【インタビュー】デ・シルヴァ「ジウジアーロの上司には誰もなれない」、ジウジアーロ「私のボスはデ・シルヴァ」

自動車 ニューモデル 新型車
ジョルジェット・ジウジアーロ
  • ジョルジェット・ジウジアーロ
  • ワルター・デ・シルヴァ
  • ジウジアーロ(左)とデ・シルヴァ
  • 初代ゴルフと7世代目ゴルフ
  • フォルクスワーゲン・ゴルフ
  • 発表会に登壇したジョルジェット・ジウジアーロ(左)と、ワルター・デ・シルヴァ氏
  • 【インタビュー】デ・シルヴァ「ジウジアーロの上司には誰もなれない」、ジウジアーロ「私のボスはデ・シルヴァ」
  • ジョルジェット・ジウジアーロ

7代目に進化したフォルクスワーゲン『ゴルフ』の日本発表に際し、初代ゴルフのデザイナー、ジョルジェット・ジウジアーロ氏と、7代目ゴルフのデザインの指揮を執ったワルター・デ・シルヴァ氏が来日。一部報道陣のインタビューに応じた。

2010年より、ジウジアーロ氏率いるイタルデザイン・ジウジアーロはフォルクスワーゲングループの傘下に入り、デザインワークのサポートをおこなっている。カーデザイン界の両巨頭が、新型ゴルフのカーデザインとお互いの関係について、闊達に語り合った。

◆初代ゴルフと7代目ゴルフ

----:ジウジアーロさんにお伺いします。1974年にデビューした初代ゴルフをデザインしたあなたから見て、7代目となる新型ゴルフはどのように映りますか?

ジョルジェット・ジウジアーロ氏(以下G.G):7代目ゴルフは40年に渡って進化してきた、品質面や、運動性能、ボディの面の仕上げなどの細部を含めた集大成です。素晴らしく良く出来た製品になっていると思います。特に仕上がりに関してはとても素晴らしいので、ぜひ注意して見てください。実際に運転してもらえれば、さらに、このクルマの素晴らしさがよくわかってもらえるでしょう。そのうえで、私たちがずっと記憶の中に持っているゴルフのルーツといったものも裏切らないで、発展を遂げた素晴らしいクルマだと思います。

----:では、40年間進化してきたゴルフにおいて、ここは変わらないところ、一番変わったところは何でしょうか。

G.G:共通点はCピラーです。このCピラーが一連のゴルフの特徴的なところです。

そして、一番の大きな違いは40年に渡る技術、テクノロジーの進化によって生まれたモダンなテイストでしょう。例えばガラスにしても初代は平面ですが、現在はきれいにカーブをしています。これも技術が進んだからこそ出来るようになった大きな違いです。技術的な大きな発展が、美的デザイン的にもこのクルマを進化させているのです。そうそう、ドアの隙間のギャップも昔は広かったのですが、いまは精密になってきていますね。

----:ジウジアーロさんは初代ゴルフのデザイナーで、デ・シルヴァさんはフォルクスワーゲングループのデザイン責任者ですから、お二人にとって、ゴルフは特別なクルマだと思います。そこでお尋ねしますが、他のクルマとゴルフが違うところはどういうところなのでしょうか。

ワルター・デ・シルヴァ氏(以下W.S):ゴルフというクルマは、40年の長きに渡り発展してきたクルマです。美的な外観を含めて、様々な面で発展させてきました。その発展途中では、全く新しいクルマを創ろうという誘惑があったとは思いますが、そういったものには陥らずにずっと同じ名前で、基本的なデザインコンセプトを守って創ってきたクルマなのです。

G.G:ゴルフが他のクルマと違うところは、プロポーションやバランスだと思います。私がデザインした初代ゴルフが出た時には、このようなプロポーションや、面の仕上げをしたクルマはなく、新しいインパクトを与えることが出来たのです。そして、誰が見てもわかりやすいシンプルさといったことをこれまで守り続けてきたのです。他のクルマが真似をした時期もありましたが、均衡のとれたプロポーション、そしてバランスを守ってきたところが重要で、特徴だと思います。

◆ゴルフ7について

----:デ・シルヴァさんにお伺いします。和田智さん(元アウディのデザイナー)が『A5』のデザインを手がけた際、プレスラインのほんのわずかな位置の高さで議論をされたとのことですが、ゴルフ7のエクステリアデザインにおいて、デザイナーと同じような葛藤はあったのでしょうか。

W.S:今回の新しいゴルフのデザインが決まるまでに、フォルクスワーゲンデザインチームの様々な出身国のデザイナーから、12のアイディアを出させました。それをどんどん詰めながら集約していって、最終的なデザインを決めていったのです。このデザインを決めるためのプロセスは、非常にしっかりしたものをフォルクスワーゲンは持っています。その中で最終的にはプレスラインの位置を10分の1mmの高さなどにまでこだわって、しかも、実際に社長自らも参加しながら最終的な形を決めていきました。このように、非常に細かいところまで叩き上げながら創ってきたクルマなのです。

----:デ・シルヴァさんは昨年『up!』の発表会に際し、up!のデザインは“プロダクト”デザインだとお話をされました。しかし、今回のゴルフは“カー”デザインだと思うのですが、具体的に力を入れたところを教えてください。

W.S:確かにup!の時にはプロダクトデザインだとお話をしました。up!は非常にモダンなデザインで、いわゆる従来的なスタイリング志向というよりも、プロダクトデザイン的な作り方でしたのでそうお話をしたのです。一方、今回のゴルフはもう少し、カーデザインに特有な仕事の仕方をしています。ただし、基本的な、“機能は美である”というプロダクトデザインにもつながる考え方は、ゴルフの中にも生きています。

----:クルマにはファンクション、機能が大切だということですが、同時にエモーションも重要だと個人的には思います。そこで、ゴルフをデザインする際に、ファンクションとエモーションをどのように意識しながらデザインをされたのでしょうか。

W.S:機能はもちろん大切ですが、機能だけを推し続けて、エモーションは全く考えなかったかというとそうではありません。エモーションと機能をうまく結び付けて、クオリティなど、様々な形で表現してきたのがフォルクスワーゲンだと思っています。

例えば、日本にも導入が予定されているゴルフGTIは、エモーショナルな要素の高いクルマです。ゴルフにある、基本的なシンプルさや機能的なラインはそのまま踏襲しながら、エモーショナルな部分に十分に訴えかけることの出来るクルマに仕上がっていると思います。

そして、この我々の選択が正しかったということは、これまでに3000万台近くを販売してきたということを考えるとわかっていただけるでしょう。つまり、フォルクスワーゲンでは機能を前面に出していますが、それだけではなく、デザインが皆さんの心に届いたということがあるからこそ、これだけの販売実績を残してきたということなのです。

G.G:エモーションは見た目だけではないのです。もちろんアーキテクチャもエモーションを与えるひとつのきっかけになりますが、実際にクルマを運転した時の感覚もエモーションにつながります。従って、クルマのクオリティも非常に重要になってくるのです。エモーションは色々な要素から成り立っていることを考えなくてはいけません。

目を惹くということもエモーションのひとつの要素ですが、それも単に目を惹くだけでいいのか。例えば、日本人でもヨーロッパ人でも同じような洋服を着ています。しかし、ただ同じ服を着ているということだけでは意味がなく、その服を着た人がどのような動きをするか、どのような仕草をするか、どんな行動をしているかによって、その着ている洋服の美しさが引き出されてくるわけです。つまり、見た目だけではなく、それがどういう動きをするのか、どういう性能を持っているのか、それも非常にエモーションに対して大きな役割を持つものだと思います。

◆デザイナーとして

----:ゴルフという、ドイツの歴史的なコンパクトカーを二人のイタリア人が手がけました。そのことに関してどう思われますか。

W.S:(二人が我先に話そうとして)まず私の意見を言わせてください(笑)。異なる文化圏にいる日本の方にはわからないかもしれませんが、イタリア人の美に関する感性や、楽しいものを見つける能力といったものと、ドイツ人の持つ綿密さ、メソドロジー、正確さは凄く相性がいいのです。この2つが組み合わさると最強のものができるると私は思っています。

G.G:(フォルクスワーゲングループの傘下に入ったことに対し)ドイツの企業のために仕事をすることは、私にとって非常に重要な決断でした。クルマをデザインしていく世界の中では非常に強い組織力が必要とされており、ドイツの企業にはそのポテンシャルがあると考えたのです。現在、イタリアの企業は、湧き立つような力が感じられません。つまり、ドイツの方が、私がやりたいと思う仕事の環境が見つけやすかったということです。エゴイスティックに考えて、いまの時点で自分のやりたい仕事がどこで出来る可能性があるかということを考えた結果、ドイツの企業と仕事をするという選択をしたわけです。

----:おふたりはランボルギーニのデザインをしている一方、ゴルフのようなファミリーカーのデザインも行っています。このように極端に違うクルマをデザインする際、どのように頭を切り替えているのでしょう。

二人で:それが我々の仕事の一番おもしろいところですよ!!

W.S:きょうはファミリーカーの話をしてきましたが、やはり個人的には、ジウジアーロさんもそうだと思うけれど、時々は自分の想像力を十分に発揮させることが出来る、ランボルギーニのような仕事もしたいというニーズが自分の中にあります。また、エゴイスタのようなデザインは、新しいクルマのビジョンを提案します。もちろん、それがすぐに量産車につながるわけではありませんが、少しずつでも新しいビジョンとしてファミリーカーのデザインにも“栄養”を与えていくことが出来るのではないか。少しずつ新しいデザインの世界を動かすきっかけにはなると思っています。

----:ジウジアーロさんにお伺いします。ワルター・デ・シルヴァさんがこれまで美しいクルマをデザイン出来た理由は何だと思いますか。

G.G:彼は、プロポーションや美しさなど、デザインの質を判断し、見極める目と決断力を持っていると思います。そのうえ、フォルクスワーゲングループの中で、彼のOKがなければどのデザインも通らないという立場におり、いま彼がフォルクスワーゲンの中でその立場にあるということは非常にラッキーなことです。

S.W:15年前に私をフォルクスワーゲンに採用するように推薦してくれたのは、実はジウジアーロさんなんですよ。しかし、ジウジアーロさんの上司になるのは誰も無理です。なぜなら、彼は好きなことをやっていますからね(笑)。

G.G:いやいや、あなたは私のボスですよ(笑)。

《内田俊一》

内田俊一

内田俊一(うちだしゅんいち) 日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 1966年生まれ。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かしデザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。また、クラシックカーの分野も得意としている。保有車は車検切れのルノー25バカラとルノー10。

+ 続きを読む

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集