【三菱ふそうに聞くトラックデザインの奥義】その2:電動化の未来に向けたトラックの形とは

『その1』ではブラックベルトと呼ばれるフロントフェイスのアイデンティティに焦点を当てて、三菱ふそうのデザインを率いるべノア・タレックに話を聞いた。今回はそこからもう少し未来に、話題を広げたい。

ゼロエミッションの未来に向けて

『その1』でタレックは「デザインを変えるのは、技術や効率性の観点で意味があるときだけだ」と語った。モデルチェンジしてもドアはキャリーオーバーという例が多いトラックの世界で、ドアを新開発する必然性が生じるとしたらやはり空力の観点からだろう。キャブのフロントからサイドへ、よりスムーズに風が流れるような新しいドアは考えられないだろうか? 

タレックは「三菱ふそうのキャブは現状でも空力性能はかなり良い。フロントのデザインが大きく貢献している。冷却風のマネジメントとコーナー部の丸さが非常に大事だ」と答えた上で、一歩踏み込んだ。

「しかし新しいドアが燃費改善に大きなインパクトを持つとしたら、我々はそれをやるだろう。未来のキャブを考えるときには、そこを出発点としてさらに先に進んでいくことになると思う」

「我々のトラック/バスの未来はゼロエミッション・ヴィークルにある。水素またはバッテリーで走る車両だ。航続距離を最適化するためには、完璧な空力性能を実現する必要がある。空力という要素を深く探究しなくてはいけない」とタレック。ゼロエミッションに向けた歩みは、すでに始まっている。

2017年『Vision ONE』の意義

三菱ふそうが2017年に発表したコンセプトカー『Vision ONE』三菱ふそうが2017年に発表したコンセプトカー『Vision ONE』
三菱ふそうは小型トラックの『eキャンター』に続いて、2017年の東京モーターショーでバッテリーEVの『Vision ONE』を披露した。未来の大型トラックへの、まさにビジョンを具体化したコンセプトモデルだ。親会社ダイムラーはBEVに加えて燃料電池=FECVの大型トラックも開発し、競合のボルボなどと共同で、欧州で液体水素のインフラ構築に動き始めている。ゼロエミッションを制するものが市場を制する、というトレンドは乗用車と何も変わらない。

「だからこそ我々のフォルム言語やグラフィックスは、空力的なニーズを計算に入れてデザインしなくてはいけない」とタレックは強調する。「ブラックベルトを開発するときも、そう考えた。ブラックベルトはフォルムにインテグレートされている。将来を見据えて航続距離やCO2に配慮したからだ」

思えば4年半前のVision ONEにもブラックベルトがあった。余計な段差のないシンプルでスリークなキャブに、eキャンターのそれとは少し違うブラックベルトをスタイリッシュにインテグレート。ブラックベルトは電動化の未来まで視野に入れたデザイン戦略だったのである。

ただしVision ONEのキャプは、ドアも含めて『スーパーグレート』の骨格をベースに開発したもの。ドアの下端を長く延ばして乗降ステップを覆ったのは有効な空力対策だろうが、空力的に最適化したドア形状とはまだ言えない。しかし、このドアから見えてくるものもある。

ブラックベルトからつながるドアのキャラクターラインの地上高が、スーパーグレートよりかなり低い。キャブの床下にあるのは、エンジンよりずっとコンパクトなモーターだ。電動化された大型トラックはフロアが下がり、キャブ全体も低くなって見た目の威圧感が減る。『その1』でタレックの「アグレッシブな方向には行かない」という言葉を紹介したが、Vision ONEはまさにそれ。電動化した未来においては、「三菱ふそうらしさ」をスタイリングだけでなくパッケージングでも表現できるようになりそうだ。

インテリアも日本に最適化

三菱ふそう  Vision ONE(東京モーターショー2017)三菱ふそう Vision ONE(東京モーターショー2017)
インテリアに話題を進めよう。Vision ONEはヘッドアップディスプレイ、ステアリングに一体化したディスプレイ、そしてミラーカム(バックミラーに代わるカメラモニターシステム)などで構成するヒューマン・マシン・インターフェイス=HMIを採用。シンプルを極めた空間とHMIの存在感の対比が印象的な、非常に先進的なデザインだった。

その後、ダイムラーグループのメルセデスベンツは2018年に、上級大型トラックのアクトロスのインテリアを一新し、ドライバー正面にフルカラーのデジタルディスプレイ、センターにはコネクティビティ機能を持つタッチスクリーンを装備。翌19年にはさらに、世界初のミラーカムをオプション設定した。三菱ふそうとしても、こうした最新のHMIを早く量産車に採用したいのでは?

「我々はダイムラーグループのなかで知見や技術をシェアしている」とタレック。「しかし同時に、それぞれのブランドの独自性も大事だ。メルセデスベンツがやっていることは素晴らしいけれど、それをそのまま三菱ふそうが使うことはない。技術の進化は非常に速いから、よりアップデイトさせたいし、日本の状況に適合させなくてはいけない」

フルカラーのデジタルディスプレイとタッチスクリーンを採用したメルセデスベンツのトラック「アクトロス」フルカラーのデジタルディスプレイとタッチスクリーンを採用したメルセデスベンツのトラック「アクトロス」
ミラーカムは従来のバックミラーより空気抵抗が小さくて燃費に貢献するし、視界の死角も小さいので安全性にも寄与する。ただ、それは大きなバックミラーを備え、高速走行の多い大型トラックでこそ生きる利点。小型のキャンターではむしろHMIが未来に向けた焦点になるだろう。そこについてタレックに抱負を問うと…。

「イエス。三菱ふそうはダイムラーグループのなかで小型車のエキスパートだ。小型トラックのアーキテクチャーを開発するのは、我々にとって大事な役割だと考えている。カリフォルニアやヨーロッパでデザインし、それを日本語化したHMIを、乗用車で見ることがあるでしょう? もともとローマ字用にデザインされているから、あまり見やすくない。我々はそこに留意している。技術基盤をグループで共有しながら、日本の顧客に最適になるように、我々なりのソリューションを開発したい」

ルノートラックスからダイムラーへ

べノア・タレックはフランスのリヨンに生まれた。リヨンはベルリエ(現ルノートラックス)というトラックメーカーのホームタウンだ。パリのストラト・カレッジという名門美術系大学に進学して工業デザインを学んでいたとき、タレックは故郷のリヨンを気に掛ける一方、日産の厚木のデザインセンターでインターンを経験したことで「世界に目を開くようになった」という。

その後、メルセデスから卒業課題のスポンサーシップを受け、ドイツで半年間を過ごした。そうやって卒業を間近に控えたとき、ルノートラックスから就職のオファーが舞い込む。「25年ぶりのビッグプロジェクトで大型トラックの開発が始まる、と言われた。メルセデスへの恩義も感じていたが、答えはイエス。リヨンに戻って、ルノートラックスで働き始めた」

2006年から2010年まで、ルノーの現行大型トラックのエクステリア開発に従事。「スタイリングはもちろん、コストや機能性、設計的な実現性もそこで学ぶことができ、クリエイティブの基礎を習得した」というタレックは、プロジェクトを終えるとダイムラーに移籍。メルセデスのバン/トラックのデザインを、最も若いチームリーダーとして担当するようになった。

現行『Vクラス』、『エコニック』という特殊用途のトラックのフェイスリフト、『ウニモグ』の60周年を記念するコンセプトカー、ピックップトラックの『Xクラス』などのプロジェクトを歴任。Xクラスは日産『ナバラ』の兄弟車だ。2017年に発売されて3年足らずで打ち切りになってしまったが、学生時代に日産でインターンを経験したタレックは「再び日産と協業できて嬉しかった」と振り返る。

メルセデスベンツ『ウニモグ』の60周年を記念するコンセプトカー「60 Years Unimog」メルセデスベンツ『ウニモグ』の60周年を記念するコンセプトカー「60 Years Unimog」
メルセデスベンツ Xクラスメルセデスベンツ Xクラス
その後はダイムラーのチーフデザインオフィサー、ゴードン・ワグナーの下でデザイン戦略を担当。『モダン・ラグジュアリー』という概念を具体化し、それを会社全体に浸透させるという仕事だ。「クルマを開発する前に、会社を変えなくてはいけない。これはシュトゥットガルト(ダイムラーの本社所在地)の人々にとっては革命だった。ただ、私はフランス生まれ。高級なものにいつも魅了されてきたし、高級品をどう扱うかについては深い情熱を持っていた」

ルノーとダイムラーで得た商用車のデザイン実務経験、そしてデザイン戦略を築き上げた経験。それらをバックボーンにタレックは今、三菱ふそうのデザインを率いている。Vision ONEも、ブラックベルトを採用した一連の新型車も、きっとまだ彼がやりたいことの一部でしかない。次にどんなデザインを見せてくれるのか? 楽しみに待とうではないか。

三菱ふそうが語るトラックデザイン。写真はデザインスケッチ三菱ふそうが語るトラックデザイン。写真はデザインスケッチ

《千葉匠》

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