資本も協業内容も限定的にとどめる
日産自動車と三菱自動車工業が軽自動車開発の共同出資会社設立など、提携の拡大で基本合意した。だが、両社トップは本体での資本の持ち合いについては言下に否定している。世界の自動車業界ではM&A(企業合併・買収)でなく、資本も協業関係も限定的な「プチ提携」という動きが活発化する。
両社は2003年から、国内市場向けの軽自動車や商用車を相互にOEM(相手先ブランド生産)供給する提携関係にあった。今回の合意では、供給車種を海外市場にも広げて増やすとともに、海外での生産委託、さらに国内向け軽自動車開発の共同出資会社設立にまで広げた。
現状では両社にとって「ウィン・ウィンの関係を拡大」(カルロス・ゴーン社長)する内容だし、三菱自動車は「当社の事業競争力を高めるベストソリューション」(益子修社長)とも評価している。
◆3つの構造変化が引き金に
日産・ルノー連合は、三菱自動車だけでなく独ダイムラーやロシアのアフトワズと提携し、軽自動車についてはスズキからもOEM調達している。一方の三菱自動車も仏PSA(プジョー・シトロエン・グループ)との間で電気自動車(EV)やSUVの車両のほか、ディーゼルエンジンといったコンポーネンツでも協業している。
しかし、そうした提携関係に縛られることなく、両社は常に新たな提携を模索してきた。こうしたプチ提携が活発化する背景を、益子社長は14日の会見で「世界の需要構造の変化」という表現で的確に指摘していた。
それは「先進国市場の低迷」「新興国市場の台頭」「世界的な環境意識の高まり(=環境対応技術の必要性)」---という3つ要素である。先進国市場は成熟化を経て低迷期に入っており、各社がその市場で必要とする最低限のモデルを揃えるにも、量が出ないから投資効率は悪化している。
一方で新興国市場では、従来のコスト感覚では通用しない廉価モデルの開発・生産の仕組みづくりが急務となっている。また、環境対応技術では巨額の開発投資を、さまざまな技術に投じなければならない。
◆問われるのはトップのしたたかさ
日産も三菱もEVに注力しているが、ハイブリッド車(HV)の開発もおろそかにできないし、実際その取り組みも進めている。しかし、経営資源には限りがあり、「需要構造の変化」に単独で対応していくには、最大手のトヨタ自動車とて容易ではない。豊田章男社長は「地域によって、攻める分野と退く分野」にメリハリをつけたいと強調する。
日産と三菱の提携拡大は、そうした限界を補完し合う狙いで思惑が合致したことによる。ただし、プチ提携は個々の協業の契約期間は比較的短期であり、「緩い絆」のうえに成立するものだ。世界の需要構造も流動的であり、時間とともに協業のニーズも変質していくため、時間稼ぎの要素が大きい。
元来、コンペティター同士なのだから「ウィン・ウィン」の関係は、そう長続きするものではない。限られた時間内に、協業で得たメリットを自社の体力強化にいかにつなげるか、経営トップのしたたかさが問われることになる。