【新連載*中田徹の沸騰アジア】ヒュンダイの方向転換をどう見るか

自動車 ビジネス 企業動向
ヒュンダイ(ジュネーブモーターショー12)
  • ヒュンダイ(ジュネーブモーターショー12)
  • ヒュンダイ(ジュネーブモーターショー12)
  • ヒュンダイ(ジュネーブモーターショー12)
  • ヒュンダイ・アクセント(ニューヨークモーターショー11)
  • ヒュンダイ・エラントラ(シカゴモーターショー12)
  • ヒュンダイ・サンタフェ予告
  • キア・オプティマ
  • キア・スポーテジ


躍動するアジアの自動車産業の今を解剖する新連載コラム「沸騰アジア」。

世界で最も大きい成長力を内包するアジアの自動車市場は、モータリゼーションの夜明け前。経済成長度が異なるなかで、多様な民族構成、嗜好性や政策などの違いから、超低価格車から高級車、商用車が入り混じったモザイク状の成長が見込まれる。また、コスト競争力と品質向上を武器に生産拠点・輸出拠点としての役割を増大しており、世界のサプライチェーンに深く組み込まれるまでに発展している。

「沸騰アジア」では、自動車マーケットや製品、自動車メーカーの経営戦略、産業政策を詳細に分析するとともに、アジアの自動車の将来を展望する。

筆者は、自動車産業専門の調査会社フォーインで月刊調査レポート『アジア自動車調査月報』の編集長。インドやタイ、インドネシア、マレーシア、韓国、台湾を中心に、アジアの自動車を日々ウォッチしている自動車産業アナリストが、豊富で良質な情報・データをベースに「沸騰アジア」を書き下ろす。


【新連載*中田徹の沸騰アジア】ヒュンダイの方向転換をどう見るか


現代(ヒュンダイ)自動車グループが、自動車生産・販売台数だけでなく、収益面でも日米欧の大手各社と肩を並べるまでに成長している。自動車生産台数は2011年に660万台に拡大し、過去最高を更新。また2011年の連結決算では、ヒュンダイが5600億円規模の純利益を計上し、日系自動車各社の2012年3月期の利益見通しを上回る内容だ。

近年の目覚しい成長を背景に注目を集めているヒュンダイグループは、2005~11年にかけて欧米亜地域で相次いで30万台規模の新工場を立ち上げるとともに、低価格戦略や販売奨励金などを駆使して規模を稼いできた。これにより2000年代前半に300万台程度だった生産台数は右肩上がりに拡大。しかし、世界5位メーカーのポジションが定着するなかで経営戦略の軸を「品質強化」にシフトしてきた。

日本のメディアでは、「品質とデザインの向上に伴う量的な成長」をみて脅威論を展開する内容が多いが、実際のヒュンダイの経営戦略はそういった単純な内容ではない。特に最近では、「規模の拡大」から距離を置く姿勢を強めており、リスクとなりうる生産能力の増強については「石橋をたたいて渡らない」と言っても過言ではないくらい慎重だ。一方で、ドイツメーカーのようなブランド力の獲得、業界最高水準の利益体質の定着を優先課題としており、より筋肉質な経営体質の構築を加速している。


◆2011年決算は過去最高、全ての日系メーカーを上回る利益予測


ヒュンダイは2011年12月期の連結決算において売上高・利益ともに過去最高を計上。自動車販売拡大とモデルミックスの改善が増収につながり、売上高は前年比16.1%増の77兆8000億ウォンとなった。原価低減や販管費抑制などにより営業利益は4割増の8兆ウォン強。純利益は8兆1000億ウォン(約5600億円)で、全ての日系メーカーの12年3月期の利益予測を上回る水準に達している。売上高純利益率は1.4ポイント増の10.4%で、量販ブランドの自動車メーカーとしては業界最高水準となった。

また、子会社の起亜も過去最高の業績をたたき出した。売上高は20.6%増の43兆2000億ウォンで、営業利益は41.6%増の3兆5000億ウォンとなっている。純利益は30.4%増の3兆5000億ウォンで、純利益率は8.1%と好水準となった。


◆2012年生産計画は711万台で伸び率にブレーキ


ヒュンダイグループの自動車生産台数(自社工場のみ)は、2011年に前年比15%増の660万台となり、年初目標633万台を27万台上回った。10年以降、新型『アクセント』、新型『エラントラ』、新型『グレンジャー』、新型『オプティマ』、新型『スポーテジ』などを相次いで投入しており、新型車攻勢が増産を牽引。また、東日本大震災やタイ大洪水で日系メーカーが供給不足に陥ったこともヒュンダイ/キアにはプラスに働いた。

12年のグローバル生産計画は前年比8%増の711万台に設定されている。米国市場の回復が期待されることや多くの新興国で需要拡大が続くと見込まれるなかで堅調に販売を伸ばすとしているほか、政府債務危機により需要低迷が続くと予測される欧州でも2桁増の拡販を計画しており、拡大を続ける考えだ。ただし、主力製品の全面更新が11年までに概ね一巡しており12年の新車投入が少数にとどまること、各工場の稼働率が高く増産余地が大きくないこと、天災によりシェアを減らした日系メーカーが販売攻勢に転じると予測されることなどから伸び率はやや鈍化するとしている。


◆鄭夢九会長は海外新工場計画を却下


ヒュンダイは近年、情報発信について敏感になっており、特に海外メディアからの取材についてはほとんど対応していない。このためヒュンダイグループの経営戦略について、情報量が少ないのが実情だ。ただ、プレスリリースなどの正式発表された内容、生産販売台数や投資計画を含む状況証拠などから分析していくと、様々なことが見えてくる。

世界の主要国・地域に生産拠点を配置するヒュンダイグループは、年産700万台を視野に入れ快進撃を続けているが、一方で成長戦略の重心を低価格路線による量的拡大から品質・ブランド力の強化、収益性重視、リスク低減にシフトしている。ヒュンダイグループの鄭夢九会長は、「品質経営」をスローガンに掲げ、質的な成長を進める一方、最近海外での新工場計画をほぼ全て棄却しているとされ、量的拡大から距離を置く姿勢を強めている。

新工場建設を抑制しているヒュンダイグループは、韓国や海外に配置した既存工場の効率化強化などにより内外の需要に対応する。ヒュンダイとキアはインドを含む複数地域で新工場計画を検討していたが、鄭夢九会長の指揮の下、中国を除く地域での新工場計画を保留。グループ全体の完成車生産能力は2011年の700万台強から14年に770万台前後に伸びるが、トヨタやVWなどが1000万台を目指すのとは対照的で、700万台から先の規模拡大には慎重だ。

増産投資に対して慎重になっている背景にはいくつかの理由が考えられる。現体制では品質確保が可能な上限を700万台とし、さらなる増産にはサプライチェーンの底上げが必要不可欠としており、部品メーカー育成・強化の時間を作りたいとの思惑が推測される。また、過去10年間減産を経験していないヒュンダイは、生産能力に対する認識を「成長の源泉」から「リスク要因」に変えたとみられる。リスクになりうる生産能力を持つことを避け、生産性改善の余地が大きい韓国工場を調整弁とすることで内外の工場の稼働率を高水準に保ち、それによる利益を享受したい考えが伺われる。


◆ブランド力強化ではドイツ企業をベンチマーク


収益重視の姿勢は、設備投資計画からだけでなく、マーケティング戦略や製品戦略からも伺える。

ヒュンダイグループは、インドで低コスト小型車『イオン』を投入するなど新興国市場攻略に問われる小型車ラインアップの拡充にも手抜かりはないが、基本的には上質なブランドイメージの構築を経営上の重要課題に位置づけている。低価格車による安売りメーカーからの脱却と、上級ブランドとしてのイメージ醸成を目指しており、単価引き上げによる利益率の改善に繋げたい考えである。こうしたなか、ブランド戦略上特にベンチマークしているのが、ドイツブランドで、VWやメルセデスベンツ、BMWを研究していると言われる。

製品戦略では、ヒュンダイが「流線彫刻」デザインによる製品展開を強化。2009年投入の新型『ソナタYF』を皮切りに、小型セダン、SUVなどほとんどの車種に「流線的な」ボディラインを共通して採用しており、統一的なイメージの定着につながっている。また、高級セダン『ジェネシス』、『エクウス』の海外展開を拡大することでも、上級なイメージの浸透を図っている。一方でキアは09年から『K5』、『K7』など「K+数字」によるモデル名を導入し、洗練されたブランドイメージの醸成に注力している。

デザインやブランドイメージに対する評価は簡単ではないが、米国では新しいもの好きの消費者を中心にヒュンダイの販売が伸びている。特に米国市場攻略の主軸、ソナタの販売台数は11年に22万6000台に拡大し、ヒュンダイブランドの単一車種の年間販売としては初めて20万台を突破。トヨタ『カムリ』やホンダ『アコード』などと肩を並べる存在感を示す結果となっている。

人気上昇は販売奨励金(値引き)の減額にもつながっており、米国市場での1台当たりの値引き額は現地報道によると、従来の約1700ドルから11年前半には約1150ドルに低下した。こうしたことが収益性の向上につながっており、好循環を生み出している。


◆迅速な意思決定がヒュンダイの強み


快調に業績を伸ばすヒュンダイグループは、様々なリスク要因への対策を綿密に練り上げており、筋肉質な経営体制の構築が進んでいる。利益面でも、日米欧の完成車メーカーと遜色のないレベルにまで成長。また、R&D(研究開発)分野にも力を入れており、既存のパワートレインの改良、ハイブリッド車や電気自動車などの開発も進めている。世界最先端の技術・製品トレンドの牽引役になるとは現段階では考えにくいが、鄭夢九会長の下で迅速な意思決定が可能な体制のなかで、今後もしたたかに世界自動車産業の潮流に乗り、成長を続けるとみられる。


中田徹|自動車産業アナリスト

1978年、愛知県生まれ。2002年、京都産業大学外国語学部卒業。英国でのボランティア活動などを経て、株式会社フォーイン入社。自動車産業アナリストとしてアジア地域を中心に取材・調査およびレポート執筆を行う。2009年より『FOURINアジア自動車調査月報』編集長。

フォーイン URL
http://www.fourin.jp/
《中田徹》

編集部おすすめのニュース

特集