イヤーカーのトヨタ『iQ』は、クルマ社会におけるエコバックみたいな存在なのだと思う。レジ袋当たり前の暮らしを少し見直して、「足るを知る」生活をしようよ、という提案。
あの小さなボディの中に詰め込まれている技術は、カッコ良く、潔く、クルマと暮らす「NEW WAY」を実現するためのものというわけだ。
とはいえ、この「NEW WAY」、言うは易しという側面も持っている。エコ風潮の中でレジ袋は敵のような扱いを受けているけれど、それがあることが当たり前になってしまっている現在から方向転換するのはけっこう大変だ。
ちなみに保育園に通う2人の子供がいる拙宅では、汚れ物や使用済みおむつを入れるために、毎日3枚のレジ袋を持参しなくてはならない。もちろん、用済み袋はゴミ出しの時にまた使うわけだけれど。ムダと知りつつ、その当たり前の流れから離れるには、もう一工夫必要だということか。
日本の路上に置いた時に、3m未満のサイズがどんな意味を持つのか、あるいは4人乗れるというのは言い過ぎだろうとか、はたまた過去にも小さいことをエポックにしたクルマは存在したんじゃないかとか、諸々のエクスキューズはある。でも、iQ宣言は、そうした疑問符を軽々と跳び越えたところ、もはやクルマはこっちの道に進むしか道はないということを、象徴的に示している。
ただし、iQに現在の時制とはほんの少し距離を感じることもたしかだ。その間隙を埋めるために、iQが示した道を、そのコンセプトを提唱した作り手はもちろん、僕たちを含めたクルマを取り巻く社会全体が育んでいくことが必要だろう。
そうなれば、きっと何年か先の将来において、「すべてはあそこから始まった」的なマイルストーンとして語られるのかもしれない。そうした意味でiQはイヤーカーに相応しい一台だと感じる。
嶋津敏一
1990年、サファリ・ラリーの取材から執筆活動を開始し、数々の媒体で執筆。ドライビングテクニックについてなど、単行本の著作もある。近著にイラストレーション:古岡修一との共著で『RALLY CAR ILLUSTRATIONS stage01 SUBARU』(イデア/三栄書房)。