【AutoStanding】関西タクシーの挑戦とその可能性

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◆タクシー料金に「ゾーン運賃」導入へ

京都市山科区に在する関西タクシーが「ゾーン運賃」導入を計画している。京都市内の中心部8行政区にまたがるエリア内にて上限1130円で利用できるもので、これまでに空港、駅、港からホテルや中心街という特定乗降ポイントに利用者を運ぶ定額制はあったが「設定ゾーンで上限運賃を定めた制度はかつてない」という(国土交通省旅客課)。

例えば、JR京都駅から金閣寺付近までの約8kmを乗車した場合、従来は2000円程度かかったが、ゾーン運賃では半額になる。なお、ゾーンを越えて乗車する場合は1130円からメーター加算する。

近く京都運輸支局に申請し、来年1月のサービス開始を目指すとのことだが、当該運賃制の適用は無線配車に限定し、車両待機や途中乗降車などはできないなどの制限を設ける予定である。

タクシー業界は初乗り運賃の値下げや長距離割引などで激しい顧客獲得競争を繰り広げてきた。本サービスは地域住民の生活に密着した中距離利用をターゲットにし、タクシー料金を単に引き下げるだけでなく、市民の足として利用しやすいものにするという意図に基づき計画されているという。

もともと日本のタクシーは従量制によるゾーン運賃制度を適用している。初乗り料金の上限を660円、下限600円としその間の料金で輸送を開始し、移動距離+時間で積み上げる方式である。

では、今回はなぜ、地域を限定した定額制を採用したのであろうか。その理由について筆者なりに考察したい。


◆タクシー事業の現状

(1)減少する輸送人員と実車率

タクシーによる輸送人員数は2003年度で国内交通機関の年間輸送人員数(約287億人)の8%を占有しているが、1970年度の42億8900万人を頂点に減少を続けている。

また、お客を乗車して走行した距離を総走行距離で割った実車率は、全国平均で40.5%と低い。

●タクシー輸送人員
2004年3月末:23億5200万人(約6.5%減少)
1999年3月末:25億1500万人
●実車率、東京・大阪・名古屋の主要エリア平均値
2004年3月末:40.5% (2.3%減少)
1999年3月末:42.8%

(2)増加する事業者数と車両台数

2002年2月の改正道路運送法の施行により需給調整規制が撤廃され、事業者数と車両数は増加傾向にある。

●事業者数
2005年3月末:5万5126事業者(約3.5%増加)
2001年3月末:5万3285事業者
●車両数
2005年3月末:27万0703台(約4.5%増加)
2001年3月末:25万9033台

(3)純走行距離と実車距離も減っている

車両数が増えても純走行距離と実車距離は減少している。

●純走行距離
2004年3月末:127億3400万km(約2.3%減少)
2001年3月末:130億2400万km
●実車距離
2004年3月末:79億8000万km(約1.3%減少)
2001年3月末:80億8000万km

※データは国交省ウェブサイト、全乗連ウェブサイトより抜粋

過去、タクシー事業は法規制の下で守られてきたが、「サービスの自由化による公正な競争への移行」を目的に2002年2月に改正道路運送法が施行された。この規制緩和によりタクシーの需給調整規制が廃止されたが、上記のデータのごとく車両台数は増えたものの、実稼動は規制以前とあまり変わらず、利用者数は逆に減少していることが伺える。

市場規模が縮小する中で参画企業数(事業者数)が増加するということは、1社当たりの売上は必然的に減少する定めにある。

この需要減→参画企業数増→1社当たり売上減というスパイラルに個社が対応する手法としては、以下のような幾つかの施策が考えられる。通常、市場環境の悪化に対応するであろう順番で並べてみたい。

(1)コスト削減

タクシー事業者のコスト構成を見ると、人件費75%、燃料費6%、車両費5%、保険・租税等8%、その他6%と、費用の約8割が固定費となっている。固定費の最大構成要素であるタクシー運転者の人件費の削減は顕著で、現在では全産業平均年間所得の55%、約300万円しかない厳しい状況となっていることから、さらなるコスト削減の余地は限定的であろう。

(2)参画企業数を減らす---価格のダンピング

同業他社が追いつけないレベルの低料金設定により、競合を廃業に追い込むという手法だが、実際にはタクシー料金は規制されていることから実現可能性は(現時点では)無い。

(3)参画企業数を減らす---M&Aによる同業他社買収

これは可能性としてはあるだろう。しかし、タクシー事業者は資本金1億円を超える事業者が全国で1%に過ぎず、大多数が中小企業による経営という特徴を持っている。一部の規模の大きな事業者であれば実施可能かもしれないが、大多数の企業にとっては取り難い選択肢であろう。

(4)単価アップ

価格におけるプレミアムを取りに行く。サービス内容の高度化による超過収
益を獲得するというものだが、この超過収益をタクシーメーター料金で獲得
しようとすると、上記(2)と同じ理由から現実的ではない。例えば、タクシー
の窓に内側からはシースルー、外側からは見える「広告」が掲載されている
が、こうしたメーター外収益を獲得する施策を考える必要がある。

(5)需要喚起

顧客のニーズを再度定義し直したうえで、自社のマーケティングを見直す。これはタクシー輸送市場のみに限定して自社の戦いの場を定義するのではなく、冒頭に述べた国内交通機関の年間輸送人員数(約287億人)をベースに、その8%にしか過ぎないタクシー利用率を上げる手法を考えるというものとなるだろう。  

つまり、考えられる施策の中で現実的なのは残念ながら手軽な対応策の(1)−(3)ではなく、一番難しい(4)のメーター外収益獲得と(5)の需要喚起となる。


◆需要喚起・タクシー利用に関する問題点を解消する

順番が後先になるが、まずは(5)の需要喚起に関する関西タクシーの狙いについて考えてみたい。

先述の通り、タクシー業界では規制緩和により運賃料金の改定や観光タクシー、福祉タクシー等の新しいサービスを導入し利用者の利便性を高める努力をしてきた。しかし、残念ながら上記のデータから利用者の増加という結果は現れていない。

タクシーにかかわる利用者数を増やすには、利用者側のニーズを把握する必要がある。国交省の「魅力あるタクシー事業のあり方研究会」の中間レポートからタクシー利用に対する消費者の悩みの中で、今回紹介した関西タクシーの取り組みに関連している2点を紹介する。

(1)降りるまで運賃が分からない
(2)乗ってみるまでサービスの善し悪しが分からない

関西タクシーの取り組みは、京都というクルマでの移動が便利なエリアを定額制にすることによって運賃金額に関する安心感を利用客に与えることで、事前に顧客が得られる利便性を自然と説明する、というものである。

ちなみに、異業種である携帯電話業界でも電話料金、パケット通信・データ通信料金を従量課金から定額制に移行したことで顧客獲得増に繋がったのは有名だが、これもユーザーにいくら使っても大丈夫という安心感を与えたことが最大の要因である。


◆メーター外収益獲得・次なるサービスへの期待

次に、(4)のメーター外収益獲得に関する同社の狙いだが、定額制を導入することで利用者が増加すれば、本業以外の新サービスや新ビジネスも展開される可能性もあるのではないだろうか。

前述の通り、携帯電話/ネット通信は定額制に移行したことで加入者数が増加し、それに伴い多種多様な情報サイトやコンテンツ提供者が参入し、マーケット全体が活性化した。

例えば、本件のような地域に限定したサービスを提供するのであれば、地元の企業とも連携して地域密着型の情報を利用客に提供すれば(例えば、奥様向けの日替わり特売品紹介や地域イベントの紹介などをタクシー広告に掲載するなど)、地域経済に貢献するだけでなく、広告収入という副次的な売上も獲得できるであろう。


◆事業者側のニーズにもマッチする

さらに同社の手法は事業者側の事情もしっかりと汲んだ内容であると考えられる。タクシー事業者の営業スタイルは大都市と地方都市で異なる。大都市では流し営業型が85%と大部分を占めるが、中核都市では流し営業型が50%まで減少し、代わって無線配車が40%となる。さらに地方都市では無線配車や車庫待ちが50%以上となっている。つまり、都市部では日常の生活の中でタクシーを使用しているが、地方都市では必要な時にのみ利用するといった傾向があるといえる。

本件の定額制サービスは無線配車に限定していることから、地方都市の特性を捉えた施策であるといえる。また、無線配車であれば流し営業によるタクシー運転手への余計な付加が減ることにもなるので、経営者からすれば残業代などの形でのコスト増を回避出来るし、タクシー運転手からしても労働環境の改善にも繋がる期待が持てる。


◆終わりに

タクシーの利用目的は、目的地へ移動することに他ならないが、先に挙げた携帯電話についても会話をするという単純な目的であることは同じである。各キャリアから提供されるサービス内容に違いがあるからこそ、消費者は選択する楽しみがあり、マーケットの恒常的な活性化に繋がっているのである。

今後、このコラムで紹介した例のごとく、普通に生活している主婦や学生がタクシーを日常的に利用できるようなサービスが世の中のタクシー業者に求められるのではないだろうか。

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