3 | さまよえる世代 |
そんなフローリアン君が、「パソコン部屋に来なよ」と誘う。何をやるのか聞けば、公道サーキットゲーム「ニード・フォー・スピード カーボン」だった。巧みに方向キーを操り、車両選択画面で選んだクルマを操ってゆく。阻むパトカーを振り切るどころか、それに体当たりも試みている。
ひょっとしてそろそろクルマに興味を持つ年頃か? と思ったら、本人いわく「今はまったく興味ない」らしい。理由を聞けば、「値段が高すぎて、非現実的で考えられない」なのだそうだ。かわりに人生初体験のバイトをしてまで iPhoneを手に入れ、放課後はサーキット・ゲームに興ずる。自動車業界には手ごわい世代である。
だが昭和41年生まれのボクは、昔クルマ乗りの先輩たちから「シフトタイミングが悪い」だの「クラッチをそんなに滑らすな」だのから始まって、しまいには「運転がうまくなければ男じゃねえ」とまで言われ、いじめられてきた。そういうクルマをメートル原器にした、旧来の「オトコの呪縛」にとらわれない彼らは、実はシアワセなのではないか?
フローリアン君から渡されたキーボードを操りながら、そんなことを考えていると彼が一言「逆だヨ」と言った。進入禁止表示が出ているにもかかわらず、ボクはゲーム画面上でアストン・マーティンを逆走させていたのだ。
触らせてもらった iPhoneも、例の尺取虫のような指操作を繰り返したものの、最後には何が何だかわからん画面にしてしまった。フローリアン君のヒヤヒヤ感が空気を通して伝わる。
新しい時代のオトコになるのも結構つらい。さまよえる世代であることを自覚しながら、アルプスを後にしたのであった。
喰いすぎ注意 |
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。