【スーパーフォーミュラ 最終戦】晴れなのにレインタイヤでスタートの怪!? 可夢偉陣営が採った作戦、その意味

レインタイヤを履いて、晴れのレースのスタートに臨んだ#18 小林可夢偉。
  • レインタイヤを履いて、晴れのレースのスタートに臨んだ#18 小林可夢偉。
  • #18 小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)
  • #18 小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)
  • #18 小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)
  • 2019年SF王者となったニック・キャシディ(TOM'S)。
  • チーム部門タイトルは山本尚貴(左)と福住仁嶺(右)を擁すDOCOMOダンディライアンが獲得(中央は陣営を率いてきた村岡潔氏)。
  • 最終戦の優勝はチーム無限の野尻智紀(右)。隣は元F1ドライバーの中野信治・チーム無限監督。

10月27日に決勝レースが行なわれたスーパーフォーミュラ最終戦鈴鹿。小林可夢偉は、晴れなのにレインタイヤでスタートに臨んだ。王座獲得の可能性も残るなか、彼と彼の陣営が“ルールブックの盲点”を突くかのような奇策!?を採った背景を考えてみる。

鈴鹿サーキットの天候は晴れ、路面はドライ。スタート後すぐに雨が降ってきそうな兆候もほぼ皆無だった。

なのに、16番グリッドの#18 小林可夢偉(carrozzeria Team KCMG)はレインタイヤを履いてスタートしていく。この位置からの優勝が必須で他力本願という厳しい条件ながらもシリーズチャンピオン獲得の可能性を残す彼、狙いはいったいどこにあるのか? タイトル云々以前に、まさかレースを捨てるような真似は絶対にするはずもないわけで…。

モータースポーツというのは複雑なスポーツだ。もちろん、他が単純というつもりはまったくないが、可夢偉陣営の狙いを考察するには様々なルールの確認と競技の実状把握が必要になってくる(仔細に語るには膨大な文量が必要になるため、この先、ある程度は端折ることを最初にご了承いただきたい。それでも短くはないが…)。

スーパーフォーミュラ(SF)にはソフトとミディアムという2種類のドライ路面用タイヤがあり、決勝レースではレインタイヤを使わない限り、両方のドライタイヤを使うルール的義務が生じる。そしてそのためのタイヤ交換時期は今回、「先頭車両が7周回を完了した時点から先頭車両が最終周に入るまでに異なる種別のドライタイヤを使用せねばならない」というかたちで規定された。まず、これらが根源的要件だ。

続いて考慮すべきは、ソフトとミディアムの特性。SFのタイヤはヨコハマのワンメイクだが、今季2019年はラップタイムの速いソフトが相当なレベルで“もつ”傾向にあり、通常約250km(鈴鹿43周)のレース距離を走りきるのに(気象条件やコースにも依るが)大きな問題はないと言ってもいいくらい。つまり、なるべく長くソフトで走りたい、というのが作戦面のセオリーになる。

燃費の問題を一旦無視すると、1周目のタイヤ交換でレース距離のほぼ全部をソフトで走りきるという発想も当然、浮上してくるわけだが、今回は前記した“7周ルール”があるため、そうはできない(*前戦からこういった“縛り”が付加されるようになった)。

ところが、実態的には「ドライ時に発生する」と解釈されてきたソフト/ミディアム両使用義務は、ルールブックの文言的にはあくまで「レインタイヤを使わない限りにおいて」と読める。そしてSF決勝レースでは、晴れていてもレインタイヤの使用が禁じられてはいないことを併せ読むと、レインタイヤでスタートすれば、1周目のタイヤ交換&給油でゴールまでソフトで走りきっていいことになる。可夢偉陣営はこの“ルールブックの盲点”的なところを狙ったのだ。

ここでSFの燃費の現況はどうかというと、これも気象条件やコース等に左右されるので一概には言えないが、レース距離250kmを無給油もしくはそれに準ずる状況で戦闘力を維持して走りきることは、『不可能ではない』。43周レースの2~43周目をピットストップなしで走ることにかける価値は『ある』。

可夢偉陣営が採ったこの作戦のメリット、その基本的なところは、上述したように速いソフトタイヤでレース距離のほぼすべてをカバーできることだ。一方、デメリットは1周目の決定的な遅さと燃費がギリギリになること。そう考えると、あまりお得度は高くないようにも思える。

しかし、もし序盤にセーフティカーが出ていた場合、どうなったか!?(今回、実際には出ていない)

これは可夢偉にとって大きな助けとなったはずだ。1周目の遅さを帳消しにでき、ピットストップを終えた状態で隊列スロー走行の最後尾につけられるので、7周終了時以降にピットストップせねばならないライバル全車に対し、実質ノーストップとなった可夢偉は大きなアドバンテージを有することになる。そして隊列スロー走行の間には燃費も稼げる。これが陣営の狙った最良のシナリオだっただろう。

レース直後、可夢偉は「セーフティカーが出ないと勝てないんで」と語っていた。予選16位からの一発大逆転を狙った奇策!?に、運は味方してくれなかった。

だが、それでも今回は20台全車完走(1台は完走扱い)という状況のなかで、可夢偉は予選順位から4つポジションを上げて12位でレースを終えている。ゴール寸前、「ガス欠です」ということで惰性走行になって10位から12位に下がる結果だったので、6ポジションアップを維持できた可能性もある。セーフティカー待ちという大前提を除けても、レインタイヤ発進作戦は一定の効果をもっていたとも考えられよう。少なくとも、大きな損失にはつながっていなかった。

もっとも、予選がもうひとつで決勝で見事な追い上げを披露、というのは今季中盤からの可夢偉のレース傾向でもあった。「そうですね。予選がね、課題でした」と本人も述懐する。決勝2位が2回、悲願の初優勝と初王座に届きそうで届かなかった今季の可夢偉、予選最上位は5位で、7~9位が多かった。

今回、2015&17年王者の石浦宏明は予選20位から6位に入賞。可夢偉にもシーズン中、予選19位から6位というレースがあった。今季チャンピオンとなったニック・キャシディも予選ベストは5位。戦略と決勝ペースの良さで大きく順位を動かせるのが今季SFの特徴でもあり、そのなかで可夢偉の予選順位はそうわるくもなかったが、レースでのポジションアップが目立ったということは、やはり予選でもっと安定的に前にいけていれば、ということにはなりそうだ。

それにしても、雨の可能性がないなかでのレインタイヤ発進という、見た目にも鮮烈な戦い方をした可夢偉。奇抜なだけでなく、一定の機能をさせてくるところが流石でもある。

11月23~24日(各日に予選&決勝)には富士スピードウェイでBMWのDTMマシンをドライブして、可夢偉は「SUPER GT × DTM 特別交流戦」を戦う。ここでもレースを沸かせてくれることはもちろん、諸条件考えると優勝の可能性も大いにあるのではないだろうか。やはり千両役者がいるレースは一層面白い。

《遠藤俊幸》

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