【放談会2002 Vol. 4】ゴーン改革の先に来るもの

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三浦 「日産は本当に再生したのか」に対する答えは、おふたりとも答えは「NO」のようですね。

牧野 たしかに、短期間のうちに財務体質を改善し、株価と「格付け」の連鎖下落を止めるには、ゴーン氏のやり方がベストなのでしょう。コスト低減にしても、とにかく削れるだけ削るしかなかった。それは私にもわかります。しかし、これから大事なのは、最後まで日産の要求をのんで原価低減に協力してくれた部品メーカーや、会社に残って頑張っている従業員に対して、じゃあ今度はどんなインセンティブを与えられるか、です。互いに将来のビジョンをしっかり描き、がっちりとスクラムを組んでやってゆけるか。そうでもしなければ、日産だって従業員だって部品メーカーだって浮かばれないはずです。証券アナリストとかいう虚業の連中に、一瞬認められるような業績になったとしても、従業員と、一番大事な日産車ユーザーが認めるとは限らない。

安田 その関連で言うと、ひとつ日産にとって不運だったと思うことがあるんですよ。日産の経営がおかしくなったタイミングは、バブルが崩壊し、日本中が「グローバリゼ−ション」という言葉に代表される“変革”にあこがれていた、熱病のようにうなされていた時期なんです。

牧野 とにかく「変わること」が大事で、それ自体が自己目的化していました。何がなんだかわからんが、とにかく現状のままいることは「悪」だ、と。

安田 そのうえ銀行は不良債券の処理に追われ、企業に対する融資がうまくできなくなっていた時期でもあった。企業は資本市場から資金調達しなければならない。そのときにモノを言うのは、アメリカのムーディーズのような格付け会社による企業のランク付けです。日産の格付けはみるみる下がって行った。これはいかん、ということで、あわてて外資と資本提携した。

牧野 それで一気に欧米型経営へと乗り変えました。

安田 欧米型というのは、言い換えれば株価重視型です。株価のために何かをやり、株主に利益を還元する。しかし、それが本当に正しいのか。たとえば、アメリカのエンロンという会社が経営破たんしましたが、ここはもともとはガスのパイプラインメーカー、つまり製造業なんです。それがいつの間にか株価重視経営になり、製造業である部分をなおざりにしてエネルギーだとかサービスの卸し業だなんていうことを言い始めた。目論み通りに株価は急上昇したが、最後は倒産です。格付け会社もアナリストもその経営実態を見抜けなかった。それどころか、一部のアナリストはエンロンをとんでもなく持ち上げた。いまアメリカはアナリスト規制を打ち出している。

牧野 まさにギャンブル資本主義ですね。しかも、確信犯でもちあげて私腹を肥やしたアナリストがいる。

安田 日本でも証券アナリストは「自主規制」とか言い始めたが、その内容の一つは驚くなかれ、『自分が担当している業界の株を買ってはいけない』ですよ。じゃあ、いままでは自分で持ち上げて自分で株を買ってたの? ということになる。明らかにインサイダーですよ。日産がダイムラ−・クライスラーと資本提携交渉をしていたとき、あるアナリストはボロクソにけなした。ところがルノーと提携したら「日産=ルノーがトヨタを追い抜く」というコメントが新聞に載った。何のことはない、彼が所属するシンクタンクが日産とルノーの交渉に参加していたんです。

牧野 そういういいかげんな連中が、欧米型経営だの株主へのディスクロージャー(情報公開)だの言ってるから、ますます信頼できませんね。いすゞに向かって「トラックなんか儲からないんだからやめるべきだ」と言ったアナリストもいます。トラックがなかったらどうするの? と聞きたい。

安田 株価は企業の業績を反映すると言うけれど、本当にそうなのか。株価ばかりに振り回されるような経営スタイルでは、日本が得意とするようなモノ作りは維持できない。

牧野 重厚長大産業をバカにする傾向がありますが、そういうところで汗を流さないと日本という国は生きて行けない。ITじゃ1億2000万人は食えない。

安田 自動車は国の基幹産業です。ここがしっかりしないと日本はダメになる。そういう意味でも、日本型経営のトヨタが勝つのか、欧米型に乗り換えた日産が勝つのか、非常に重要なのです。

牧野 本来は、トヨタと日産が互いに切磋琢磨しながら、日本の自動車産業のレベルをぐいぐい上げて行くべきなんです。互いに尊敬い合い、しかし商品では一歩も引かず、環境・安全といった社会的性能の向上にもしのぎを削る。そういう競争が見たい。

安田 そう思います。しかし、ルノーとの関係の中で日産がモノ作りを大事にしているとは思えない。もう一度、組む相手を考え直しても良いのではないかと思うのです。たとえばGMは、49%を出資するいすゞについてさえ、その独自性を認めているじゃないですか。49%ですよ。これから先、日産がグローバルな競争のなかで勝ち残ってゆくためには何が必要なのか。ルノーとの関係を継続することが果たしてプラスなのか。日産の生え抜きの経営陣は、本当によく考えてほしい。カネを出した側が強いのは仕方ないにしても、現状では、日産はルノーにおいしいところを全部取られている。これをなんとかしないと日産の先行きは非常に不安です。

牧野 安田さんは「日産=フォード連合」説ですよね。

安田 珍説だと言われますがね。

牧野 私は大賛成です。フォード家がしっかり舵を取る「自動車メーカー」としてのフォードと、モノ作りに一家言ある日産の組み合わせです。邪念を払って、自動車の未来のために尽くす。そういう連合ができると思うんです。それでトヨタ、GMと対峙する。「ブランド」に走ったダイムラ−ベンツを目覚めさせる。『400万代クラブ』だとか株価だとか、どうでもいい数合わせから世界の自動車業界を目覚めさせる。そのためのショック療法としても、これほどインパクトのある連合はありませんよ。

《レスポンス編集部》

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