【インタビュー】軽自動車ユーザーにこそ伝えたい、スパークプラグのチェック・交換が必要な理由

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お話を伺った日本特殊陶業(NGK)のアフターマケット技術サービス室主任の所慎司氏。技術畑出身とのことで、非常に理論的に分かりやすく、説得力のある説明をした頂いた
  • お話を伺った日本特殊陶業(NGK)のアフターマケット技術サービス室主任の所慎司氏。技術畑出身とのことで、非常に理論的に分かりやすく、説得力のある説明をした頂いた
  • 摩耗したプラグ。これは極端な例なので、電極の隙間が大きくなってしまっていることがよく分かる。また、角張っているはずの電極が丸くなってしまっている。
  • 摩耗したプラグ。これは極端な例なので、電極の隙間が大きくなってしまっていることがよく分かる。また、角張っているはずの電極が丸くなってしまっている。
  • 正常な放電の様子。中心電極から外側電極に一直線に火花が散っている。空気という絶縁体を「絶縁破壊」することで火花が飛ぶ。
  • 摩耗したプラグの異常な放電。ガイシの外側を這うように火花が飛んでいる。摩耗した電極に加え、燃焼室内の高圧力で絶縁破壊が起こりにくくなり、このような現象が起きる。
  • スズキ車に採用例が多いという「片貴金属プラグ」。中心電極に貴金属を用いることで電極を細くし、着火性を大幅に向上させているが、寿命は一般のプラグと同じだ。
  • これは両貴金属プラグ。外側電極をよく見ると、貴金属が溶接されているのが分かる。片貴金属プラグにはこれがない
  • NGKのプラグの場合、品番に「P」がつくのが長寿命の両貴金属プラグだ。

驚異的な低燃費や小排気量での高出力化など、最近の自動車用エンジンは目覚ましい進歩を遂げているが、それを影で支えているのがスパークプラグだ。そのメンテナンスの重要性は、特に小排気量のうえアイドルストップなどの機能のために高い負荷がかかる軽自動車で特に高いのだが、今ひとつ認知が進んでいないという。

◆スパークプラグはエンジン回転数に比例して劣化する

スパークプラグといえば、かつてはエンジンのメンテナンスで最初に点検するポイントだった。しかし、現在では見たこともないという人がほとんどだろう。メンテナンスフリー化が進んだ恩恵だが、しかしスパークプラグは宿命的に消耗するパーツであり、定期的な点検と交換は欠かせない。ところが、そのことが正しく理解されていない状況があると所氏は指摘する。その顕著な例が、軽自動車こそスパークプラグの点検、交換が重要だという事実が、あまり知られていないことだ。スパークプラグのトップブランドである日本特殊陶業(NGK)のアフターマーケット技術サービス室主任、所慎司氏にプラグメンテの重要性を聞いた。

「軽自動車は排気量が小さいですから、必要なエンジンのパワーを発揮させるには、エンジンの回転数を上げてやる必要があります。登録車と軽自動車が同じ速度で走っているとしたら、軽自動車のほうがよりエンジンの回転数が高いわけです。一方、スパークプラグはエンジン内の燃焼ごとにスパーク、放電をしていますから、回転数の高い軽自動車のほうが当然、燃焼回数が多く、スパークプラグの放電も多い。つまり、軽自動車のスパークプラグの消耗が大きいのは、単純に放電する回数が登録車よりも多いためです」。

消耗パーツというと、走行距離に比例して劣化するイメージがあるが、厳密にはそうでない場合も多く、スパークプラグもそれに当てはまる。点検時期の判断などおおまかな意味では走行距離に比例すると考えても差し支えないが、実際には走行距離ではなくエンジンの回転数に比例して劣化するのだ。高い回転域を常用する軽自動車はスパークプラグにとって厳しい条件が数多く揃っている。

◆軽自動車は1年1万キロで点検を

では、どのくらいのインターバルで点検し、交換したらいいのか。軽自動車に関しては1年1万キロでの点検実施をおすすめしているという。登録車では2万キロなので、軽自動車は2倍もスパークプラグの摩耗が激しいわけだ。ちなみに、軽自動車よりもさらに高回転を常用する二輪車では5,000キロが推奨されている。

ただし、走行距離はあくまでも目安だ。エンジンのかかりが悪いとか出足が悪い場合などはその都度、点検した方がいい。また、所氏は最新の自動車によく装備されている燃費計に着目し、いつもより燃費が悪くなったな、と思ったら点検するべきだとしている。

かつてはプラグの点検くらい自分でやりましょうと言われたものだが、今の自動車ならディーラーに依頼するべきだろう。点検のタイミングを厳密に考える必要はないので、何かの用事でディーラーに行った時についでに、ということでも大丈夫だ。

点検とはどんなことをするのか参考までに紹介しておくと、スパークプラグを取り外して目視による点検、およびギャップゲージによる電極の間隔の測定がメインになる。愛車のコンディションに関心をもつべきという意味では、取り外したプラグを見せてもらうのもいいだろう。交換が必要なほど消耗している場合、電極のエッジが丸くなっているように見える場合もある。

◆プラグの劣化で燃費が悪化する理由

もう一つ、多くの人が気になるのは、もし点検や交換をしなかったらどうなるのか、ということではないだろうか。よく知られているのが燃費の悪化やパワーダウンだが、これを信用していない人も多いかもしれない。エンジンが回っているならスパークプラグは放電しているのであって、つまり正常に働いている証拠。燃費悪化といった中途半端な影響など起きない、という考えだ。しかし、これは全くの間違い。

「スパークプラグは摩耗によって電極の距離が大きくなり、そのために放電しにくくなります。最悪は放電できない状態になりますが、実際にはなかなかそこまではいきません。しかし、そこまでいかなくても、非常に良くない現象が起きるのです。この写真を見てください。火花が正常に飛んでいないことがよくわかると思います」。

そう言って所氏が見せた写真は衝撃的だった。火花が本来飛ぶべき外側電極の方向ではなく、まったく逆の方に飛んでいる。これがどういうことなのか、所氏はスパークプラグを交換する大切さを非常に説得力のある形で説明してくれた。

「こういった異常な火花でもエンジンは回りますが、燃焼のタイミングが遅れます。正常な火花に比べて着火性が悪いため、混合気に火がつくのが遅くなるんです。現在のエンジンは点火タイミングを非常にシビアにコントロールしていますから、それが予期せずずれてしまうことは影響が大きい。火花が飛んでいれば、車は走ることは走るんですが、排気ガスが汚くなったり、パワーダウンが起こります。パワーダウンすれば同じパワーを得るのによりアクセルを踏み込むので、燃費も悪化します」。

◆イリジウムプラグ=長寿命ではない

もうひとつ、最近の自動車オーナーが少し勘違いをしていることがある。「イリジウムプラグは長寿命で頻繁な交換は必要ない」という誤解だ。「オレの愛車はイリジウムプラグが新車装着されてるから交換なんて必要なし」と思っている人は、もう一度確認してほしい。

実は、イリジウムプラグには2種類あるのだ。中心電極と外側電極の両方にイリジウムを使っている「両貴金属プラグ」と、中心電極だけにイリジウムを使っている「片貴金属プラグ」である。両貴金属プラグは確かに長寿命で、軽自動車で5万キロ、普通車で10万キロも交換の必要がない。しかし、片貴金属プラグの場合、点検、交換のインターバルは通常のプラグと全く同じだ。

最近の例では、軽自動車の新型車の一部に片貴金属プラグが採用される例があるという。この種類のスパークプラグは長寿命というメリットこそないものの、中心電極が小さいことによる着火性の良さなど、寿命以外の面では通常のプラグをあらゆる面で上回る。その性能の高さとコストのバランスから、ライフを犠牲にしてでもこのプラグを採用しているのだろう。

愛車の購入後、1度も交換していないというのなら、寿命を見極めるという点でも点検は必要だ。自分の愛車がどちらのプラグを使っているかわからなければ、とりあえず点検してもらうのが無難。どちらのプラグかは型番からもわかるし、電極を直接見ることでもすぐに見分けが付く。また、NGKなどのプラグメーカーのウェブサイトでも型番検索ができる。

《山田正昭》

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