MAPPLEnavi開発プロジェクトの担当役員として、昭文社役員への商品化提案から陣頭指揮を執ったのがキャンバスマップル専務の山本幸裕氏。今後のPNDマーケットと商品計画について、山本氏に聞いた。
◆昭文社役員に対してPND向けアプリの開発を提案
----:山本さんはナビゲーションアプリ開発事業の担当役員として、MAPPLEnavi開発プロジェクトを引っぱってきました。このPND向けカーナビアプリ開発の経緯についてお聞かせ下さい。
山本:プロジェクトが始まったのは06年の秋です。PNDが欧米で爆発的に普及し始めた時、この波は日本にもやってくると思い、他社から来たばかりの私は昭文社の役員に対してPND向けアプリの開発を提案したのです。当時から08年の商品化というスケジュールを描いていました。
----:ポイントと勝算は?
山本:昭文社のノウハウを用いた表現力豊かな地図表示とフリーワード検索、それに昭文社がもつ旅行ガイド、抜け道といった雑誌や書籍の多彩なコンテンツを活かすポータブルナビというのがプロジェクト提案の骨子でした。昭文社の地図データや地点データ、抜け道データは他社のナビにも利用されています。それを最大限活かすことができるコンテンツとUI(ユーザーインターフェイス)を与えれば他社にはないPNDアプリが作れるだろうと考えたのです。
今後目指すはプレミアム
----:まさにMAPPLEnaviは最初の企画書どおりの内容とスケジュールで登場しました。6月に採用第1号として、ユピテルの『YERA YPL430si』が発売されましたが、今後の展開における基本戦略を教えてください。
山本:他社と同じ土俵で戦っても価格競争になってしまいます。そういうなかで他社との差別化のために、私たちが取り組もうと思っているのは“プレミアム”なPNDです。
----:日本市場では、いわゆる“プレミアム”というと、スペックや機能あるいは筐体の素材やデザインといったハード主体の付加価値強化が中心ですよね。
山本:私たちが考えているのは、ハードではなくて洗練されたUIとスポット情報です。いまのカーナビでは、有名店ガイドブックに載っているような高級レストランも、近所のラーメン店チェーンも、どちらも扱いが同じでフラットな情報にすぎません。昭文社には、「ここに行ってみたい!」「ここはおもしろそうだ」というような、感情に訴えかける編集のノウハウがあります。次のフェーズでは編集者視点のガイド情報を盛り込んだPNDアプリをぜひ実現したいと考えています。
----:編集者視点のPNDアプリとは、たとえばどういうものでしょうか。
山本:先日九州の阿蘇に家族旅行へ出かけたのですが、昭文社には、OLなど女性向けの『ことりっぷ』とファミリー向けの『まっぷるガイド』といった複数のガイドを持っています。妻に『ことりっぷ』を見せたら「こんなお金がかかる家族旅行はできるはずがない」と怒られてしまいましたが(笑)、『まっぷるガイド』ではリーズナブルな子供向けのスポットなども楽しげな紹介文といっしょに編集されていて妻も参考にしていました。同じ地域の旅行ガイドでも、ターゲットによって全くコンセプトの違うガイドができあがります。PNDでも、たとえばユーザーのターゲットによって見せるPOIを変えるという方法があると思います。
----:見せ方次第でナビ自体がおもしろくなるということですね。
山本:さらに、PNDはバッテリーが内蔵されていますからクルマの中だけでなく、普段から持ち歩いて雑誌を眺める感覚で使うこともできます。クルマの旅行でなくてもバッグに入れて持っていく。こういう使い方ができると、MAPPLEnaviの価値はもっと上がっていくのではないか、と考えているのです。
ハードウェアの共同開発も視野に
----:プレミアム感を打ち出す上で、ハードウェアの扱いはどのように考えていますか。
山本:MAPPLEnaviのコンテンツやUIは、一体感のある外観やタッチパネルの機能を実現できてこそ意味があります。メーカーさんとは共同開発というカタチでハードウェアの開発にも参加する方向で検討中です。基本的にはマルチプラットフォーム対応・ワンアプリケーションを目指します。MAPPLEnaviでは家族向けやOL向けといったようにターゲットで切り分けて、コンテンツを出し分けるという方向で考えています。「抜け道データはいらないから、その分安くしてよ」といったニーズへの対応も可能です。フラッグシップでプレミアムナビを出しつつ、普及帯においてもしっかりとした基本性能を持つアプリケーションを提供します。
----:キャンバスマップルはMAPPLEnaviとしてアプリと地図、POIをセットにして開発していますが、一方で地図やPOI、抜け道データなどのコンテンツを他ナビメーカーに販売しています。今後、このビジネスとのバランスはどうなるのでしょうか。
山本:キャンバスマップルが昭文社の電子事業を阻害するということはありません。素材が同じでも調理方法が違えば別のメニューになるように、「昭文社のコンテンツを使ってこれだけのことができます」、あるいは「キャンバスマップルがアプリと組み合わせて開発することで、こんなメリットがありますよ」、という見せ方が可能になります。MAPPLEnaviが昭文社コンテンツのショーケースの役割を果たして両者の売上に相乗効果をもたらすことを期待しています。(後編に続く)
《聞き手:三浦和也》