【ホンダ 除雪機シリーズ 試用】20年ぶりの東京大雪で痛感した文明の利器の威力…井元康一郎

自動車 ビジネス 企業動向
小型除雪機でも威力十分
  • 小型除雪機でも威力十分
  • 投雪装置で雪を遠くに吹き飛ばす
  • 会場の湯沢ニューオータニホテル。背後には今日では珍しいスキー専用ゲレンデが。
  • 大型除雪機でオーガの姿勢保持のパフォーマンス
  • 正逆転構造のクロスオーガ。定点運転でも硬い雪をどんどん粉砕する。
  • 大型除雪機のスケール感
  • 深雪も表面をスライスするようにどんどん除雪できる。
  • 横から見た時の除雪イメージ

雪国の生活必需品のひとつ、除雪機。トップシェアのホンダがその体験試乗会を越後湯沢で行ったので、使用感などをリポートする。

◆まずはオーガ(集雪装置)を搭載の小型ロータリー除雪機で小手調べ

会場は湯沢ニューオータニホテルの駐車場。雪がたっぷり降り積もっており、いかにも除雪し甲斐がありそうな雰囲気。最初に試したのは、螺旋状の刃が雪をガシガシと削るオーガ(集雪装置)を搭載した小型ロータリー除雪機。従来型の除雪機のほか、一対の刃が逆位相で回る新システム「クロスオーガ」を搭載した性能増強型も持ち込まれていた。

まず、そのクロスオーガ機をドライブ。筆者の故郷鹿児島では大雪はまれにしか降らず、今ほど世の中が忙しくなかった昭和時代は雪が積もっても除雪しないで溶けるのを待つという土地柄。ゆえに除雪作業自体が新鮮だったのだが、除雪機のパワーはまさに文明の威力と呼ぶにふさわしいものだった。

エンジンをかけ、刃のクラッチを接続。レバーを少し前進の方に倒すと、キャタピラーが回り、前進を始めた。突っ込んでいったのは深さ50cm以上はあろうかという固く締まった雪原だったのだが、雪壁で止まるかと思いきや、半ば氷と化した雪をガリガリガリと粉砕し、それを投雪口から壮絶な勢いで遠くに投げ飛ばした。

その先のもっと深いところに行くとさすがに止まってしまったが、本田技術研究所の開発スタッフが「そういう時には雪面に乗り上げて除雪して、バックしてからさらに下を削ればいいんですよ」とアドバイス。それに従ってやってみると、小型機でも深雪をちゃんと処理できた。体感的には人間が1時間、汗水たらしてやるくらいの作業を1分もかからずにこなすくらい。必需品と言われるわけだと腑に落ちるものがあった。

◆取り回しの良さが特長のハイブリッド除雪機

次にハイブリッド除雪機。オーガの刃の回転をエンジンで、キャタピラー駆動は電気モーターで行うというもので、「昔はネットの検索サイトで“ホンダ ハイブリッド”と入れるとハイブリッドカーより上に除雪機が出てきた」(本田技術研究所のエンジニア)というくらいメジャーなものなのだそうだ。

オーガの刃をフルパワーで回しながら、そのエンジン回転数に左右されず微速前進&後退が可能。さらに左右キャタピラーが独立駆動できるため、戦車のように定点旋回できるなど、取り回しの良さも特徴とのこと。実際に操作してみると、前進、後退を繰り返して切り返さずとも自分の行きたいところに除雪機を走らせることができる。便利なものだ。

◆1時間で140トン除雪できる大型機は操作に相応の訓練が必要

3番めは1時間あたり最大140トンの雪を処理できるという大型除雪機。除雪機のキャタピラーが雪に乗り上げ、車体が斜めになってもオーガが自動的に水平を保持するといった多彩なオーガアシスト機能を搭載するハイテク機だ。操作パネルには建機のような左右独立のキャタピラー制御レバー、オーガ操作レバー、除雪機のスピードが適正かどうかを示す速度ガイドモニターはじめいろいろなインジケーターが並ぶなど、宇宙戦艦ヤマト的な萌え要素を感じさせられるものがあった。

操作の難易度の高さは、やはりこの大型機がナンバーワンだった。可動部や運転モードが多いので当然といえば当然なのだが、雪への乗り上げ時など、姿勢の乱れた状況でも効率のよい作業をやるには、かなりのコツが必要なようだった。このマシンでは積雪1mを超えるようなところの除雪もちょっとだけ試したのだが、オーガの刃は立っても人間のスキル的に歯が立たない。南国生まれの人間がニワカ仕込みで上手くこなせるようなものではなかった。

◆ブルドーザーのように雪を押す「ユキオス」

最後に操縦したのはブレード除雪機「ユキオス」。ダジャレの入ったネーミングから想像可能であろうが、ブルドーザーのように雪を押して片付けるタイプだ。

折しもこの試乗会が行われた直後、東京は20年ぶりの大雪に見舞われたが、そのときに「これがあったらどんなに楽だろうな~」と頭に浮かんだのが、このドーザー式ブレード除雪機だった。いくらキャタピラーが回っていても、ちょっと押す雪が増えたら空転してしまうのではないかと思われたのだが、実際に使ってみると、溶けかけて重くなった雪をモリモリと地面から剥がし、雪を集める場所に押しやることが可能。使っていいかどうかは確認しなかったが、除雪だけでなく、ちょっとした日曜大工の土木作業や枝集めにもあったら便利だろうなと思われたほど。

この除雪機シリーズの開発は本田技術研究所の汎用機部門が手がけている。「除雪機開発チームに配属されると、まず『そこのスコップで敷地のどこそこを除雪してこい』と言われるんですが、これがメチャクチャ疲れる。寒い中、くたくたになりながらようやく除雪を終えて帰ると、『お疲れ様。次からは除雪機を使っていいよ』と言われる。で、それを使ってみると、あまりの便利さに感動する。除雪機開発エンジニアのキャリアはそこから始まるんです」(除雪機開発エンジニア)

普段は南国鹿児島はもちろん、東京でも雪の苦労を経験することはまれだが、雪国の冬においてはこれが日常であるということに思いを致すと、除雪機の有り難みが身にしみて感じられたドキュメントであった。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集