「従来型『クーペ』の販売比率はわずかに10%ほど。もともと販売台数の限られるZ4に、そんな仕様を設定するのは余りに不合理」---そんな理由と共にルーフタイプが1種類まとめられた新型は、そのリトラクタブル・ルーフを収納するためにリアのオーバーハングを120mmも延長。
にもかかわらず、Z4特有の “超ロングノーズ/ショートデッキ”というプロポーションをむしろ従来型以上に強調して見せるデザイン手法は、なかなか見事とまずは賞賛したい。
スペインで開催された国際試乗会の場に用意されていたのは、ツインターボ付きの3リットルエンジンを搭載する「35i」に、標準プラス1インチの19インチ・シューズと電子制御の可変減衰力ダンパーをオプション装着していた仕様のみ。
走り出した瞬間から常にピョコピョコとした動きを強く示した従来型に比べるとまさに「天と地」ほど異なるしなやかなフットワークに驚かされたが、サイドウォール強化型ランフラットタイヤの持つネガをかくも克服した背景には、そんな“オプション・サス”の威力も大きいに違いない。
すでに『3シリーズ』等に積まれて定評のあるオーバー300psを発する心臓を積むだけに、絶対的な加速力に対する不満は生じようもない。
が、「同エンジン車で計算すると90 - 95kgのプラス」という車両重量は、やはりハンドリングの“ひらり感”にはそれなりの影響を与えている実感がある。新型のノーズの動きも十分に機敏ではあるのだが、それでも長いノーズが横移動を開始し、そしてその動きを停める瞬間の軽やかさという点では、従来型に分があったと思えるからだ。
結局のところ、ルーフを閉じた際の気密感や静粛性、インテリア各部の仕上がり性能をグンと引き上げた新型は、上質で豪華な雰囲気を大きく増した一方で“軽量ロードスター”としての身軽なテイストはある程度失ったとも受け取れる。
端的に言えば「ポルシェ『ボクスター』のライバル」から「メルセデスベンツ『SLK』のライバル」方向へと大きく舵を切った、いわばBMW “Z4.5”とでも言いたくなるモデルへと進化を遂げたのだ。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★
河村康彦|モータージャーナリスト
1985年よりフリーランス活動を開始。自動車専門誌を中心に健筆を振るっているモータージャーナリスト。ワールド・カーオブザイヤー選考委員、インターナショナル・エンジンオブザイヤー選考委員。