JC08モード走行時でリッター30kmという、ミドルクラスセダンとしては世界トップの燃費性能を引っさげて登場した新型ホンダ『アコードハイブリッド』。これまでエンジン直付の1モーター式ハイブリッドシステム「IMA」1本で戦ってきたホンダは今日、電気モーター単体で走行可能なストロングハイブリッド主体へと大転換を図っている。
アコードハイブリッドはその第1弾で、ホンダにとっては『カムリ』などトヨタの同格のハイブリッドカーに対し、エネルギー効率で初めて大きくリードすることができたという点で、一里塚のようなクルマとなろう。
「クルマの進化において、ハイブリッドは今や必修科目。実用性を考えると、現在の自動車工学レベルではいきなりEVに行くというわけにはいかない。が、エンジンは効率をコンマ1%向上させるのも大変という成熟技術。捨てていたエネルギーを回収し、エンジンの効率のよいところを使えるハイブリッドは、やはり革命と言える技術だと思う」
伊東孝紳社長はハイブリッドカーについて、このように語る。09年に社長に就任した伊東氏は、クルマの電動化技術への対応を期待されて後継指名された人物。就任以降、一般ユーザーに電動化に関するホンダの技術力を初めてスペックで誇示できるモデルを出せたとあって、大変に嬉しそうであった。
「ハイブリッドはエネルギー効率の高さだけでなく、楽しさも与えられる。エンジン回転が上がるにつれてパワーが湧き上がり、音も高まるコンベエンジン(レシプロエンジンなど既存のエンジン)の面白さは尊重しますが、アクセルワークへのレスポンスがエンジンとは比較にならないほど素早い電気モーターの楽しさは格別なものだと思う」
もっとも、ハイブリッドをめぐる技術開発競争はまだ始まったばかりだと伊東氏は言う。ホンダが初めてハイブリッドカーを出したのはトヨタの初代『プリウス』に後れること2年の1999年のことだったが、以後、延々とトヨタの後塵を拝し続けた。2009年には低価格ハイブリッドとして『インサイト』がトヨタのプリウスに完膚なきまでに叩き伏せられ、「悔しい思いをした」(伊東氏)こともあった。
「でも、クルマの効率向上は今が天井というわけじゃないですからね。僕は半分ふざけて言うんですよ。エンジンをまだ冷却しているじゃないか。真の理想は排気管の温度が15度、流速ゼロだとね」
もともとエネルギーは、位置エネルギーであろうと熱エネルギーであろうと、差分が大きくなければ取り出すのが難しい。それが自然の摂理というもの。だが「エネルギーを回収、再利用するというハイブリッドが出たことによって、捨てるしかなかったものを活かすことができるようになった。これからも思いもよらない革命的技術が出てくる可能性は十分にあると思う。そういう観点では、アコードハイブリッドはトヨタさんを特に意識したということはない。意識したのはクルマの進化です」(伊東氏)
今後、ハイブリッド技術では絶対に他社を圧倒することを旨としているトヨタ自動車をはじめ、アコードハイブリッドを抜きにかかる熾烈な技術開発競争が始まる。抜きつ抜かれつの戦いとなるのは必至だが、「それでもトップランナーに立つというのは気持ちがいいもんだね」と、伊東氏は今を噛み締めていた。