初秋でも『なつぞら』な帯広にはパンダが似合う…カレー、ナウマン象、近代建築を巡る“脱力系”試乗

フィアット パンダで北海道・十勝帯広をトコトコドライブ
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  • 建築家・隈研吾氏らによる実験住宅「MEMU EARTH HOTEL」にステイ。写真は隈研吾氏が手がけたMeme
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今、行っておきたい、帯広

完全に冬が来る、その前に今年の帯広を旅しておきたいと思っていた。なぜか。話はすこし横道に逸れるけれど、うちの実家の父のひとことがずっと、心に留まっていたというのもある。

父は仕事人間で、家庭を顧みない人だった。厳格で昔気質で、テレビなんて野球中継と駅伝、それから世界陸上しか興味がない(元陸上選手だったのだ)。しかしお盆の帰省で顔を合わせたら、彼はなんとNHKの連続テレビドラマにハマっているのだという。

「これまでドラマなんて全然興味がなかったけれど、『なつぞら』はとても素晴らしい。あんなに清々しくて爽やかな話はない、お前も観たほうがいい。なにより北海道という舞台設定にも心奪われた」。


父と母の新婚旅行は北海道だったのだという。超絶怖かった父は今、歳を重ねて孫にベタ惚れの好々爺となった。時は巡る。そして冬が来たら、北海道は雪見たさに訪れた世界中からの観光客に埋め尽くされて、あの『なつぞら』の気配を完全に封じ込め、まるで違った風情を孕んで変化してしまうだろう。だから今、行っておきたい、そう思ったのだ。

果たして降り立ったとかち帯広空港は、すーんと透き通って乾いた空気にまだ夏の陽射しを含み、心地よい呑気さで我々を迎えてくれた。

フィアット・パンダで北の大地をトコトコと


相棒としてなんとなく選んだクルマはフィアット『パンダ』だ。ほかの選択肢もなくはなかったけれど、結果的にこの選択を、我々は大正解だと確信することになる。

まずは帯広の市内に向かう。腹が減っては、というわけだ。御存知の通り北海道はグルメ天国。胃袋がいくらあっても足りないくらい、海も山もどっさりと美味しいもので溢れている。だからこそ今まで行かず終いだった、B級グルメに足を向けた。インデアンカレーだ。知る人ぞ知る道東グルメの穴場とも言えるのだという。なんと、地元の皆さんは鍋釜持って夕飯のためにここを訪れるという名店なのだが、これまで未経験の味だったのだ。

今回は同行のカメラマンY氏の激烈なるプッシュで訪れたのだが、うん、確かに美味しい。なんと表現すればよいのだろう、決してホテルカレーのように、ゴージャスで深みのある味じゃないのだけれど、最初に甘く、そしてあとからふわっと、かつ鮮烈に辛味がやってくる。この甘さが妙にあとを引く。あと一口、もう一口、とスプーンが止まらなくなってしまう。しかも驚くほど安いのだ。


陽射しは残っているものの、すでに日中でも上着が恋しいほどの気温のなか、身体の内側からしっかりとカレーに温めてもらって、また再びパンダに乗り込み、海側を目指す。

今回の旅には、燦然と輝く目標があった。近代建築を学ぶ、というのがそれだ。なんと、この帯広は「近代建築の聖地」と呼ばれる施設を内包しているのだという。

とはいえ、急ぐ旅ではない。ナウマン象に見惚れたり、ふと視界の隅に飛び込んできた初秋のひまわり畑(!)に立ち寄ったりして、パンダはトコトコとマイペースに歩んでゆく。

日が暮れる直前、その場所に着いた。

「メムアースホテル」だ。

建築家・隈研吾氏による実験住宅にステイする贅沢

どことなく牧場に入っていくようなアプローチ…と思ったら、まさに以前はサラブレッドの生産牧場だった跡地なのだという。5万6千坪の広さを誇るその中に、超個性的ないくつかの建物が、ぽつりぽつりと点在している。

そもそも寒冷地実験住宅施設として誕生したのは「メムメドウズ」だ。これはLIXIL住生活財団が開設したもので、サスティナブルかつ環境に配慮した住宅を実際に設計し、建ててみて経過を観察する、というプロジェクトである。このプロトタイプになったのが建築家・隈研吾氏による「メーム」で、現在も「メムアースホテル」のアイコン的存在になっている。


現在は同じく隈研吾氏が審査委員長を務める「国際大学建築コンペ」で最優秀賞に輝いた大学生の作品が実際に建築され、それらがすべて宿泊施設として提供されているのだ。

それぞれにテーマのある施設は、これまでにない斬新なアイディアやワクワクするような演出に溢れている。中には「実験というにも程がある」と思わせるほど、斬新すぎる住宅だってある。たとえば、馬と同居し、馬のフンで暖を採るよう設計された住宅があったり(本当に暖かいらしい)、中と外とが逆転した家では、この超寒冷地でベッドルームが屋外のテラスに置かれた寝袋だったり(本当に寒いらしい)。このあたりは是非、公式のウェブサイトを参考にしてみて欲しい。

私に割り振られたのは、幸運にも隈研吾氏の「メーム」だった。大草原の中にぽつんと佇む白亜の“おうち”(と呼びたくなるフォルム!)は、もうそれだけでどこかおとぎの国みたいな風情を漂わせている。外壁も屋根も、東京ドームのドーム部分と同じ素材を使っているのだという。重ねることで、外気を遮断して保温しているのだそうだ。


カラカラ、と引き戸を開けると、そこには驚くほどラグジュアリーな空間が広がっていた。

アイヌの伝統民家「チセ」をモチーフにしていて、シンプルながら相当にハイセンス。小さな暖炉を囲むように座椅子が置かれ、あたたかい団らんを思わせる。窓辺には外を見ながら語れるような低いベンチも備えられていた。キッチンスペースやベットルームのクローゼットにはアイヌ伝統柄のラグもあしらわれ、この白く美しい室内にピリッとモダンなアクセントを添える。バスルームコンクリートをそのまま活かし、ガラス張りでクリーンなイメージだ。

そしてエントランスと反対側のちいさな扉を開けたら、そこにはこの部屋専用のデッキと、遮ることのない草原が現れた。なんという贅沢だろう!

パンダが私と帯広の距離を縮めてくれた

そしてここでは、いわゆる北海道を象徴するようなウニカニイクラ、みたいなご飯が出ない代わりに、地元の素材を繊細に扱ったイタリアン・ディナーが供された。

まず、食前酒が自家製ミントをふんだんに使ったモヒートなのだ。おつまみにはそのへんで採れたプチトマト。この美味しいこと、摘む手が止まらない。歯を果皮に立てた瞬間に、プツリと弾けて濃厚な旨味とともにトマトの爽やかな酸味とコクのある甘みが広がるのだ。


コースは地元の栗を使ったニョッキ、地元牧場のチーズを使ったカプレーゼ、秋味(秋鮭の王様!)、そして地元牧場のビーフ、と続く。

食後は暖炉の前に移動して、デザートとコーヒーをいただいた。火を見ながら美味しいものをいただくということこそ、究極の贅沢かもしれない。夜はにぎやかに更けていった。


翌日は、すぐ近くの海へ。ああ、よく考えたら今シーズン、初めて観た海かもしれない。しかし、この海が今年最初で最後になって、良かったとも思った。

トコトコと海岸を、牧場の隅を、ひまわり畑を、パンダが連れてってくれたこの旅。決して速くないこのペースが、私と帯広の距離を余計に縮めてくれたような気がとてもする。そして最後にたどり着いたこの海だけど、水平線から振り返れば、どこかのんきな風情でパンダが私を待っている。その、なんとも言えない癒やし系脱力感。

だけど、私は知っている。意外に粘るコーナリングや高速でよく回るエンジンの楽しさを。

不思議なことに、北海道に身体が馴染むほどに、どんどんパンダが好きになっていった。こんなクルマ、他にないかも。旅する相棒として、これほど理想的な相手はいないかもしれない。そう思いつつ、海をあとにした。

協力:FCAジャパン

今井優杏|モータージャーナリスト
レースクイーン、広告代理店勤務を経て自動車ジャーナリストに転向。WEB、自動車専門誌に寄稿する傍らモータースポーツMCとしての肩書も持ち、サーキットや各種レース、自動車イベント等でMCも務めている。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。日本カーオブザイヤー選考委員。

《今井 優杏》

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