自然エネルギーの普及並びに蓄電、送電技術の進化において事業を展開するパワーエックス(Power X)は12月15日午前9時より、成田国際空港と共に、同空港第一ターミナルP1駐車場において、国内の空港としては初となる超急速充電サービスの一般利用を開始した。
◆蓄電池併設、低電圧契約でも最大150kWの超高速充電を実現
これはパワーエックスが進める蓄電池式超急速EV充電器「Hypercharger(ハイパーチャージャー)」の設置によるもので、国内の高速道路等へ広く設置されている50kWの急速充電に比べて圧倒的に速い最大150kWの超急速充電を利用できる。そのポイントは358kW/hの蓄電池を併設したことにあり、これによって貯め込んだ低圧の電力であっても一気に出力できる環境を実現。低圧受電の環境下でも充電時に必要な高出力の電力を提供可能とした。

そのため、この充電環境を利用できる車両であれば、従来の約半分の時間で充電が完了する。たとえば10分間充電すれば約130km分の航続距離分が充電できる計算になるという。利用料金は、充電した分に対して料金を支払う完全な従量料金制を採用しており、たとえば車両側が低電圧の入力しか対応していない場合でも、時間制のように均一で料金が徴収されることはない。
24時間いつでも利用でき、事前に予約さえしておけば、多くの急速充電器に設定されているような30分を超える最大1時間の利用が可能となる。これは、たとえば日産『サクラ』のように、入力が最大30kWにとどまるような車両にとってはメリットを実感できる対応と言っていいだろう。ただし、普通充電には非対応で、入力側がCHAdeMO(チャデモ)方式に対応していることが条件となる。

◆入会金や月々の基本料金は不要、アプリ一つで簡単に
このパワーエックスの充電設備を利用するにあたっては、認証ためのカードなどは不要で、専用アプリをスマホにダウンロードすることが前提となる。利用する際の入会金や月々の基本料金が発生することはなく、使った分だけが課金される仕組みとなっており、利用にあたってのハードルは低い。
料金体系は使用する電力の種類によって、「Premium(純再エネ100%)」「Regular(純再エネ70%)」「Economy(系統電力)」の3つに分けられ、再生エネルギーを基本とした電力を使う場合は割高にはなる。ただ、火力がメインの系統電力を避け、再生可能エネルギーを使用することを基本としている利用者にとっては使いやすい料金体系とも言える。

また、この充電器では同時に2台の充電が可能となっているが、その場合でも120kW/台の超高速充電が可能となっていることも見逃せない。これも蓄電池を併用したことで実現できたものだ。P1の立体駐車場脇にあるその蓄電池は、接地面積が乗用車1台分、高さも3m近くはありそうな巨大な設備。ただ、パワーエックスによれば、現在はサイズダウンした設備の生産が始まっており、今後はより省スペースでの設置が実現できるとのことだった。
通常なら夜間の充電は火力で作り出した電力を使わざるを得なかったが、パワーエックスとしては自社で製造した蓄電池に再生可能エネルギーで発電した電力を貯められるようにしたことで、昼も夜も再エネ由来の電力を提供できることを最大の特徴としている。すでに同様の施設を東京に2カ所、京都に1カ所設置済みで、12月中にも栃木県那須にある千本松牧場と東京丸の内に2カ所を加え、来年には100カ所にまで増やす計画だという。

◆2050年度CO2排出量実質ゼロを目指す成田空港
一方で、パワーエックスの超高速設備を設置することになった経緯について成田空港は、2050年度のCO2排出量実質ゼロを目指す「サステナブルNRT2050」を掲げていることや、12月1日には、国内空港で初めて「成田国際空港脱炭素化推進計画」が国土交通大臣の認定を受けたことが背景にあったと話す。
具体的には、まず2030年までに空港で使用する車両の脱炭素化を50%削減し、2050年にはカーボンニュートラルの実現を目指すことを目標とする。そのためにも、充電に使う電力のグリーン化への取り組みは欠かせず、その意味でもパワーエックスが推進する再エネ電力の活用は大きなプラスになると考えたようだ。
成田空港として他ターミナルの展開や普通充電器の設備拡充について尋ねたが、「この設備の利用状況を鑑みながら検討していきたい」と回答するにとどめた。ただ、空港という離れた場所にある環境を踏まえれば充電設備の充実を求める声は少なくないはず。この超高速充電器の設置をきっかけとして、充電設備の一層の充実を期待する。