「ITS GREEN SAFETY SHOWCASE」ではいくつかの車両に試乗したが、ITSスポットサービスの取材に使われた車両は、燃料電池ハイブリッドバス「FCHV-BUS」だった。
同車両は、トヨタと日野自動車が共同で開発したもので、高圧水素タンクからモーターに至るまでの燃料電池システムはトヨタが開発を担当し、バス本体は日野自動車が手掛けた。ベース車両は大型路線バス日野『ブルーリボンシティ』だが、ライト/ウインカー類、フロントウインド、アウターミラーなどは同社の大型観光バス『セレガ』用にリプレイスされていた。乗車定員が26人と少ないのは、都心部と羽田空港を結ぶリムジンバスとして使われていた車両と同じ車内配列をとっているためだ。
全長10,610mm、全幅2490mm。全高は高圧水素タンクを搭載するため、ベース車両より395mm高く3360mmとなっている。固体高分子形のトヨタFCスタックを搭載し、35MPaの高圧水素タンク5本を搭載。109PSを発揮するモーター2基によって、最高時速は80km/hを誇る。
パワー/トルクともに数値だけでいえばベース車両の7.8リットルディーゼルエンジンに若干劣るが、重量がかさむ大型車(ベース車両のGVWは13t程度)では最高出力や最大トルクよりも低速域でのトルクが加速力を大きく左右する。取材では、都市高速道路のランプに多い5%以上の勾配路にも遭遇したが、スペック的にディーゼル車の半分程度となるトルク(26.5kgf・m×2)とはいえ、そこはモーター特性をいかんなく発揮し力強い走りを披露してくれた。ドライバー曰く「動力性能にはなんら不足なく、これなら路線バスにも十分に使える」という。
筆者も大型トラック/バスドライバーの一人だが、路線バスに求められるストップ&ゴーが連続する走行シーンでも、トルク変動による車体の前後ピッチングがほぼ皆無であるため、ドライバーの疲労度が少ないばかりか、立席の乗客(座っていない乗客のこと)にも優しい走行特性をもっていることがわかった。静粛性については、インバーターとFCスタックなどが発する高周波音が盛大に入り込むなど、乗用車のEVや燃料電池車よりも劣ってしまうが、もともとロードノイズが大きい路線バスであるため、30km/h以上では高周波音はかき消されてしまい正直、あまり気にならなかった。
今後は、水素供給・利用技術研究組合(HySUT)との連携を追い風に、水素ステーションの充実が図られることで、路線バスとして活躍する日も近いだろう。もちろん、普通車と違って事業者向けとなるため、車両本体価格の大幅な低下が望めなければ普及は程遠いものの、この「FCHV-BUS」がそうであるように、燃料電池であれば普通車とパワーユニットの大部分を共有するこという内燃機関では考えられなかった新しい道が拓けるため、早期実現の可能性は十分にある。まずは、2015年頃に市販されるトヨタの燃料電池車(セダンボディ)に期待したい。