2026年に「革新的な燃料電池」を実用化、トヨタの水素戦略 水素エンジン、eフューエルの可能性

FCの大型/小型トラックや水素エンジンのレクサスLXなど、トヨタのゼロエミッションビークル
  • FCの大型/小型トラックや水素エンジンのレクサスLXなど、トヨタのゼロエミッションビークル
  • FC大型トラック
  • 水素エンジンのレクサスLX
  • トヨタ自動車 水素ファクトリープレジデントの山形光正氏
  • 2030年の水素市場規模
  • 燃料電池市場の見通し。2030年には5兆円規模に
  • 水素事業、収益見通し。2030年に10万台を見込む
  • マーケットのある国での開発・生産をおこなう

トヨタ自動車は、「クルマの未来を変えていこう」をテーマにした技術説明会「Toyota Technical Workshop」を報道向けに開催。バッテリーEVの革新技術と並び、トヨタが心血を注ぐのが「水素」を核としたクルマづくり、および水素社会の実現に向けた取り組みだ。同説明会では、航続距離を20%向上した商用向けの次世代燃料電池セルを2026年の実用化をめざし開発中と発表。水素ファクトリー プレジデントの山形光正氏は、「水素を一気に加速させる」と語る。

トヨタは2030年の燃料電池(FC)市場の見通しを1年あたり5兆円と見積もる。その多くを占めるのが、中大型トラックと小型商用車だ。その中でトヨタは大型トラックと小型商用車を合わせ10万台を見込む。また更なる量産を経てコストを半分まで低減した上で、提携を含め20万台にも達すると試算する。これに対応するため、(1)市場がある国での開発・生産、(2)欧州や中国での有力パートナーとの連携強化、(3)競争力を高めるための次世代FC技術の革新的進化、を掲げる。

◆2026年に「革新的な次世代FCセル」を実用化

次世代技術の発表の場となった同説明会でアピールされたのは、トヨタが開発する次世代FCシステムだ。そのひとつが高寿命、低コスト、低燃費といった商用ユースに応える業界トップクラスの性能を実現する「革新的な次世代FCセル」で、2026年の実用化をめざし開発を進めている。メンテナンスのインターバルをディーゼル車比で約2.5倍とし、FCスタックのコストは現在の2分の1に、航続距離は同20%向上を見込むという。

また、同一の設備で混流が可能なセルを原単位として、セルの搭載枚数を変えることで様々なシステム出力をもつ車種に対応、同時にコスト低減を図る。公開された資料には、大型トラックから、フルサイズピックアップトラック、小型トラック、乗用SUVやMPVと多彩なバリエーションに対応することが書かれている。

革新セル性能と共通化によるバリエーション展開

大型商用車向けには、大規模な水素消費が見込まれることから、タンクの規格化に挑戦し水素需要の拡大を加速する。欧、米、日各社のタンク規格を統一化して数量をまとめることで25%の製造コスト低減を目指す。具体的には長さ1800~2200mm、直径470~500mmの水素タンクを原単位として、この搭載数によって様々な用途に対応するというもの。同時に、大型商用車向けの液体水素タンクも開発中だという。

さらに、大型車から小型車まで様々なタイプの車両に対応できるよう、搭載性に配慮して設計した水素タンクを開発中として、そのコンセプトも公開された。従来の水素タンクは充填された水素の圧力、強度の観点から円筒形が主となっている。しかし円筒形の大きな水素タンクは搭載位置が制限されるため、自由な車両開発が困難だという課題がある。コンセプトでは、BEVのバッテリーのように車体下に敷き詰められるような平型のものや、馬に取り付ける“鞍(くら)”のような形状の試作も見られた。

◆水素エンジン車の実証車も、メリットと実用化の課題は

カーボンニュートラル実現に向けた水素の新たな選択肢として「水素エンジン車」の開発もトヨタは進めている。国内ではスーパー耐久レースに参戦する「水素カローラ」の奮闘が話題となっている。この水素エンジン車はFCEVとは違い、水素から発電するのではなく、ガソリン車などと同じようにエンジン内で燃焼させることで走る。水素エンジンは排気後処理システムなどディーゼルエンジンの技術の多くを活用することができるものの、水素を燃焼させることで発生する水がエンジン内(燃焼室)に入ってしまうという課題がある。トヨタはレースのほか、公道走行が可能なナンバー付きの実証車(レクサスLX)を用意することで市販化をめざした開発を加速させる。


《宮崎壮人》

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