日本航空(JAL)が全社を挙げて行っているのが「乗務員同士のコミュニケーション強化」だ。その中でも特に力を入れて行っているのが「言語技術」というものだ。
言語技術は「思考を論理的に組み立て、相手が理解できるようにわかりすく表現する」といいうもの。つくば言語技術教育研究所というところが行っているもので、日本サッカー協会が選手やスタッフ向けに導入したことでも話題となった。JALは航空会社として唯一、この言語技術教育を導入しており、地上でデスクワークを行うパイロットが深く関わっている。
「ドラマなどでは見知った乗務員同士が組むといった表現がありますが、実はJALの規模だとパイロットから乗務員まで初対面同士で組んで仕事をすることが普通といった状態なのです」。「初対面のパイロット同士が組んだ場合であっても意思の伝達に問題がないよう、会話のスキルを向上させていくのが言語技術の習得でもあります」と説明するのは、運航訓練審査企画部に所属する塚本裕司さん。ボーイング777の機長でもある。
言語技術の習得手段にはいろいろな方法があるが、JALでよく行われているのは「イラストの内容を相手にわかりやすく説明する」というものだ。イラストには空港の情景を記したものもあれば、パイロット向けに計器の動作状態を示したものもある。イラストの内容を理解する洞察力と、その内容を他者に説明する能力が求められるのだが、実際にやってみるとこれが非常に難しい。ましてや「簡潔に説明する」、「その先、どうするのかを説明する」という制約が入ると難易度が一気に増す。
教育を通して徹底的に叩き込まれるのが「相手に自分の意思を伝えるときは最初に結論(要点)を話し、その後に結論に至たるまでのプロセスを伝える」ということだ。パイロット同士の会話に例えれば「○○をしましょう」と結論部分を先に伝え、その後に「こうした理由があるので…」といった思考の部分を伝えていく。平時はもちろんだが、一刻を争う緊急時になるとこうした話し方を身につけているか否かいうのが極めて重要になってくるという。
「JALのパイロットは言語技術の教育を通じ、こうした話し方を身につけているため、初対面同士が組んだとしても問題ありません。操縦技術や危機対応能力も一定の水準にあるため、万が一の事態になったとしても適切な対応を可能としています」と塚本さん。
トラブルやアクシンデントを未然に防ぐ努力は欠かしていないが、完璧というものは存在しない。それを理解した上でトラブルやアクシデントに対応する訓練を常に欠かさないのがJAL流であり、地上勤務を行うパイロットがそれを支えている。