実生活で試さなければ実力がわからないから、今年の夏前、日産『リーフ』を約半月ほど拝借して試乗した。自宅に充電設備はないので、2kmほど離れた商業施設にみつけた急速充電器を利用しながら試乗した。この間、リーフの実力の高さを肌で実感した。とくに乗用車として見た場合、静かでなめらかな走りは快適で乗り心地のよさも大きな魅力だ。試乗中、一般ユーザーの関心の高さも実感した。
満充電で走れる距離は状況に大きく左右されるが、通常は実質120km程度といったところか。なので自宅近辺の買い物だけなら、1回の充電でも、電動アシスト自転車の感覚で暫く使えそうだ。一方、都心と郊外の往復100kmを使うような場合、やはり少々心許ない。満充電でスタートできない場合、充電ポイントと充電時間を予め想定する必要がある。
しかし思えばケータイも、出始めの頃は基地局の少なさで繋がらない場所が多く苦労させられた。アナログレコードがデジタルオーディオに取って代わったように、EVが明日は主流なのか? というとノーだ。もうプロトタイプではない立派な量産車のリーフだから、実際に乗るにあたり、インフラの問題は切実。もうひとつ、“Highbrow”で“Symbolic”なスタイルも、好みの点で諸手を挙げて賛同できる訳でもない。
とはいえそうした課題を圧してでも、日産リーフは今年のイヤーカーに相応しいと考えた。要素技術を磨きに磨いた他車の価値、エンジニアの尽力ももちろん素晴らしかった。が、リーフは夢だった技術を現実のものにしてくれた、真の意味での“新しいクルマ”だった点にときめきを感じさせてくれた。
3.11以降の私たちの生活環境の激化は想像を絶し、疲弊、逼迫、破綻といった思いをこれでもかとさせられ、心もすっかり折れてしまった。そうした状況下で、夢を現実のものとして見させてくれたリーフの心強さはどれほどだったろう。より頼れるクルマへの進化を惜しまないでほしい……投票時の10点にはそんな期待も込めた。
島崎七生人|AJAJ会員/モータージャーナリスト
1958年・東京生まれ。大学卒業後、編集制作会社に9年余勤務。雑誌・単行本の編/執筆/撮影を経験後、1991年より「GOLD CARトップ・ニューカー速報」の取材/執筆を皮切りにフリーランスとして活動を開始。以来「アクティブビークル」「オートルート」など自動車専門誌ほか、Webなどで執筆活動を展開、現在に至る。便宜上ジャーナリストを名乗るも、一般ユーザーの視点でクルマと接し、レポートするスタンスをとっている。興味の対象はデザイン、カーAVを始め、クルマ周辺の生活スタイル、モノなども。1970年代以降に趣味で収集を始めたカタログ(クルマ、オーディオ、カメラなど)の山をどう整理していくかが、目下の課題のひとつ。