【池原照雄の単眼複眼】グローバル生産支える…日産最古参「追浜」の生き方

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日産追浜工場 グローバルトレーニングセンター(塗装の実習)
  • 日産追浜工場 グローバルトレーニングセンター(塗装の実習)
  • 日産追浜工場 グローバルトレーニングセンターの実習風景
  • 日産追浜工場 グローバルトレーニングセンター(米国工場からの研修生)
  • 日産 松元史明副社長

9年で900人超のマスタートレーナーが巣立つ

1961年(昭和36年)に操業し、日産自動車の車両工場で最も歴史のある追浜工場(神奈川県横須賀市)が車両生産だけでなく、海外で展開する工場の人材育成や量産試作をサポートする「マザープラント」としての存在感を高めている。生産から物流、品質保証、設備保全に至る各分野のトレーナーを育成するなど、NPW(日産プロダクションウェイ)と呼ぶ同社の生産方式を世界に効率的に移植しているのだ。

追浜工場が車両生産以外の“母工場”としてのタスクを背負うことになったのは2005年からで、人材育成の「グローバルトレーニングセンター」や、世界各地での工場や新モデル立ち上げを支援する「グローバルパイロットライン」などが動き出した。人材育成では各拠点でのトレーナーの教師役となる「マスタートレーナー」を実習や座学で養成しており、この9年間で910人が巣立った。

マスタートレーナーは海外で23に及ぶ教育施設の「拠点トレーナー」の育成に当たる。こうした仕組みにより、工場要員の育成は「従来の直接指導に比べて20倍のスピードになった」(高橋徹追浜工場長)という。9月8日に取材した際には、日産だけでなく仏ルノーが中国・武漢市に16年に開設する新工場の要員十数人も受講中だった。

日産とルノーは今年4月から「生産技術・物流」など4事業分野の統合強化に踏み出している。その一貫として、生産要員の育成でも両社の垣根を取っ払った格好だ。世界各地の工場立ち上げを事前の検討で支援するグローバルパイロットラインの役目も大きい。休止した追浜工場の量産ラインを活用して新設する海外工場のラインを再現。その工場要員も参加したうえで、3000項目以上を事前検討し、スムーズな生産立ち上げをサポートしている。

業界最高8割の海外生産をサポート

日産の13年度のグローバル生産は、過去最高の508万台(前年度比6%増)だったが、このうち海外が408万台(9%増)で、その比率は80%となった。前年度の78%から2ポイント増え、ここ数年、自己記録を更新し続けている。13年度の日本メーカー全体の海外生産比率63%を大きく上回り、断トツとなっている。

同社は現在、16年度を最終年とする6カ年の経営計画「日産パワー88」を推進中であり、同年度までに世界で8%の販売シェア確保を目標に掲げている。同社の集計による13年度の世界シェアは6.2%であり、今後3年間で1.8ポイントの増加という高い成長が求められている。その裏付けとなる供給力強化(=生産能力増)は世界各地で進められているが、10年から13年初めにかけての超円高を背景に、新設能力は全面的に海外となっている。

13年11月には、この国の自動車産業をけん引しているメキシコで、アグアスカリエンテス第2工場(アグアスカリエンテス州)を稼働させた。同社にとってはメキシコ3番目の工場であり、フル稼働時の年産能力は17万台。これにより同国での能力は、従来の年68万台から85万台に拡張され、メキシコトップの生産能力をさらに高めている。

これに対し、13年度の日本での生産は、生産部門担当の松元史明副社長が「追浜で人材育成や新工法開発などを行うために必要な最低ライン」と位置付けている100万台(前年度比6%減)ちょうどだった。超円高下で進めてきた一部モデルの海外移転もあり、国内の数量はここ数年100万台レベルの頭打ち状態となっている。

草創期の“超ベテラン”に衰えぬ存在感

パワー88の実現にはさらに大幅な能力増強が必要であり、筆者の試算では13年度比で200万台レベルの増強がなければ、シェア8%もおぼつかなくなる。このため、14年度以降も新規海外工場の稼働が相次いでおり、5月にインドネシア、7月にはタイでそれぞれの第2工場が操業を始めた。いずれも年15万台の大型投資であり、既存工場を合わせたフル稼働時能力はインドネシアが同25万台、タイが37万台となった。

追浜工場の車両生産能力は現在年24万台。ただ、国内生産変動のバッファー拠点ともなっており、13年度の生産実績は『ジューク』など4モデルで12万台にとどまった。それでも、年間延べ500人の要員を海外工場のサポートに派遣、逆に世界の生産拠点からは受講生が集う工場ならではの活気が伝わってくる。

1959年に初代『クラウン』のためにトヨタ自動車初の本格乗用車工場として稼働した元町工場(愛知県豊田市)も、03年から海外生産を支援するグローバル生産推進センター(GPC)を併設している。久しぶりに追浜工場を取材し、日本の自動車産業の草創期を支えたこれら“超ベテラン”の存在感はいまだ衰えず―との印象だった。

《池原照雄》

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