ティーダの開発責任者である松本秀二さん(日産自動車商品企画本部チーフ・プロダクト・スペシャリスト)を、失礼を承知でひとことで表すなら「ハナシ好き」ということになるだろう。初めて会った事前撮影会の会場でも、初対面の筆者に途切れることなく30分以上も立ち話を続けた。もちろんそれは、ティーダの魅力についてのハナシだが。とはいえクルマの開発者で、ここまで親しみやすく饒舌な人は珍しい。
そんな松本さんの人柄はティーダの開発経過にも現れているようだ。
ティーダのコンセプトの原点は「カジュアルな中にも、上質な味わいがあるコンパクトカー」という発想だった。コンパクトカーでありながら、質感のあるインテリアとシーマ並みの居住空間をあわせ持つ、クラスを超越したクルマだ。しかし、そのようなクルマを作り上げるのは簡単ではないはず。
「よくエンジニアからは怒られましたよ(笑)。お前だって、元エンジニアなんだからできることと、できないことの区別ぐらいわかるだろうって。でもそこで諦めず、エンジニアにもティーダが高い要求レベルのクルマであることをトコトン説明し、じゅうぶん理解してもらうことで、こちらの難しいリクエストも受け入れてもらうことができました」
「さらにそうなるとエンジニアのほうからも、ティーダならこんなアプローチもできる、といった提案も多くもらえるようになりました。アームレストのソフトパッドもその一例です。そういった積み重ねで、今のティーダができたのです」と語る。
コンセプトを見ただけで、実現させることが難しそうなクルマを作り上げてしまったのも、松本さんのコミュニケーション能力の高さゆえ。エンジニアから提案に対して多くのフィードバックを得られたのも、ハナシ好きで親しみやすい開発責任者であったからだろう。(つづく)