【トップデザイナーが語る】『コンセプト・リチャージ』が見せるボルボデザインの新時代

ボルボ・コンセプト・リチャージ
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ボルボカーズは6月30日、『Tech Moment』と呼ぶ技術説明会をオンライン開催。衝突回避、自動運転、バッテリー、コネクティビティなどの技術展望を紹介した後、それらをフル装備したコンセプトSUVとして『コンセプト・リチャージ』をサプライズ発表した。

ホーカン・サミュエルソンCEOによれば、「本物(量産型)は来年に発表する。ボルボのフラッグシップとなる新しいSUVだ」。つまりコンセプト・リチャージは『XC90』の後継車を予告するコンセプトカーというわけだが、それだけではない。

デザイン本部長のロビン・ペイジは、「このデザインは、すべてがEVになるボルボの未来に向けたマニフェストだ」と明言。現行XC90からボルボのデザイン刷新が始まったように、来年のXC90後継車が新たなデザインの幕開けになる。

本稿ではペイジの発言に沿って『コンセプト・リチャージ』のデザインを解説すると共に、それが次世代ボルボ車にどうつながるかも考察したい。

ロールーフの新プロポーション

ボルボ・コンセプト・リチャージボルボ・コンセプト・リチャージ
「これは新しい種類のクルマであり、EVならではのまったく新しいプロポーションを持つ」とペイジ。「高いシートポジションと高いアイポイントで乗降しやすさと素晴らしい視界を提供しながら、ルーフは低く、ボンネットも低い」

高いアイポイントによる見晴らしの良さは、一般論としてSUVの美点だ。最低地上高を大きめにとり、センタートンネル(プロペラシャフト)の出っ張りを最小限にしながらフロアを張ると、必然的にフロア地上高が上がり、シートポジションも全高も高くなる。現行XC90の全高は1776mmだ。

それに対して『コンセプト・リチャージ』は、なるほどルーフラインが低い。寸法諸元は未発表だが、とくに長身というわけではないペイジと比べると、全高はXC60より低い1600mm+α程度と想像できる。

ボルボ・コンセプト・リチャージとロビン・ペイジ氏ボルボ・コンセプト・リチャージとロビン・ペイジ氏
床下にはバッテリーパックを搭載している。もともとフロア地上高が高いSUVはバッテリーを積みやすく、だからEV化をSUVから始めるメーカーが多い。ボルボのEV第一弾も『XC40リチャージ』だった。

しかし既存のCMAプラットホームを使うXC40リチャージと違って、コンセプト・リチャージは新開発のEV専用プラットホームを前提としている。フロア構造をEV専用に合理化し、低床化して全高を下げたのだろう。「高いアイポイント」という発言は、SUVらしい見晴らしを確保できる程度に高いという主旨だと理解すべきだと思う。

ボルボカーズのEV向け次世代バッテリーのイメージボルボカーズのEV向け次世代バッテリーのイメージ
バッテリーパックについてペイジは、「顧客が望む航続距離を提供するためには大きなバッテリーが必要なので、(内燃機関車で想定されるよりも)ホイールベースを長くし、(電池重量に対応して)ホイールサイズを拡大した」と語る。

ホイールベースの延長により前輪が前に出たのを活かし、Aピラーの根元とフロント席を前進させて、室内長を拡大。エンジンのないボンネットは高さを下げた。

【量産型への考察】
・ロールーフを印象付けることを狙ったコンセプトカーだから、XC90後継車がここまで低全高になるとは考えにくい。
・『コンセプト・リチャージ』は2列シートだが、現行XC90は3列目席を備える。3列目席のヘッドルームを確保するとなると、もっと背が高くなる。
・ただし後継車が2列シートになる可能性もある。次期フラッグシップは2列で、その派生車として3列が加わるのかも?

アイコンを際立たせたフロント

ボルボ・コンセプト・リチャージボルボ・コンセプト・リチャージ
「エンジンがないのだから、グリルを取り去るのは必然だった。その替わりに、構造材のようにソリッドな”シールド”を設けた」とペイジ。シールド=盾のように、立体的な面構成で力強さを表現したというわけだ。「このシールドが、アイアンマークや斜め線の素晴らしい背景になっている」。

従来はグリルの中に、ボルボ伝統のアイアンマークと斜め線を配していた。それに対して今後は、シンプルなシールドによってアイアンマークや斜め線というアイコンを際立たせる。次世代のボルボ顔への明快なメッセージだ。

もうひとつ、現行ボルボ車に共通するアイコンが「トールハンマー」と呼ばれるT字型のヘッドランプ・シグネチャー。これまではT字型に光るデイタイムランプでそれを表現していたが、ヘッドランプを点灯すると、その強い光にT字型がかき消されてしまっていた。

ボルボ・コンセプト・リチャージのヘッドランプ(上)とデイタイムランプ(下)ボルボ・コンセプト・リチャージのヘッドランプ(上)とデイタイムランプ(下)
そこでペイジたちは、デイタイムランプとヘッドランプを機械的に切り替えるアイデアを考えた。デイタイムランプの縦長部分は固定だが、ヘッドランプONで2列の帯で光る横バー部分が上下に別れて回転格納され、変わって薄型ヘッドランプが現れる。ヘッドランプも横バー状に光るから、デイタイムランプの縦長部分と合わせて夜間もトールハンマーを表現できるという仕組みだ。

【量産型への考察】
・”シールド”が新しいボルボ顔になることは間違いないだろう。
・『コンセプト・リチャージ』ではアイアンマークや斜め線に照明を仕込んでいるが、最新のデザイントレンドを考えれば、これも量産採用されて不思議はない。
・デイタイムランプとヘッドランプの機械的な切り替えは、いかにもコンセプトカー的なギミック。しかしヘッドランプが横バー状に光れば、デザイナーの狙いは達成される。量産に向けた解決策はありそうだ。

カタマリを削いで面を作るデザイン言語

ボルボ・コンセプト・リチャージのフロントデザインボルボ・コンセプト・リチャージのフロントデザイン
顔付きでもわかるように、ペイジはボルボの過去を否定して新たな未来を提案しているわけではない。一貫性・継続性はブランドデザインの基本だ。

ペイジはコンセプト・リチャージのボンネットやリヤまわりの造形を例に、「ボルボのデザイン言語はソリッドな立体を造形し、その立体を面で削ぎ込むと共に、それによってグラフィックを創ることにある」と語ったが、これは以前からやってきたことだ。

例えばボンネット。両サイドに凹に削り込んだ面があり、それを囲んで稜線がUターンするのは、先代『S60/V60』の2014年型マイナーチェンジで最初に採用した処理である。当時とはデザイン幹部の陣容が一変しているが、新体制が手掛けた現行世代のボルボ車も例外なくそれを受け継ぎ、ボルボらしさを醸し出すデザイン言語へと発展させてきた。

ボルボ・コンセプト・リチャージのリアデザインボルボ・コンセプト・リチャージのリアデザイン
ペイジによれば、『コンセプト・リチャージ』でこのデザイン言語を最もよく表すのがリヤエンドだという。「ソリッドなカタマリから(バックウインドウの下に)矩形のセンターパネルを削り込み、それを(L字型の)テールランプが囲んでいる。同じ原則をクルマ全体の造形に適用した」。

【量産型への考察】
・現行ボルボ車とは大きくイメージの異なるスタイルだが、その背景にあるのはデザイン言語の一貫した進化だ。この方針はXC90後継車だけでなく、EV専業となるすべての次世代ボルボ車に受け継がれるだろう。

空力的なリヤエンド

ボルボ・コンセプト・リチャージのテールランプボルボ・コンセプト・リチャージのテールランプ
全高を低く抑えたのは、もちろん空気抵抗を減らすためだ。テールゲートを垂直に立て、その上端に向けてルーフラインを滑らかに下降させて、空力的なロングルーフ・シルエットとしている。

しかし、それだけではない。ヘッドランプと同様、テールランプにも可変式のメカニズムが盛り込まれているのだ。「低いルーフの空力効率を追求するなかで、ボディの両サイドで気流を整えるためにテールランプが延びるようにした」とペイジは語る。

テールランプの垂直部分が後方にスライドしてフィンを形成し、側面気流をスムーズに剥離させるというメカニズムだ。今日の多くのクルマのテールランプは、コーナー部にシャープエッジを立てている。狙いはそれと同じだが、もっと大きな効果を得るためにスライド機構を組み込んだ。

どんな走行状況でこれが作動するのかをペイジは語らなかったが、おそらく高速走行時だろう。EVでは空気抵抗が航続距離に直結する。バッテリーの進化で後続距離が延びれば高速走行の機会も増え、抵抗低減がより大事になってくる。それを見据えたアイデアと考えればよいだろう。

【量産型への考察】
・後ろ下がりのルーフラインは2列シートだから成り立つもの。XC90後継車が3列になれば、シルエットは大きく変わる。
・テールランプのスライド機構は、やはりコンセプトカーとしてのギミック。しかしテールランプのエッジで側面流を効率的に剥離させるために、量産車でも何か新しい工夫を期待できそうだ。

スカンジナビアらしいインテリア

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床下にバッテリーパックを敷き詰めたフラットフロアは、「大きくて開放的なスペースを生み出し、スカンジナビアのリビングルームのようなインテリアに結び付いた」とペイジ。そして「15インチのタッチスクリーンとドライバー用の宙に浮いたようなディスプレイ、そして最新のコネクテッド技術によって、インターフェイスを最適化した」と続けた。

「こうしたテクノロジーに組み合わせたのが、スカンジナビアの美しい天然素材に合わせて考えたデザインだ。リビングルームに置かれた家具のように、インテリアのそれぞれの部位がひとつのアート作品として存在している」

水平基調のインパネやドアトリム、人を包み込むようなシートなど、なるほどそれぞれが存在感を主張。それでいて全体として調和したインテリアだ。「視覚的にクリーンで調和のとれたデザインが、スカンジナビアのデザインの原則だ」とペイジは語る。

ボルボ・コンセプト・リチャージボルボ・コンセプト・リチャージ
インパネのアッパー部には織物のような素材が張り込まれているが、「内装材全体がサステイナブルな天然素材であり、それによってスカンジナビア的なリビングルーム体験を提供する」とペイジ。そしてプレゼンテーションをこう締め括った。

「パーソナルでサステイナブルで安全。こうした狙いを表現したのが、まさにこのクルマだ」

【量産型への考察】
・タッチスクリーンの「15インチ」は、今回のイベントのなかで唯一言及された具体的な数字。量産型も15インチを採用することは間違いない。
・ドライバー正面のディスプレイが妙に小さいのは、その機能をヘッドアップディスプレイで補えるからだろう。現行XC40にはヘッドアップディスプレイがないが、フルEVとなる次世代ボルボは全車がヘッドアップディスプレイ装備になるのかもしれない。

後継車の車名はXC90ではない!

『Tech Moment』の最後に、サミュエルソンCEOは「来年に発表するのは新たな車種群の第一弾であり、同じアーキテクチャーの多くのクルマがそれに続く。車名の付け方も従来とは異なるものになるだろう」と語った。

それはつまり、XC90の後継車はボルボのフラッグシップではあるけれど、「新型XC90」とは呼ばれないということだ。「次世代ボルボの最初になるクルマには、それに相応しい名前を与える」とサミュエルソンCEO。「今日はそれを明かさない。クルマを発表するときに、皆さんを驚かせたいと思う」

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《千葉匠》

千葉匠

千葉匠|デザインジャーナリスト デザインの視点でクルマを斬るジャーナリスト。1954年生まれ。千葉大学工業意匠学科卒業。商用車のデザイナー、カーデザイン専門誌の編集次長を経て88年末よりフリー。「千葉匠」はペンネームで、本名は有元正存(ありもと・まさつぐ)。日本自動車ジャーナリスト協会=AJAJ会員。日本ファッション協会主催のオートカラーアウォードでは11年前から審査委員長を務めている。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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