セダンだけどファストバック、伝統に抗った新型『クラウン』のデザイン「5つの見所」

トヨタ クラウン クロスオーバーRS Advanced
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  • ハンマーヘッドデザインがわかりやすい「バイトーン」仕様
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  • 新型クラウンのチーフデザイナー宮﨑満則氏
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今回の「2022-2023 日本カー・オブ・ザ・イヤー」でわたくし千葉匠は新型トヨタ『クラウン』に10点を投じた。もちろんそのデザインを高く評価してのことだ。では、どこが皆さんに注目してほしいポイントなのか? まずはエクステリアの5つの見所を解説したい。

◆見所1:セダンだけどファストバック

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新型クラウンには「クロスオーバー」というサブネームが付いている。大径タイヤを履き、フロアの地上高を上げたのはSUV的。しかしあえて5ドアにせず、独立したトランクを設けた。「クラウンはセダンであるべし」という強いこだわりだ。

トヨタは7月に4車種からなる新型クラウンを発表したが、プロジェクトの発端として最初にデザインしたのが今回のクロスオーバー。4車種すべてのPCD=プロジェクトチーフデザイナーを務めるMSデザイン部室長の宮崎満則氏は、「チーフエンジニアの皿田(明弘氏)から、セダンでやってほしいと言われていた」と明かす。

独立したトランクを持つセダンという形態にこだわりながらも、プロポーションはファストバックの2BOX。「セダンは3BOX」という伝統的な価値観にあらがった。これが新型のデザインの、何よりの見所だ。クラウンの伝統を大きく革新した。

セミファストバックのセダンだった先代クラウンセミファストバックのセダンだった先代クラウン

先代クラウンは強く傾斜したリヤピラーと短いリヤデッキを組み合わせたセミファストバック。そのためにキャビンをクラウン史上で初めて、リヤドアの後ろにクォーターウインドウを設けたわけだが、当時のクラウンとしてはそれが「伝統の革新」の限界だった。しかし新型のデザインは、クロスオーバーという新境地に挑む商品企画を乗じて限界を押し広げ、セミではない完全なファストバックを実現させた。

ファストバックとは「ファスト」な勢いを持つ「バック」のこと。ルーフサイドのラインがS字を描くと勢いが緩んでセミファストバックになってしまう。先代はサイドビューでも俯瞰ビューでもS字になっていた。しかし新型はひとつのカーブでスッと後端まで延びていく。

「そこは意識しました」と宮崎氏。ちなみに彼は81年入社のベテランだ。そもそもファストバックが最初に流行ったのは60年代のアメリカ車だが、筆者が取材でそんな話をデザイナーに振って通じたのは。最近では宮崎氏だけ。カーデザインの伝統を知るデザイナーがチーフを務めたからこそ、伝統を革新する正統派のファストバックが生まれたと言えるのかもしれない。

◆見所2:「バイトーン」ありきのデザイン

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新型クラウンのボディカラーは全12色。そのうち6つがツートーンだ。しかしルーフだけ、あるいはキャビンだけの色を違えたツートーンではない。基本のボディ色に対して、ボンネットやルーフ、リヤエンドをブラックにしている。

これをトヨタは「バイトーン」と呼ぶ。デザインが出来上がってから2色に塗り分けたのではなく、「若手がバイトーンでスケッチを描いて、これをやろうとなった」と宮崎氏は振り返る。バイトーンありきのデザイン。ボンネットの開口線を見れば、それがわかる。

ボンネットは両サイドで一段盛り上がっている。いわゆるボンネットバルジだ。開口線から柔らかな凹Rで面を持ち上げ、シャープな凸の稜線へと続いてバルジを構成するのだが、バイトーンでなければ、凹Rのラインとは少しズレた開口線を引くこともできただろう。しかし「バイトーンありき」では開口線が色の境目になるから、立体の区切りになる凹Rのラインに沿って開口線を引かなくてはいけない。

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凹Rのラインとシャープな稜線は、ヘッドランプの内側の端に向けて絞り込まれている。そのぶんフェンダーの前端が内側に引っ張られ、フェンダーのプレスが深絞りになる。宮崎氏によれば、「フロントフェンダーのプレスの深さは、レクサスの現行『LS』を超えてトヨタで最も深い」。

LSは田原工場で生産。クラウンは元町工場だ。「田原のプレス機を元町に移す話も出たけれど、元町工場が『オレたちにもできる』と、プレスの方法を検討してくれた」と宮崎氏。

バイトーンのデザインは、生産現場の創意工夫があってこそ実現した。宮崎氏は「クラウンだからできたのかもしれない」。その言葉は、初代からクラウンを作り続けてきた元町工場のプライドを代弁しているように聞こえる。

◆見所3:ハンマーヘッドのテーマ

ハンマーヘッドデザインがわかりやすい「バイトーン」仕様ハンマーヘッドデザインがわかりやすい「バイトーン」仕様

フロントに注目しよう。バイトーン仕様で見るとわかりやすいが、ボンネットは前方に向けて絞り込まれた後、その前端で左右に広がる。広がったところに、アッパーグリルとヘッドランプ、そして横一文字のDRLを組み込んだ。

トヨタが「ハンマーヘッド」と呼ぶデザイン。ハンマーヘッドシャーク=シュモクザメをモチーフにしつつ、ワイドに広がる部分に機能部品を集約してシンプルに見せる。バッテリーEVの『BZ4X』で最初に採用したテーマだ。

7月にワールドプレミアされた4タイプのクラウンは、振り返ればどれも「ハンマーヘッド」の顔付きだった。さらに、11月16日にデビューした新型『プリウス』も「ハンマーヘッド」だ。

新型プリウスのPCD=プロジェクトチーフデザイナーを強めた藤原裕司氏は、「たまたまハンマーヘッドが続いたのではなく、意識してそれをやっている」と語っていた。どうやらこれが、従来の「キーンルック」に代わるトヨタの新しいフロント・アイデンティティらしい。ヘッドランプの眼付きがキーン=鋭いことに変わりはないから、「キーンルック」の進化版が「ハンマーヘッド」なのだと受け止めて良いだろう。

新型プリウスもハンマーヘッドデザインを採用している新型プリウスもハンマーヘッドデザインを採用している

◆見所4:コアをシェルが包むフォルム

「ハンマーヘッド」のフロントを仔細に見ていくと、面白いことに気付く。例えばボンネット前端でハンマーヘッドがワイドに広がった部分。こことフロントフェンダーは面一ではない。フェンダー側がわずかに出っ張っている。さらにフロントフェンダーは、ボンネット開口線に沿って凸の折れ線を加えることで、フェンダー面をボンネットより少し高く見せている。

なぜ面一ではなく段差を設けたのか? プロジェクトチーフデザイナーの宮崎氏は「面一にしたほうがよいという意見も社内にあったけれど、コアをシェルが包み込むというテーマにこだわった」と告げる。

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ここでもバイカラー仕様がわかりやすい。バイカラーで黒くなるところが、コアだ。グリルやランプ、ボンネット、ルーフ、リヤのランプやトランクなど、クルマの基本機能に関わるところをコアと位置付け、それを両サイドからシェルが包み込む。

バイカラーで黒くなるリヤエンドに、あえてリヤフェンダーと段差を付けたのも、「コアとシェル」のテーマに沿ったものだ。よくあるツートーンと違ってピラーをボディ色にしたのは、そこがキャビンを包むシェルだからだ。この「コアとシェル」のテーマは、4タイプの新型クラウンのなかでもクロスオーバーだけの個性である。

◆見所5:「オロイド」のテーマはハリアー譲り

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「コアとシェル」のテーマのなかで、ボディサイドはシェル。リヤフェンダーの力強いボリューム感も魅力だが、ここではフロントフェンダーからリヤドアに至るダイナミックな造形に注目したい。

前輪の後ろではシンプルな丸い断面だったものが、リヤドアに向かうにつれて、折れ線を伴う断面へと変わる。とても質の高い断面変化だが、どこかで見たような…と記憶を辿ると、現行『ハリアー』が思い当たる。

宮崎氏に問いかけると、「我々が『オロイド』と呼んでいるテーマが、基本的にハリアーと同じなんです」。オロイドとは同じ大きさの2つの円盤を直交させ、それぞれの円周を直線で結んでできる立体のこと。シャープエッジがあるのに滑らかに転がり、しかも重心点が蛇行しながら転がるという不思議な立体だ。

トヨタ ハリアートヨタ ハリアー

実は宮崎氏は新型クラウンに携わる前、ハリアーのデザインを担当していた。「ハリアーではハイコントラストな造形にしたいという狙いがあり、それに応えて若いデザイナーがオロイドのテーマを提案した」と宮崎氏。

そのオロイドのテーマを、今回のクラウンでは少し違うニュアンスで、具体的にはシャープエッジをあまり強調しないように表現した。丸い断面が醸す豊かさを重視したところに、クラウンらしい車格感が現れていると言えるだろう。

《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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