「人とくるまのテクノロジー展2008」(5月21 - 23日、パシフィコ横浜)のフォーラム『感性価値時代のデザインと企業ブランド』で、日産自動車・中村史郎デザイン本部常務役員は「感性価値創造」というテーマで講演を行った。
中村氏は、日産のこれからのカー・デザインの中で「日本の伝統的な美意識の表現」と「既存の価値観を超えた日本独自の表現」が大事だと語り、前者は日産『フェアレディZ』に例えられ、フロントからリアにかけて1本のカーブで結ばれるラインは、伝統的な「日本刀」を潜在的にイメージさせているという。そして後者は、現行『キューブ』と『GT-R』を例に挙げて説明した。
「この2台は、日産の未来を示している、欧米の価値観を超えた日本の独自の価値観が表現されている。私にとって価値観に対するチャレンジだった。僕は1950年生まれで、欧米のクルマの価値観にどっぷりと浸っている」
「欧米のクルマというのは速く走るイメージでデザインされている。しかしキューブは、できるだけ遅く走る姿をイメージした。コンセプトはリラックス」
「日本人は古来、移動するのに馬や馬車などは使わない。昔から歩いて移動した人たちだ。ゆっくり歩くという日本独自の様式から発想して表現した。そして、もうひとつは左右非対称というデザイン。クルマの中から発想したデザインだ。日本の建築というのはインテリアそのものがエクステリアで、中から作り上げるところをクルマにも取り入れている」
さらにGT-Rについては、「今までの欧米のスポーツカーの範疇に納まらないことが狙い。今までの美的、有機的で流麗なデザインから、ぎこちない無骨なデザインにした。“美しい”とか“きれい”とか言われたくない。流れとは逆の“ガンダムのよう”、“きれいじゃないけれどつい見とれてしまう”などと言われると、狙った通りとなる。日本はオタク文化のように新しいものをどんどん取り入れる国なのだから」と。
また、この秋に登場する予定の新型キューブについても触れた。「この秋にフルモデルチェンジするキューブをちょっとだけ見せます」(シルエット画像がモニターに映され観客からざわめきが…)。
「今度のキューブは海外にも出していく。ということは左右非対称のクルマに左右異なる設定を施すので2種類用意することになる。ここに生産関係の人がいたら文句を言われるだろうが、それでも右と左で違うものを作る。効率は悪いけどもキューブの価値はそこにあるといえる」と力説した。
そして最後に、「電気自動車の普及によって自動車のデザインも大きく変わっていく。今、日本の価値や美意識を世界に知らしめる、最高のチャンスだ」と説き締めくくった。