところ。ライバルと違って、普通の人が普通の道で日常的に使える。イージー・トゥ・ドライブができる。そして、その上でエキスパートなドライバーでも運転していて楽しいことが大事です」
エキスパートなドライバーとしてクラウス氏は、故アイルトン・セナ氏のエピソードを持ち出した。
「彼が初代のNSXに乗ったときは“僕はF1ドライバーなので、こうしたクルマに意見を言うのは関係あるかどうか分からないけれど、でも、これはリヤの剛性を高めるといいんじゃないかな”と言いました。つまり、イージー・トゥ・ドライブやコンフィデンス(信頼感)、ダイレクト・レスポンスがドライバーのためにあることが大事だと思います」とクラウス氏。
クルマではなく、あくまでも人のためのパフォーマンスであること。ホンダの哲学である「マンマキシマム・マシンミニマム」に通じる人間優先の考えだ。クラウス氏の話を聞くと、それが新型NSXにも貫かれていることが分かった。