【神尾寿のアンプラグド特別編】PNDがカーナビ進化の震源地となる

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この一年で、飛躍的に存在感を増した言葉のひとつが「PND(Personal Navigation Device)」だろう。

グローバルのカーナビ市場では数年前からTomTomやGarminが躍進し存在感を高めていたが、国内カーナビ市場は「地デジ」移行トレンドの影響もあり、ハイエンドなAVNタイプがマーケットを牽引。PNDという言葉は、一部の業界関係者を除けば、認知度が低かった。

しかし、今では「PND」は、一般紙の紙面にも使われる単語になった。日本における市場規模も急速に拡大している。今年9月に公表されたシード・プランニングの調査によると、日本のPND市場は2008年は109万台に拡大し、2015年には現在の3.3倍にあたる年間357万台まで成長する見込みだという。

また、さらに注目なのが、PNDがカーナビ市場全体の「裾野を拡大」していることだろう。

矢野経済研究所が今年 10月に発表したレポートでは、PND市場の急拡大は2012年の年間3930万台でピークを迎えて、その開拓した市場の一部は、より高度なサービスを提供できる据え付け型カーナビに移行するというシナリオを示している。

PNDは新たなカーナビユーザー層を開拓するだけでなく、カーナビやテレマティクスといった昨日やサービスの「入り口・裾野」になる。そのため、そこで培われたトレンドが、据え付け型カーナビにも大きく影響を及ぼす可能性があるのだ。特にインターネットと連携する「クルマ向け情報サービス(テレマティクス)」では、端末の進化が早く、汎用性・自由度が高いPNDは、新しいユーザーニーズやトレンドを生みだしやすいという潜在可能性を持っている。情報サービス/ビジネスの視座では、PNDのフットワークのよさは注目のポイントと言えるだろう。

◆ケータイ業界とクルマ業界の連携が刺激となる

もうひとつ、PND市場の今後で注目なのが、進化した携帯電話の技術やサービス、ビジネスとの連携領域が急速に拡大していることである。

例えば、今年発売され話題となったパイオニアのテレマティクス対応PND『エアーナビ(AVIC-T10)』は、ソフトバンクグループと連携し、ソフトバンクモバイルの携帯電話インフラへの対応や独自の情報サービス「ナビポータル」の開発・投入を行っている。
 
さらに昨日、本誌で報じたとおり、エアーナビのソフトバンクモバイル版「AVIC-T111SB」(通称『みんナビ』)がソフトバンクモバイルの携帯電話とセットでテスト販売されている。これはPNDの機能やサービス開発だけでなく、販売モデルにおいても、「カーナビメーカーと携帯電話キャリアの連携」をした点で、とてもユニークだ。

一方、GPS携帯電話向けナビゲーションサービスの草分けであり、最大手のナビタイムジャパンは、自社サービスをクルマ向けに展開するコンセプト「WND (Wireless Navigation Device)」を提唱している。これは来るべきモバイル通信インフラの進化と料金低廉化を見越して、サーバーサービスを中心においた新たなカーナビゲーション端末という位置づけだ。

「これまでの携帯電話向けカーナビゲーションサービスは、ドライバー自身が運転中に操作することはできず、『同乗者向け』という位置づけでした。つまり、今までドライバーがNAVITIMEを使える端末がありませんでした。
 
WND はNAVITIMEのサービスをドライバーに直接提供し、携帯電話やPC向けのサービスと地点登録データや履歴などのパーソナル情報、すでに用意されているリアルタイムコンテンツを(ドライバーに)使ってもらうための製品という位置づけです」(ナビタイムジャパン 代表取締役社長の大西啓介氏)

これまでのPNDでは通信機能と情報サービスは「付加価値」であるが、WNDはサーバー型情報サービスを使う端末という位置づけだ。つまり、WNDにとってモバイル通信経由でサーバーと連動することは基本機能である。ここがPNDと大きく違う。
 
さらにナビタイムは、すでに携帯電話向けサービスとして100万人以上のユーザーを擁している「規模のメリット」をいかして、サーバー運営の負担軽減や、豊富なリアルタイムコンテンツの獲得で有利なポジションを獲得している。この点も注目であろう。

◆半導体チップも「ケータイ市場」と連携するメリット

ケータイ市場との連携領域は、機能やサービスといった「上流」だけにとどまらない。半導体チップやOSといった部分でも、PNDとケータイのクロスオーバー領域は拡大していく傾向だ。

この点にいち早く着目しているのが、無線通信半導体チップサプライヤーとして、世界一位を誇るクアルコム(QUALCOMM)である。同社は既存の第3世代携帯電話の技術開発をリードし、半導体シェアにおいても業界一位であるが、同社が「New Marketのひとつとして捉えているのが、クルマ向け情報端末として進化していくPNDです」(クアルコム CDMAテクノロジーズマーケティング部長の須永順子氏)。

クアルコムが提供するチップは、通信機能をコアに、アプリケーションやビデオ用のプロセッサー、オーディオ、3Dグラフィックス、GPSなど豊富な機能を1つにまとめた「1チップソリューション」をコンセプトにしている。これを世界中の3G携帯電話市場で販売しているため、ボリュームメリットでコストも抑えられるという仕組みだ。

「単独のアプリケーションプロセッサーとして見ると、クアルコムのチップは割高感があるかもしれません。しかし、通信機能を軸に、インターネットと連携する情報端末として必要な要素すべてがパッケージ化されていることを考えれば、(クアルコムのチップは)割安であり、端末メーカーの開発は容易になります。

また、今後のPNDで注目なのが、そこで必要とされる機能や性能が、ハイエンドな3G携帯電話や、急速に市場拡大するスマートフォンと極めて近いことですね。液晶サイズやタッチパネルといったI/O(入出力環境)が違うくらいなのです」(須永氏)

◆通信サービス連携が「カーナビ進化のトレンド」になる

当初はその名のとおり「簡易型カーナビ」として登場したPNDだが、その端末開発のしやすさや、販売・普及のしやすさを鑑みると、今後は「クルマ向けネット端末」的な進化をしていく可能性は十分に考えられる。そして、PNDが開拓する「裾野市場」におけるその流れは、カーナビ進化のトレンドを、通信との連携、すなわちテレマティクスのサービス競争に向けて加速させるだろう。

いや、それはすでに数年前からわかっていた。本田技研工業(ホンダ)の「インターナビ」だ。

インターナビは当初から通信サービスをカーナビ進化の方向性と位置づけて、着々とその情報性能に磨きをかけてきた。世界初のフローティングカー、車線別渋滞予測サービスなどを提供し、今年はついにサーバー側で最適・高度なルート演算を行う「インターナビ・ルート」まで実現させた。さらに新たなインターナビは ECUの燃料噴射量情報までフローティングシステムで収集し、情報性能によってクルマの基本性能を大きく底上げするための布石を打っている。

普及のしやすさから既存マーケットに広く展開できる、PNDの進化。そして、インターナビのようにクルマそのものの機能・性能進化に連動し始めた純正カーナビとテレマティクス。このふたつの潮流は、クルマと通信サービス連携の新たな市場とビジネスを生みだす素地になりそうだ。

《神尾寿》

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