【トップインタビュー】トータルコスト競争力で海外ライバルと闘う…日野自動車 市橋保彦社長

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日野自動車 市橋保彦社長
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市橋保彦新社長は、トヨタ自動車出身で6月にグループのトラック・バス事業を担う日野自動車のトップに就任。日野は国内の普通トラックでは40年連続してトップシェアを保持する一方、東南アジアを中心に海外でも急ピッチで市場を拡大している。国内外での生産体制再編といった構造改革とともに、次世代を担う人づくりに全力を傾注する。

◆将来への基盤を固めるのが「中計の心」

---:2012年度から14年度まで取り組んでいる中期経営計画途上での就任となりました。新社長としてのミッションをどう受け止めていますか。

市橋社長(以下敬称略):中期計画はあくまで計画として捉え、これまで進めてきた路線をしっかり推進することだ。つまり、リーマン・ショックを越え、その後の東日本大震災も越え、次の世代に向けて構造改革をしながら企業の基盤を強くしていくこと。それが「中計の心」だと思う。その心をしっかり受け継いで次世代につなぐことだと考えている。もちろん、数値的な目標はいくつかあるが、まず一番大事なのは変えるべきところは変えて将来への基盤を固めるという心をしっかりもつことだ。

---:構造改革は、販売ウェートが高く成長力もある海外に軸足を置きながら取り組むことになるのでしょうか。

市橋:確かに国内は数として伸びていくのは厳しいが、質的な面も含め、国内ビジネスが非常に大事なことに変わりはない。当社の販売台数は2007年から海外が上回っているものの、まだまだ国内マーケットでやるべきことは沢山ある。

われわれは国内のお客様に育てていただいたわけだから、国内は大事にしなければならないし、そこで培ったサービスなり、お客様のお役に立てるという取り組みは、海外のお客様に対してもご提供できる。台数として伸びるのは海外となるだろうが、海外でも質を追い求めて競争に勝たねばならないので、国内での蓄積を十分に生かしていきたい。

◆日野を選んでもらうためのトータル・サポート

---:国内外の顧客のサポートに全力をあげるという「TS(トータル・サポート)強化」を掲げていますね。

市橋:私は会社方針として3つの軸を定めたが、そのうちのひとつだ。まず、われわれに1番大事なのは「商品」であり、お客様にとって魅力があり、品質などを満たすこと。次いで、「TS」と呼んでいるお客様へのトータル・サポート、そして3つ目がそれらを支える「人材の育成」だ。

トラックやバスというハードウェアを買っていただくのがわれわれの仕事だが、それに付随したアフターサービス、部品の供給、あるいは少しでも燃費をよくするように使っていただくためのお手伝いなどなどを、パッケージとしてお客様に選んでいただけるようにしたい。お客様のお役に立てるようなことは、まだ周辺に沢山ある。そういうサポートに力を入れていき、日野を選んでいただけるよう、何ができるのか全社を挙げて今取り組んでいる。ハードだけでなくソフトも含めたサポートによってお客様との信頼関係や絆ができる。

---:国内では12年度まで普通トラック(中大型車)市場で40年にわたりトップシェアを保持していますが、そうした信頼の蓄積が大きいのでしょうね。

市橋:私はこの1年余りで、国内の販売会社42社すべてを回ってきたし、海外のおもな販売店も訪問した。そうしたなかで気付いたのは、販売店がお客様から時には厳しいご指摘を受けながら、信頼関係や絆を築いてきたということ。それがわれわれの宝なのだろうと改めて思う。しかし、信頼というのは一旦崩れると取り戻すのは大変だ。

◆乗用車とは逆、トラックのモジュール化

---:国内の工場投資についてですが、2012年に古河工場(茨城県古河市)を新設、またエンジンなどのユニット工場である新田工場(群馬県太田市)では能力増強に向け投資を進めています。数年前の円高下でも国内増強を打ち出した狙いは。

市橋:古河は昨年の5月から、まず海外向けのノックダウン生産部品の輸出基地として稼働した。本社(日野市)地区では工場の拡張が難しくなっており、新しい所に構えようということで古河工場を建設した。2020年までに本社から車両組立を移す計画だ。また、新田はコア部品を日本で集中生産するという構造改革の推進でも重要な役割を担う。

---:7月初めには市橋社長も出席されてマレーシアで新工場の鍬入れを行った。インドネシア、タイといった既存工場とともにアジアでは生産体制の拡充が進んでいます。

市橋:海外で大事なのは、お客様の近くでお客様が求める商品を造り、短納期でご提供することだ。マーケットの大きさもあるので、全て近い所で生産するわけにはいかないが、成長力のある東南アジアでは生産の構えを強化していく。国内ではコア部品を造り、海外でその周辺部品を現地調達しながら造るというのが理想であり、そのような体制づくりを進めていく。

---:国内外での分業を図るうえで「モジュール化」という考え方も導入しています。

市橋:はい。ただしトラックは多品種少量生産なので、モジュール化は乗用車とは逆の考え方になる。乗用車では部品をできるだけ塊にして共通化を進めるのだが、トラックはむしろ、ばらした状態でコアのところだけを共通にする。それを海外にもって行って、それぞれ現地に適した商品にするために現地で部品を調達、あるいは内製して取り付ける。それがわれわれのモジュール化であり、これによって地域のニーズに応じた「市場適格車」をタイムリーに供給する。現地調達率も高まり、何より生産のリードタイムを短縮できることでお客様に喜んでもらえる。

◆環境、安全技術は「手の内化」をしっかりと

---:東南アジアで日本のトラックの評価は高いのですが、欧州や韓国、さらに中国のメーカーも、この成長市場を虎視眈々と狙っています。どう戦っていきますか。

市橋:価格競争に入れば、われわれが不利になるのは見えている。ここもトータル・サポートという考え方で臨むべきと考える。つまり、何年間か使っていただいた時の燃費、サービス部品の迅速な供給、車両の稼働率、さらに中古車としての残価など、トータルとしてお客様にメリットを判断してもらうこと。そこにわれわれの車やビジネスの強みを求めていきたい。単なる車両価格の競争には、くみしないようなトータルの競争力をつけることだ。

---:トラックやバスの次世代環境技術の行方はどう見ていますか。 

市橋:プラグインを含むハイブリッド車(HV)や燃料電池車、あるいは電気自動車と、バリエーションとしては乗用車と同じ。ある意味混沌としており、現時点でこうなると決めつけるのでなく、大事なのは技術の蓄積をしっかり進めて「手の内化」を図ることだ。

---:小型トラックなどのHVでは他社をリードするポジションにありますが、短期的にはやはりHVでしょうか。

市橋:環境技術でコアとなる技術であることは間違いない。われわれの戦略商品であり、海外にも広く出していきたい。ただし、アフターサービスがしっかりできるのが大前提であり、そこは「TS」のビジョンともクロスする。

---:日野は衝突被害軽減ブレーキの「PCS」を2010年に国内の大型トラックおよび観光バスに標準装備するなど、安全装備でも先進的な取り組みを進めていますが、今後の方針は。

市橋:環境対応同様に、これも技術の手の内化に取り組みたい。PSCやVSC(横滑り防止装置)を先駆けて採用しているが、まだまだデバイスなどをレベルアップする必要があるし、もっと沢山の車に採用できるよう考えていかなければならない。

◆好業績だからこそ気を引き締めていく

---:今年度の連結業績は12年度に続いて各利益段階で最高を更新する予想です。中期計画の最終年である14年度の連結営業利益目標750億円は、今年度大幅に上回る見込みですが、中計の上方修正については。

市橋:こういう時だからこそ、気を引き締めて行かなければならない。当社の場合、1ドル=1円の変動で連結営業利益には15億円の増減益影響が出る。円安に振れていることも業績(の改善)に影響している。中計(の見直し)についてはこれから検討することになろうが、足元を固めて構造改革を怠らないということが重要だ。

---:トヨタではサスペンションの設計者として出発され、初代『ヴィッツ』の主査、さらに米国開発拠点への従事など幅広いキャリアをお持ちです。日野ではどう生かされますか。

市橋:多くの職場で色々と勉強させてもらい、自分自身の肥やしとなった。先ほど申したように私の3つの方針のひとつは「人材育成」だ。今取り組んでいる構造改革を次世代に継承してもらうには人の育成が大変重要になる。私が肥やしとしてきた経験が、次世代の人を育てるためのベースになればいいなと思っている。


市橋 保彦(いちはし・やすひこ)
1974年岐阜大学工学部卒、トヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)入社。シャシー設計部門に配属となり90年まで海外駐在を挟みながら一貫して設計に従事。その後、初代『ハリアー』(97年)などの先行企画を担当、車両開発では初代『ヴィッツ』(99年)の主査も務めた。2003年常務役員、04年トヨタテクニカルセンター米国社長、06年北米の開発・生産統括会社であるTEMA副社長。08年トヨタ専務、10年関東自動車工業(現トヨタ自動車東日本)副社長を経て12年6月に日野副社長、13年6月から現職。チームワークを大事にしながら「仕事は明るく」がモットー。青春時代からヨーロッパ映画のサウンドトラック盤に親しむ。ソフィア・ローレン主演の「ひまわり」(1970年)を1番に挙げる。愛知県出身、61歳。
《インタビュアー:ジャーナリスト 池原照雄、レスポンス編集長 三浦和也》

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