「準備書」から読み取る中央新幹線6駅のプロフィール

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旧試験車のMLX01で走行試験が行われていた頃の山梨リニア実験線。線路施設はほぼそのまま中央新幹線に転用される。
  • 旧試験車のMLX01で走行試験が行われていた頃の山梨リニア実験線。線路施設はほぼそのまま中央新幹線に転用される。
  • 品川駅の東海道新幹線ホーム。中央新幹線の東京都ターミナル駅はこの下に建設される。
  • 起点の東京都ターミナル駅は品川駅の地下に設置される。
  • 東京都ターミナル駅の横断面図。東海道新幹線ホームのほぼ真下に建設される。
  • 神奈川県駅は橋本駅のやや南側の地下に設けられる。地上の高校は移転することになる。
  • 神奈川県駅の横断面図。第1期営業区間の中間駅としては唯一の地下駅となる。
  • 神奈川県駅から約8km先のトンネル内で回送線が分岐し、関東車両基地まで伸びる。
  • 山梨県駅は甲府市の南部に建設。その先で身延線小井川駅と交差するものの、両線の連絡は図られない。

JR東海が9月18日に公表した中央新幹線第1期営業区間(東京都~名古屋市)の環境影響評価(アセスメント)準備書により、同線の詳細なルートと駅の位置が明らかになった。20日からは関係地域での準備書の縦覧も開始。着工に向けた動きが本格化している。

環境影響評価法に基づく環境アセスメントの手続きは、大きく分けて第1段階:配慮書、第2段階:方法書、第3段階:準備書、第4段階:評価書、第5段階:報告書の順で進められる。それぞれの段階で各書類を作成して国や自治体などから意見を求めたり、住民向けの説明会などを実施する。

配慮書と方法書は、環境保全上どのような配慮を行っていくか、どのような方法で調査を行うかなどといった「考え方」をまとめたものであり、ルートも大まかなものしか示されない。これに対して準備書は実際の調査に基づくもの。鉄道新線の建設における環境アセスでは多くの場合、準備書の段階で詳細なルートが示される。

準備書で示された中央新幹線各駅と車両基地の概要は以下の通り。距離は東京側の起点からの距離(推定)を示す。

■東京都ターミナル駅(東京都港区港南):約0km
起点の東京都ターミナル駅は、品川駅の地下に設けられる。同駅には東海道新幹線と東海道線、横須賀線、京浜東北線、山手線が乗り入れているほか、都営浅草線や京成線を介して羽田空港~品川~成田空港間の空港アクセス輸送を行っている京急線も乗り入れており、アクセスの利便性は高い。

また、宇都宮・高崎・常磐線~東海道線の直通化を図る東北縦貫線が2014年度の完成を目指して工事中であり、都営浅草線ルートを東京駅経由で短絡する都心直結線の建設構想も具体化しつつあり、アクセスのさらなる改善が期待できる。

一方、東京駅をターミナルとしている東北・上越・北陸新幹線方面からの乗り換えに関しては、東京~品川間の移動が発生する。改善策としては東北新幹線と東海道新幹線の直通化などが考えられるが、今のところ具体化に向けた動きは見られない。

地下駅の構造物は、品川駅港南口(東)側にある東海道新幹線ホームの真下に、同新幹線の線路とほぼ同じ向き(南北方向)で建設。地上から約40m、幅約60mの3層構造とし、最下層に島式ホーム2面と線路4線を設ける。構造物は歩道や車道がある港南口側にやや張り出しているが、在来線ホームがある場所の地下には張り出していない。

地下駅の建設では、地上から地下に向かって掘り進む開削工法が用いられる。東京都ターミナル駅の場合、真上にある東海道新幹線品川駅の線路とホーム、駅ビルを仮受けしながら掘り進むことになるため、相当な難工事になりそうだ。

■神奈川県駅(神奈川県相模原市緑区橋本):約38km
東京都ターミナル駅からは地下トンネルで西へほぼ一直線に進み、次の神奈川県駅も地下駅となる。横浜線と相模線、京王相模原線が乗り入れている橋本駅のやや南側の地下に設置され、各線との連絡が図られる。県立高校(相原高等学校)の下に建設するため、神奈川県は同校の移転を考えている。

地下駅の構造物は地上から約30m、幅約50mの3層構造とし、最下層には島式ホーム2面と線路4線が設置される。東京都ターミナル駅に比べホームが狭くなる。

■関東車両基地(神奈川県相模原市緑区鳥屋)
東京都ターミナル駅から続いてきた地下トンネルは、神奈川県駅から約4km先の相模川を渡る部分で途切れる。しかし、その先も山岳トンネルが連続するため、車窓はほぼ期待できない。

相模川橋りょうの先にあるトンネル内(東京都ターミナル駅から約47km、相模原市緑区串川出張所から北へ約1km)で、関東車両基地に伸びる回送線(延長約4km)が分岐する。回送線は南西方向に進み、鳥屋地区を流れる串川の北西側に関東車両基地が建設される。敷地面積は約50haが想定されている。

■山梨県駅(山梨県甲府市大津町):約110km
トンネルが連続する区間は山梨リニア実験線を転用する部分の終端部付近で終わり、その先は甲府盆地を高架橋で横断する。高架橋には防音壁や防音防災フードが設置されることになっており、ここも車窓はあまり期待できそうにない。

この高架区間の途中、甲府刑務所と甲府南部工業団地に挟まれた田園地帯に山梨県駅が設置される。地上からの高さ約20m、最大幅約50mの高架駅で、最上階に島式ホーム2面と線路4線を設ける。

既設の鉄道路線との連絡は考えられていない。同駅から約3km先で身延線の小井川駅(中央市)と交差するが、ここには中央新幹線の駅は設置されない。JR東海は「地元自治体においては、当該箇所への駅設置を前提として、主に道路交通を中心としたアクセス強化が検討されている」ことを駅位置の決定理由の一つとして挙げており、実際に甲府市が甲府駅~山梨県駅間を結ぶバス高速輸送システム(BRT)の導入を構想している。

■長野県駅(長野県飯田市上郷飯沼):約180km
甲府盆地を抜けると、今度は中央構造線が走る赤石山脈(南アルプス)中南部を山岳トンネルで突き抜ける。全長約25kmの長大トンネルも建設される。なお、山梨県から長野県へ移動する間に静岡県も通り抜けるが、人家のない険しい山岳地帯をトンネルで通過するだけ。もちろん「静岡県駅」は設置されない。

長野県に入って南アルプスを抜ければ、天竜川沿いに南北に伸びる伊那谷の高架区間となり、途中に長野県駅が設けられる。天竜川の西側平地部、パチンコダイナム飯田店のやや西側に幅約50m、島式ホーム2面4線の高架駅を設置する。地形がなだらかな勾配になっているため、地上からの高さは0~約15mとされている。

この駅も山梨県駅と同様、既設の鉄道駅との連絡がない。ただ、駅のすぐ西側でトンネルに入ってから飯田線の線路(伊那上郷~元善光寺間のほぼ中間)の下をくぐるため、連絡駅が整備されることになるかもしれない。JR東海も、地元からの要望があれば請願駅(自治体などの要望に基づき、自治体などが建設費を負担して設置する駅)として建設することを検討する意向を示している。

■岐阜県駅・中部車両基地(岐阜県中津川市千旦林):約220km
長野県駅からは木曽山脈を貫くトンネルが連続する区間となり、木曽川を渡る第1木曽川橋りょうの先で中央本線と交差する。

ここから先は中央本線から北西側に数km離れたところを南西方向に進む格好となるが、美乃坂本駅の名古屋方は中央本線に隣接した高架橋区間となり、同駅のやや北西側に岐阜県駅が設置される。美乃坂本駅と一体化させて中央本線との連絡が図られることになるだろう。

なお、岐阜県駅から東へ約1kmのところに中部車両基地が設置される。ただし、車両基地につながる回送線は岐阜県駅の東側(東京方)ではなく西側(名古屋方)に分岐点を設置。ここから岐阜県駅の上方を通り、車両基地に向かう格好となる。

このため、岐阜県駅の構造も他の高架駅とやや異なり、地上から高さ約20~30mの3層構造の高架構造物を建設。3階部分に島式ホーム2面と4線を線路を設置し、さらに上の屋上階に回送線2線を通す形となる。

中部車両基地の敷地面積は約65haが想定されており、工場機能も設けられる。

■名古屋市ターミナル駅:約286km
中央新幹線は東海環状自動車道との交差部(岐阜県可児市)から名古屋市ターミナル駅まで1本の地下トンネルとなる。

終点の名古屋市ターミナル駅は、名古屋駅のやや北側に東西方向で設置。東京都ターミナル駅と異なり、東海道新幹線のホームと交差する形の地下駅となる。地上から約30mの地下に3層構造、幅約60mの地下構造物を設け、最下層に島式ホーム2面、線路4本を設ける。ここも東京都ターミナル駅と同様、大がかりな工事となりそうだ。

この駅では東海道新幹線や東海道線、名鉄線、近鉄線、名古屋市営地下鉄などとの連絡が図られる。当面は東京~大阪間の乗換地点となるだけに、中央新幹線ホームと東海道新幹線ホームの乗換ルートをどのような形で整備するかが注目点の一つになるだろう。

なお、中央新幹線の第1期営業区間としては名古屋市ターミナル駅が終点だが、その先も約3kmほど地下トンネルで線路を伸ばし、名古屋市営地下鉄東山線の中村公園駅付近が線路の終点となる。準備書では「異常時等における輸送の弾力性を確保するための引上線」としているが、将来的には第2期区間となる名古屋市~大阪市間の線路の一部になると思われる。

環境影響評価法に基づく準備書の縦覧期間は10月21日まで。これと並行して関係各地域で説明会が開催される。また、準備書に対する環境保全の見地からの意見書の提出も11月5日まで受け付ける。

《草町義和》

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