昨年末、トヨタ自動車が将来的な電気自動車(BEV)戦略を発表した。脱炭素社会の実現に向けて国内でもEV市場が本格化する中、これからの社会・自動車業界はどう変化していくのか。モータージャーナリストの岡崎五朗氏への連載インタビュー企画「EV新時代到来」では、さまざまな観点からEV普及の動向と展望を探る。
第一回目は、これまでの自動車開発の歴史を振り返りながら、日系メーカーがどのようにEV戦略を進めてきたのかについて整理する。
日本車は黄金期を迎えつつある
----:日本のメーカーのEVも増えてきて、いよいよ本格的に市場に出てくるタイミングですね。
岡崎五朗氏(以下敬称略):EVの話をする前に、日本の自動車産業の状況をお話ししてもいいですか。と言うのもいま、日本車のハードウェアはものすごくいいところに来ているからなんです。さかのぼると、89年頃に『スカイラインR32GTR』、『NSX』、『セルシオ』、『ロードスター』、『レガシィ』が登場し、ヴィンテージイヤーを迎えたのですが、その後のバブル崩壊でしゅんとしてしまいましたね。

その後徐々に盛り返しつつあったところにリーマンショックが起きてしまい、また萎縮してしまいました。その後の日本車というのは、とにかく燃費が良くて、安い、壊れない、というだけの合理的な方向に行ってしまいました。
その当時の象徴的な車が、先代『カローラ』です。カローラというのは日本のファミリーカーの中心でしたが、もう営業車としても乗りたくないくらいの安普請の車になってしまいました。「このまま行ったら、次のカローラないですよ。」と試乗会で言ったくらいです。
まずまっすぐ走らない、内装が安っぽく、音がうるさい、遮音材が省かれたこともすぐにわかるし、足にお金をかけていない、ダンパーも最も安いの選んだでしょうという、そういう車でした。日本車はこのままどうなってしまうんだろうと思っていたのですが、このままではまずいと日本のメーカーも気付いたんですね。壊れなくて、安くて、燃費がいいだけだと、そのうち中国にやられるだろうと。韓国も力をつけてきていました。
では自分たちの強みをどういうところにするのかというところを一番はっきりと表したのは、豊田章男さんの言った「もっといい車を作ろうよ」というスローガンです。それを受けて、トヨタ車は変わりました。トヨタ車が変わると、日産もホンダも頑張って作るようになりました。
ということで、最近出た日本車は、例えばドイツ車と比べても負けていないんじゃないかというところまでハードウェアが良くなってきています。そのことはまだ一般的には知られていませんが、日本車はすごくいいところに来ています」
----:それは動的品質も含めて、ですか?
岡崎:そうです。例えば『シビック』に乗ってみると、『ゴルフ8』よりかなり多くの部分で超えていますし『ヤリス』に乗ってみてもしっかり走ります。車の楽しさでいくと、『GRヤリス』であったり、『アウトランダーPHEV』は世界一のプラグインハイブリッドですし、そういうものがどんどん出てきています。
一時期僕は読者の人に「なぜドイツ車や輸入車ばかり褒めるんだ」と言われていましたが、今は逆に思われてるかもしれないです。そのくらい日本車の立ち位置がとても良いところに来てるというのが、今の日本車の状況です。
----:非常にモノが良くなってきているんですね。
岡崎:そういうことです。例えばフォルクスワーゲンの『ゴルフ7』は、まるで高級車のような作りで驚かされましたし、日本でカーオブザイヤーも取りました。でもゴルフ8になると、安っぽくなっていると気づくところが多々ありました。グローブボックス開けると、前は起毛のシートが貼ってあったのに、プラスチックがむき出しとか、ボンネット開けてみると、ダンパーが付いていたのがつっかえ棒になっていたり。
ハードウェア的には7と8はそんなに変わってないんですが、そういったかつての日本車のようなコストダウンをフォルクスワーゲンがしています。要はその分の投資を電動化に使ってしまっているんですね。
そういった状況を見て、日本車が世界一になれるかもしれないという夢が、バブル期には単なる夢で終わってしまったのですが、今はそこが見えてきています。
出遅れではなく、やり方の違い
----:そこへ電動化の波がやってきたということですね。
岡崎:電動化については、日本は出遅れたと大手メディアに書かれていますが、本当に出遅れているんでしょうか。そんなに電動化を急いだ方がいいのなら、なぜ日産は経営危機を迎えたんでしょうか。早くやればいいのなら、『リーフ』を出した瞬間に世界中から賞賛されて、バックオーダーの山になって、今頃トヨタを抜いていてもおかしくない。でもそうはならなかった。