【インタビュー】EVバッテリーのリサイクル市場を拓く…フォーアールエナジー

エコカー EV
フォーアールエナジー 塩見達郎副社長
  • フォーアールエナジー 塩見達郎副社長
  • フォーアールエナジー 塩見達郎副社長
  • フォーアールエナジーの定置型蓄電システム
  • 日産リーフのバッテリーパック
  • 日産リーフに搭載されているリチウムイオン電池
  • 日産リーフ

電気自動車(EV)に使われたリチウムイオン電池を二次利用することを目的に日産自動車と住友商事が合弁で設立したフォーアールエナジーの塩見達郎副社長は、数年後にEV用で使用済みとなる電池の再利用の仕方を今から考えておく必要があると訴える。

----:会社設立から2年が経過します。これまでの取り組みと成果をお聞かせください。

塩見達郎副社長(以下:塩見):まずはEV用リチウムイオン電池の二次利用に関する事業調査会社というステータスで始めました。その当時はリチウムイオン電池の市場性は全くなかったといっても過言ではありませんでした。環境負荷軽減に期待があるということで、どの程度まで電池の二次利用に市場が応えてくれるのか、市場性があるかを調査するために2010年9月に会社を設立しました。

2011年秋に日産自動車のEV『リーフ』に搭載されているものと同じ蓄電池を使った家庭用リチウムイオン電池システムをモニター販売し、2012年からは住友林業のスマートハウス向けに一般販売を開始しました。

この製品は、いわゆる分電盤につながる系統連系した蓄電システム。おそらくその時点で日本初のもので、ある程度事業性が見込めるということで、それまでは事業調査会社というステージでしたが、今年の春、販売および販売に準ずる行為を行う事業会社に移行しました。

----:2011年10月開催のトラックショーでは、フォーアールエナジーが開発したリチウムイオンバッテリー電源システムを搭載した冷凍車を参考出品していますね。

塩見:通常の冷凍車は信号待ちや一時停車時も商品を冷やすためにエンジンをかけたままにしていますが、このシステムは蓄電池から給電して冷凍状態を保持することでアイドリングストップできるというものです。

参考出品でしたが、当然将来的には製品化まで持っていきたい。2012年度末くらいにモニター的に実際にお客様にお出しして、2013年度から一般販売を立ち上げることを考えています。

----:家庭用もトラック向けのシステムも電池はリユース品ですか

塩見:いずれも新品の電池です。リーフが発売されたのが2010年12月ですから、まだ自然な形で電池を回収できる段階では無いので、現状は新品電池を使っています。また電池を二次利用する市場そのものもまだ出来上がっていませんので、まずは市場を開拓していこうということでやっています。

----:自然な形で電池の回収が始まるのはいつごろからになりますか

塩見:電池そのものもお客様の資産ですので、なかなか(回収は)難しいところがあります。ひとつの目安としては一般的にEVの補助金には6年間の保有義務がついていますので、2010年からみて6年後くらいがまずは最初のピークになるとみています。

----:それまでは、まず新品電池を使って市場を開拓していくということになりますか

塩見:そうですね。ただ同時にやはり我々のレゾンデートル(存在理由)といいますか、基本的にはリユースを手がけていく会社ですので、ターゲットを決めてリユースの部分も並行して進めています。まずは2014年にはある程度、技術検証を終えて、15年くらいからリユース電池を使ったシステムを展開していきたいと考えています。

定置型の蓄電池ビジネスも、リユース製品を使ったビジネスもまったく新しい市場です。いきなり数年後に満を持して出すよりも、まずは新品電池を使った定置型のビジネスで一定の市場なり、知名度を築いて、リユースの電池が出てくるタイミングで、スムーズにマーケットインできるような体制を整えておく必要があると思っています。このため、新品の電池を使ってビジネスを模索するとともに、リユース電池を使った製品の検証や実証実験を並行して行っているのが実態です。

----:では、社名にもなっている4つの“R”に関して、それぞれの進捗状況を伺っていきたいと思います。まずは“Reuse(再利用)”ですが、高い残存容量をもつリチウムイオン電池の2次利用を促進する、としていますね

塩見:基本的にはEVで使われる場合、電池の残存容量というのはイコール航続距離と考えていいと思います。やはりEVを何年か使っていくと航続距離が徐々に落ちてきます。ただその時点の残存容量としては、新車時を100とすると、80~70はあります。

一般的に5年走ったら2割、10年で3割劣化するといわれています。満充電しても走れる距離がそれだけ短くなるわけです。自動車用として使うには難しくても、7割の容量が残っているのであれば、家庭用を始めとする他の用途に十分再利用できるというわけです。

----:7割の残存容量でも他の用途に十分使えるという検証は済んでいますか

塩見:例えば急速充電を1日に何回も行うとか、気温の高いところ、または低いところにお住まいとか、使われ方によって若干劣化の度合いも違ってきます。それを我々としては、十分な試験なり実証を経て、こういう使い方すると、あとどれくらい別の用途で使えるのかを検証していく。そこが一番の技術開発のミソになります。

----:その検証はどこまで進んでいますか

塩見:2012年春に神奈川県に協力してもらって、EVタクシーから電池を回収しました。タクシーですから1年間に数万km走りますし、平均急速充電回数も1日3回となっています。使用開始からわずか1年間のタクシーから電池を回収したわけですが、その段階での劣化率は我々の想定内でした。

ただ回収した電池は2台分なので、まだ言い切れない部分もあります。タクシーから回収した電池は製品化して、今県の施設で使ってもらっています。

----:次に“Refabricate(再製品化)”では、モジュール構成の変更を行い、電圧や容量を変えて再パッケージ化を図るとしていますが、具体的にはどうするのですか

塩見:EV用には48個のバッテリーモジュールをひとつのパッケージにして搭載していますが、例えば家庭用システムでは、その半分の24個のモジュールを使っています。

リーフのものをそのまま使えれば、余計なコストがかからずに済みますが、車用に設計されていますので、いったんモジュール1個単位に分解して、ニーズに応じて組み合わせることで再製品化することを考えています。

またEVで使用したバッテリーモジュールは電圧のばらつきが生じます。それを均一に揃えていって再利用していく、その工程も含め再製品化と称しています。

----:再製品化された家庭用リチウムイオンバッテリーシステムの寿命は

塩見:設計寿命としては新品電池で15年くらいです。リユースの場合は回収した電池の状態に応じて変わってきますので、EVで5年使った電池は単純な引き算であと10年は使える。10年使った電池はあと5年使えるというイメージですね。

将来的には単純なリユースの製品で売り切りするのではなく、中身の電池は定期的に交換するやり方が我々のビジネスの業態に適していると思います。もちろん電池を交換できるような設計にしてあります。

----:3つ目のRの“Resell(再販売)”はすでに形になってきてますね

塩見:マンションの共用部分向けに、震災などの時に非常用発電機の燃料も途絶えた後のバックアップや、電力のピークカットなどの用途を想定した定置用蓄電池も開発し、2013年秋に完成する物件に納入します。

----:最後の“Recycle(リサイクル)”では、原料を回収するための使用済みバッテリーをリサイクルするとありますが、具体的にはどういったことをするのですか

塩見:将来的に、回収したものを正極とか負極というレベルまで戻して電池メーカーに再販していきたい。4Rの原料版みたいなイメージですね。そこまでできれば良いなと思っています。

----:4つのRが実際に事業として成立させるには、何台分のバッテリーが必要になりますか

塩見:基本的には数千台分は必要ですね。それで利益が出るという意味ではなくて、事業として回り始めるのは、それくらいの数だと思いますね。

----:10月に開催されるPHEV/EV Infrastructure and Business Japan 2012での講演はどのような内容になりますか

塩見:EV用電池は、日本に残された最後の技術の砦だといわれています。そのリユースに関しても、日本発のビジネスとしてバックアップしていこうということで国の動きも出てきています。当然EVが普及していけば数年後かには、使われた電池があふれてきます。その時点で慌てだすよりは、最初からある程度、解決案をもってあたらなければいけない。我々としては是非そういうメッセージを訴えていきたいと思っています。

塩見副社長は、10月30日、31日に開催されるEVバッテリーに関するカンファレンスイベント「PHEV/EV Infrastructure and Business Japan 2012」に登壇予定。EV用リチウムイオン電池の二次利用事業への取り組みと今後の展望について講演する。

■PHEV/EV Infrastructure and Business Japan 2012
会場:ヒルトン東京(新宿)
日程:10月30日~31日
http://www.evupdate.com/electricvehiclejapan/jp-index.php

《小松哲也》

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