キャンプ・災害・除雪機・パワーショベル…ホンダの交換式バッテリーで広がる世界

第2世代でどこが変わったのか

インドで交換式バッテリーのシェアリングビジネス

コネクテッドバッテリーとしての可能性

交換式バッテリーで家産家消

EV・eバイクだけでないポータブルパワーソース

交換式バッテリーのデファクトスタンダードへ

ホンダ:第2世代モバイルパワーパックe:発表
  • ホンダ:第2世代モバイルパワーパックe:発表
  • ホンダ:第2世代モバイルパワーパックe:発表
  • ホンダ:第2世代モバイルパワーパックe:発表
  • 電動リキシャ
  • 電動リキシャ
  • 電動リキシャ。パックは4つ、48Vを並列につなぐ
  • 電動リキシャ
  • パックの裏側:コネクタ部

ホンダは29日、交換式バッテリーに関する製品エコシステムの発表を行った。メディアは、同日発表されたトヨタ・スバルによる新型EVに注目しがちだが、ホンダの第2世代「モバイルパワーパックe:」は、業界の新しいプラットフォームになる可能性を秘めたものだった。

第2世代でどこが変わったのか

モバイルパワーパックは、48Vの交換式バッテリー。第1世代は2018年に製品化され、ホンダの電動バイク『ベンリィe:』などに採用されている。用途はデリバリーやラストマイル、地域輸送など事業者向けが主なものだ。第2世代となった「モバイルパワーパックe:」はサイズはそのままで容量アップと軽量化が図られている。細かいところではパックの持ち手の形状が変わり、持ちやす(交換しやすく)なっている。

重さは約10kg。バッテリー容量は1パックあたり約1.3kWh。定格は50Vだが、48V系 UN R136に対応している。第1世代は約1kWhの容量だったが、セルの高性能化により約25%のアップを実現した。軽量化は内部回路の小型化などによって実現した。内部回路は小型化されているが、充放電の制御の他、バッテリー管理ユニット(BMU)、バッテリーや車両データを充電ステーションを経由してクラウドと通信する部分も含まれ、インテリジェント化が進んでいる。

これだけではただの新型バッテリーの発表だが、今回ホンダは、充電ステーションやHEMS、パートナーとの新事業やソリューション展開など、交換式バッテリーのエコシステムの提案も行った。それらは、これまでの実証実験の結果や各社との共同プロジェクトの結果を踏まえたもので、事業化やビジネスモデルも考えていると自信を覗かせた。

インドで交換式バッテリーのシェアリングビジネス

ホンダは2018年からフィリピン、インドネシア、インドなどで交換式バッテリーに関する実証実験を展開している。ルーラルエリア、島しょ部、新興国ならではの諸問題・課題を抱えた国で、さまざまな可能性や用途の検証を行った。一部はNEDOなどの国プロジェクトとして続いているものもある。

そのひとつ、インドでは3輪バイクの電動化プロジェクトだ。リキシャと呼ばれる現地の交通インフラにもなっている3輪バイクを交換式バッテリーのEVとするものだ。2021年2月から5月の4か月という期間だが、ホンダは事業化の目途がたったとして22年からシェアリングサービスを開始する。

ビジネスモデルは、シェアリング用のステーションの整備が基本となる。12個のスロットのついたステーションは、家庭用のAC電源がきていれば特別な工事は必要ない。パックひとつは10kgと軽くはないが、人力で取りまわせる範囲だ。つまり、ステーションの設置に大規模な設備投資が要らない。設置場所さえあればコンビニやSSなどどこでもステーション事業を始めることができる。実証実験により、料金は従量課金よりもサブスクリプションのほうがリキシャドライバーがバッテリーを酷使せず再利用や転用など管理がしやすいことがわかっている。

ドライバーはバッテリーリキシャなら補助金を利用して事業を始めることができる。またメンテナンスやランニングコストが下がるので、既存オーナーにも乗り換えインセンティブが働く。

コネクテッドバッテリーとしての可能性

電動化車両や交換式バッテリーのビジネスで重要なポイントは、コネクティビティである。とくにバッテリーのライフサイクルを考えたとき、車両やバッテリーのトレーサビリティ、ログ管理を含めてトラッキングが欠かせない。

さきほどモバイルパワーパックe:では、インテリジェント機能が強化されたと述べたが、パック本体のメモリには、パックごとのIDと接続された車両のIDが個別に管理される。どのパックが何時間使われ、どれくらい放電し、どれくらい充電したか、といった情報が細かく記録される。

これらのデータはステーションにつながれたとき(返却時)に、すぐさまクラウドに転送される。課金やユーザーの管理にも応用できるが、バッテリーのメンテナンスに役立てたり、極端に消耗されるパックをなくし均等に使われるような制御も可能になる。これは、モビリティ用途から蓄電用、さらには電子機器用など、リユース、リサイクル(ホンダでは、これに加え目的別の再利用としてリパーパスという言葉も使っていた)の効率化、品質確保、安全性の向上に役立つ。

バッテリーライフサイクルのチェーンも考えられている。

交換式バッテリーで家産家消

新興国やルーラルエリアは電動化が難しいとされるが、インドなど各国政府は石油や石炭の輸入を減らしたいと思っている。ホンダの実証実験では、インドネシアなどの島しょ部こそ交換式バッテリーの有効性が確認できたとしている。

先進国ではどうか。EUではL7e規格の整備により都市部のラストマイルやシェアリングでマイクロEVが注目されている。これらの事業者の多くが交換式バッテリーを採用している。日本は、特殊な道路事業があるので同じようにはならないが、エリアや用途をしぼったマイクロモビリティは可能性がある。

モビリティだけではない。カーボンニュートラルの前提となる再生可能エネルギーは、蓄電技術との組み合わせが重要になる。系統電力の蓄電となると大規模なバッテリープールや巨大な燃料電池が必要となるが、各戸や地域ごとの蓄電ならソーラー発電とバッテリーの組み合わせで対応できる可能性がある。地産地消に加えホンダは「家産家消」を提唱する。

EV・eバイクだけでないポータブルパワーソース

ホンダはモバイルパワーパックe:を利用した家庭用バッテリーシステムのコンセプトも発表した。ようはHEMSと呼ばれる家庭用の蓄電・給電システムだ。ソーラー発電は、FIT廃止に伴い売電収益が見込めなくなる。家に蓄電池を設置すれば系統電力からの供給を減らすことができる(電気代を安くできる)。

従来のHEMSとの違いは、バッテリーが交換式であるため、用途が家への給電だけにとどまらないことだ。たとえば「ベンリィe:」や「ジャイロe:」などモバイルパワーパック対応のバイクがあれば、それのバッテリーとして利用できる。ホンダはポータブルなACインバーターも発売する予定があるといい、これとモバイルパワーパックがあれば、キャンプや災害時の外部電源として活用できる。

また、ホンダは、モバイルパワーパックに対応した除雪機、パーソナルモビリティ、小型の電動パワーショベルの発表も行っている。パワーショベルは重機メーカーのコマツと共同開発した試作機だが、騒音がないので住宅地の狭い場所の工事、庭や畑の造成などへのニーズが高い。小さいモバイルパワーパックでパワーショベルは無理と思うかもしれないが、パワーショベルで重要なのは油圧ポンプだ。電動ポンプのパワーソースとしては十分だろう。

交換式バッテリーのデファクトスタンダードへ

以上のように、ホンダのモバイルパワーパックは、単にEVやeバイク用のバッテリーインフラとしての機能だけではなく、それをプラットフォームとした、HEMS、レジャー、船外機、農機、重機までを対象とするエネルギーエコシステムを作ろうとしている。

そのため、モバイルパワーパックについては特許の積極的公開・共有を考えているという。ホンダが3月に発表したカワサキ、スズキ、ヤマハらとのバッテリーの共通化コンソーシアムでは、まさにこの取り組みを広げるものだ。近い将来、モバイルパワーパックと同等のパックが各社から発売されるかもしれない。

車両側も同様だ。インドの3輪バイク(リキシャ)はTORK MOTORSだけでなく広くメーカーに仕様を公開してモバイルパワーパック対応の電動バイクや製品を開発してもらう。

プラットフォームビジネスにおいて、技術やプラットフォームをオープンにして、デファクトスタンダードになる戦略はセオリーでもある。ホンダの電動化戦略は、EVやeバイクといった製品ありきのビジネスではなく、広い視点で、生活シーンやモビリティビジネス、サービスビジネスを考えている。

《中尾真二》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース

特集