【AutoStanding】保証延長、メーカーとディーラーのねらい

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米国GMはエンジンやトランスミッションなど基幹部品の保証を走行距離10万マイル(約16万km)または5年間に延長すると発表した。これまでは通常で3万6000マイル・3年間、高級車で5万マイル・4年間であった。

この保証延長は9月から米国とカナダで順次発売する2007年型モデルの全車種が対象となっており、距離乃至は期間のどちらかが制限に達するまで部品を無料で修理・交換するとのことで、ワゴナーCEOは、「免責条件もなく、業界最高水準の保証」であるとのコメントを発表している。

今回のコラムでは、こうした「メーカー保証」が、メーカー及びディーラーそれぞれに対してどういった影響を及ぼすかについて考察してみたい。

◆自動車メーカーの狙い

メーカーが保証期間を延ばす狙いは複数あるが、一番の狙いはやはり消費者がベネフィットを感じる期間を延長することにより、商品そのものの価値を高めるて、結果としてより多くの消費者に車を買ってもらうことにあろう。

10万マイル保証は現代自動車が米国で既に導入しているが、現代の狙いも同様に品質面での安心感を顧客に与えることにより、台数をさらに伸ばすというものであった。

また、GMのマーク・ラニーブ販売担当重役は今回の販促策について、「価格を抑えた従来の販売奨励策(インセンティブ)から、保証拡充で消費者の信頼感を高める戦略への転換」と説明している。つまり、保証延長を提供する代わりに、(主に)ディーラー向けに支払っている販売奨励金を削減することにより台当たり利益を向上させる効果も、台数増と並行して狙っている。

しかし、これらの施策が吉と出るかは全て消費者が今回のGMの施策をどう受け止めるか次第である。というのも、安心感には2つ種類が存在する。

[1]「壊れても10年間も無料で直してもらえる」という安心感
[2]「10年間も故障に対してコミットできるなんて、よっぽど品質に自信があるのだろう」という安心感(信頼感)

GMとしては、出来れば、[2]のほうのイメージに先ずは持っていきながら台数を稼ぎ、並行して車両の品質改善へ取り組むことで故障率を下げつつ、当面ディーラー向けに支払うインセンティブを抑えることで台あたり粗利も確保する、というのがベストであろう。

しかし、そもそもの消費者のイメージが購入時から[1]の「壊れても修理してもらえるんだろ」という認識になってしまうと、数カ月−1年程度は台数増効果は期待できたとしても、仮に生産現場や設計現場(後者では設計から販売までのリードタイムを考えると間に合わないが)の努力により故障率を下げても、消費者の購入理由が「故障は全て免責無しで直してもらえるんだから、買った」というレベルとなってしまっては、ワランティークレームが続出して、台数効果を失うのみならず、ブランドイメージを損なってしまうことになるだろう。

拡充分の保証経費は人員削減などを通じて蓄えた90億ドルの中から充てられるとのことだが、見積もりと実態とのギャップが将来へと先送りになった可能性は無いだろうか。

◆ディーラーから見た効果

ディーラーの側から見ても、先ずはメーカー保証期間が伸びたことによる便益を消費者に伝達することにより台数を確保したい、というのは同様にあるだろう。これまで品質面での理由から日本車など(米国から見た)輸入車を購入してきた層を如何に取り戻すかという部分である。

しかし、喫緊の問題はインセンティブの削減である。上述の通り、GMのマーク・ラニーブ販売担当重役は今回の販促策について、従来の販売奨励策(インセンティブ)から、保証拡充で消費者の信頼感を高める「戦略の転換」と説明している。

つまり、今回の施策の結果メーカーからの販売奨励金を削減される可能性が高く、台当たり利益は減少する。これを台数増で如何にカバーするか、というのが直面する状況であろう。(もちろん、この分を消費者に転嫁することが出来れば良いが、消費者が値上げを許容するだろうか。とはいえ、小売価格への転嫁は必須で、今度は台数が伸びないといったことにもなりかねない。

もうひとつの効果はワランティー収益増だ。ディーラーは、メーカー保証期間内の故障部品については部品の交換と工賃を元にメーカーへと事態報告と共に請求し、収益を獲得しているという実態がある。

自動車ディーラーの売上総利益の約半分がサービス・部品の売上総利益である、というのは標準的な姿であるが、このサービス・部品売上・売上総利益を分解すると、[1]車検、[2]点検、[3]事故整備、[4]保証(ワランティ)となる。

国内の例を見てみたい。

自動車整備白書(平成17年度/2005年度)にある、ディーラー1事業所当り作業内容別売上高・入庫台数を見ると、ワランティは売上高でサービス・部品売上全体の4割程度、入庫台数では6割強を占める(ワランティ対象の売上が「その他整備」のほとんどどを占めると仮定)。

残念ながら売上総利益レベルでの内訳は無いが、およそ上記[3]の事故整備が入庫台数当たりの収益性が一番高く、ワランティ対象売上の収益性はレーバーレート他をメーカーとの間で握っている背景もあり、そこまで高くは無いと想像されるものの(メーカーやディーラーによって異なるだろう)、元々の入庫対象台数では全体の6割強を占めることから、ここの利益は無視できないレベルであろう。

メーカーによる保証期間が延びるということは、その分このサービス・部品売上を伸ばす要素となる為、ディーラーとしては歓迎である。しかし、その効果が出てくるのは今すぐではなく、今までの3年保証が10年になる場合は、今年9月販売のモデルから起算して4年後になってようやく追加のサービス売上を獲得するチャンスが訪れるはずだ(それまでは、これまでと同レベル。逆にメーカーの立場から見れば、キャッシュアウトを遅らせることが可能となる)。

また、「x台売ったら、y円販売奨励金を出す」という明確な形の取り決めがあるインセンティブ制度に比べて、メーカー保証の審査基準決定権と審査権そのものはメーカー側に留保されることから、ディーラーから見ると今まで以上にメーカー依存が高まる可能性も秘めている。

◆全ての価値の源泉は「顧客」にある

各種記事によると、前述の現代による10万マイルに加えて、フォードは5年間または6万マイルへの延長、クライスラー、ダッジ、ジープの各ブランドは7年間または7万マイルを3年間または3万6000マイルというへと短縮した。トヨタは現行の保証期間の変更を予定していないなど、各社の対応は異なる。

しかし幾ら目先を変えても、結局は主体は顧客にあり、お客様に車両本体の品質と、それに付帯する「安心して継続的に乗り続けられる」という価値を包括した「商品」をどれだけ評価してもらえるかが一番重視すべき点である(勿論、相対的な価格や広告・宣伝によるイメージ、購入ディーラーでの満足度など総合的なマーケティングミックスの結果が「商品」であるが)。

現代は10万マイル保証を実施した際に、ラインの最終検査を厳しくし、その後生産レベルでの不具合改善、更には設計・開発段階へのフィードバックを実施していると聞く。10万マイル保証の結果としての実績を判断するにはまだ時期尚早ではあるが、妥当な試みであろう(品質改善の実績は調査会社の指標では出つつある)。

会社の状況によっては、

[1]先に顧客に対して約束をして
[2]同時に、自らの商品(前述の総合的なマーケティングミックスの結果としての「商品」)をその約束レベルに合わせていく

というやり方が必要な場合もあるだろう。特に組織が肥大化していくと、こうした外部への全社でのコミットを先に打ち出していく必要が生じる場合が多い。

GMも顧客に一番近い場所での安心の約束から順を追って、徐々にそこから離れたサプライサイドの改善を実施していくことが出来れば、今回の施策は成功に近づいていくであろう。

しかし、もし上記「自動車メーカーの狙い」の章で仮説立てしたような「直近の業績・キャッシュへの影響」というのが主たる狙いであるとすれば、「ディーラーの疲弊」と同時に「顧客」の支持を失いかねないリスクを内在している。

結局のところ、全ての価値の源泉は「顧客」にあるのだから。

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