【マツダ ロードスター 新型試乗】最新モデルが「大幅」進化と謳う理由…中村孝仁

マツダ ロードスター
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  • マツダ ロードスター 新型(左)と従来型(右)
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◆最新モデルが「大幅」進化と謳う理由

NDというコードネームを持つマツダ『ロードスター』が誕生して既に9年目のモデルイヤーを迎えた。驚いたことに2018年以降毎年商品改良がなされている。そして昨2023年には「大幅」と名の付く商品改良がおこなわれ今に至っている。その大幅と名の付く商品改良を受けても、外観からそれを察知することなどほとんど不可能と思えるような改良なわけで、それでも敢えて「大幅」と謳うには訳があった。

最大の変更点はサイバーセキュリティー法案(UN-R155)という自動車に対してサイバーセキュリティー対策を義務付ける法規で、これをクリアしないと日本やヨーロッパでは販売できなくなり、そのための対策を施したというのが一番の変更であった。とはいえ折角だからこの機会にあれやこれやあってしまおうということで、ついにACCが装備されたり(マツダではMRSCCと呼ぶ)、スマートブレーキサポートが付いたり、さらには大型の8.8インチディスプレイが装備されるなどの変更が加えられた。

ついにACCが装備されたロードスターついにACCが装備されたロードスター

また、ベースグレードの「S」を除いてアシンメトリックLSDという、加速時と減速時で異なる作動制限を加えるシステムの装備がなされた他、パワーステアリングのモーターアシスト制御ロジックを変更して自然ですっきりとしたフィードバック感を実現したとある。エンジンも国内ハイオクガソリンに合わせた専用セッティングを施すことで出力が3kw向上しているそうだ。

と、ここまではプレスリリースの受け売りである。例によって試乗には旧型モデルが用意されていて、ステアリングフィールやアシンメトリックLSDの装備による乗り味の違いなどを体感できる趣向が凝らされていた。私が試乗したのがSグレードのモデルとアシンメトリックLSDを装備した上級モデル及びそれぞれの旧型の比較試乗ということである。

◆開発陣の潔さがこのクルマを特別な存在にしている

マツダ ロードスター 新型(左)と従来型(右)マツダ ロードスター 新型(左)と従来型(右)

今回の商品改良で前回登場して好評を博した「990S」がカタログ落ちすることになった。御存じの通り990Sは1tを切る990kgの車重を実現し、軽くひらひら感を強く押し出したモデル。個人的にはスタビのあった方が以前は好みだったが、今回はその逆になった。990Sがカタログ落ちをしたのは、サイバーセキュリティーに対処して追加の装備を加えたことで車重が重くなったのが理由である。まあ、数kgレベルのことで、実態としては大きくは変わらない。

このベースグレードのSの場合、オープンデフが装備されてリアのスタビライザーも省かれているから、簡単に言ってしまうとリアがより柔らかい動きに終始する。何故こいつが好みだったかというと、旧車のオープン2シーターに相通じるしなやかで快適な足の動きがあったから。前回はそれが古さを感じさせていたからスタビ付きが良かったのだと思うが、スタビを入れてアシンメトリックLSDを装備すれば、リアがきちっと決まって限界性能が高くなるし、高い速度域での操安性が良くなるのは解っていても、それを重々承知で敢えてSグレードを好むのは、一つは歳のせい。公道でのワインディングを気持ちよく走ろうと思うとこのグレードの方が乗り心地が良く、よりひらひら感の演出が強調されるからである。それに速く走ろうとも思わない。だから、ドライバーの性格、年齢によってチョイスは明確に異なることになると思う。

マツダ ロードスターマツダ ロードスター

ともあれ、最初にSグレードで新たにキャメルカラーのソフトトップを装備したモデルに乗った。もちろん出発前にオープンにしたことは言うまでもない。コックピットを見渡しても違いはほとんど感じられなかったのだが、後で旧型に乗って分かったのはセンターにつくディスプレイが大型化していたことである。比較してみるとその違いに驚かされるレベルだが、どうせならもっと大きくすればよかったのに…。

それにグローブボックスぐらい付けて欲しいと勝手な注文を出したところ、ダッシュボードの内側はぎっちりと詰まっていて、最早1mmの猶予もないという。だから8.8インチが限界でそれを横方向に大きくするのは出来ないし、縦方向も伸ばせば視界を遮るのでそれも出来なかったとのこと。いわんやグローブボックスなどとんでもないとのこと。要するに限界ぎりぎりを攻めているということだそうである。ボディサイズを大型化することなど、マツダの技術陣には端っからない。その潔さがこのクルマを特別な存在にしている大きな理由だと思う。

マツダ ロードスター(Sスペシャルパッケージ)マツダ ロードスター(Sスペシャルパッケージ)

◆個人的にはスタビなし&オープンデフをチョイス

アシンメトリックLSD付きとオープンデフにスタビ無しの乗り味は顕著に異なる。後者の場合荒れた路面では明らかにステアリングを取られるし、コーナリング中もスピード域が上がれば安定感を欠くことは言うまでもないのだが、どっちが気持ち良いかと問われたら、個人的には文句なしにスタビなし、オープンデフをチョイスする。僅か2年経つとこうも嗜好が変わるかと我ながらびっくりした。まあ、考え抜いたうえでアシンメトリックLSDを装備した開発陣には申し訳ないが…。

ステアフィールに関してはピニオンの位置を変更してステアリングの剛性を引き上げているそうだが、旧型と乗り比べて感じたのはターンインの時のスムーズさが向上している印象である。前回も伊豆のワインディングで試した時と山を下りて都会で試した時の印象がずいぶんと違っていたので、近いうちにまた試してみようと思う。きっと山では邪道だと思ったACCに案外高評価をしたりするかもしれない。

マツダ ロードスターマツダ ロードスター

■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★★★
おすすめ度:★★★★★

中村孝仁(なかむらたかひと)AJAJ会員・自動車技術会会員
1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来46年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。最近はテレビ東京の「開運なんでも鑑定団」という番組で自動車関係出品の鑑定士としても活躍中。

《中村 孝仁》

中村 孝仁

中村孝仁(なかむらたかひと)|AJAJ会員 1952年生まれ、4歳にしてモーターマガジンの誌面を飾るクルマ好き。その後スーパーカーショップのバイトに始まり、ノバエンジニアリングの丁稚メカを経験し、さらにドイツでクルマ修行。1977年にジャーナリズム業界に入り、以来45年間、フリージャーナリストとして活動を続けている。また、現在は企業やシニア向け運転講習の会社、ショーファデプト代表取締役も務める。

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