【インタビュー】「エネルギーのIoT」がEVエコシステムの本命…4Rエナジー 二見徹氏

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4Rエナジの二見徹フェロー
  • 4Rエナジの二見徹フェロー
  • 社名である4Rの意味を示す図
  • VPPの構成例

2015年、COP21においてパリ協定が採択された。温暖化が2度以上進むと、地球環境に深刻で不可逆的なダメージを与えるため、国ごとに2030年までのCO2削減目標を定めた。各国は目標に向けて政策を進めており、再エネの拡大、モビリティの電動化も既定路線となっている。

今後それぞれがどのような局面を迎えるのか、エキスパートにインタビューを実施した。第2回の今回は、EVバッテリーを蓄電池としてリユースするビジネスを展開する、日産のグループ企業であるフォーアールエナジー株式会社の二見徹フェローに話を聞いた。

《聞き手:佐藤耕一》
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EVバッテリーをリユースする意味


---:まずフォーアールエナジーのミッションを簡単にご紹介ください。

二見:パリ協定以降、これからの電気は再生可能エネルギーで自律分散型になっていきます。そういう社会に向けて、世の中にたくさんの蓄電池を普及させる必要があります。そのため、EVが一つの蓄電池となって普及を促進するいうのが基本的な考え方です。

10年で10万km走ったガソリン車は普通は廃車になりますが、EV車の場合は、バッテリーの能力が数割残っている状態になります。これは、リチウムバッテリーとしては100万円くらいの価値になるのでリユースします。現在のバッテリーはモジュールが48個入っています。そして、モジュールがどれも同じように劣化するかというと、そうではありません。劣化スピードにバラつきがあります。ある電池は使えたり、使えなかったりするので、パッケージのままは使わず、モジュール単位にバラします。これをA~Cまでのグレードで分け、グレードが良いものはもう一度パッケージとして使うとか、真ん中のグレードのものはフォークリフトのような走行距離が少ない車に使うとか、一番下のグレードのものは家庭用の蓄電池等として使いましょうとか、そういった取り組みを行っています。

---:家庭用はグレードが低いものでも問題はないのでしょうか。

二見:夜電力をためて昼間に使うとか、非常用電源として使うということであれば問題ありません。リチウムはこの先、中国等の国が一部販売してくれなくなる時代が来る可能性がありえます。そうなると、リチウムの再利用の技術を確立していく必要があります。フォーアールとしても着手する検討をしています。

電力は“買う”から“作る”へ


二見:リユースバッテリーを使った実証実験は、鹿児島県の甑島(こしきしま)で行われていて、リーフ36台分のリユースバッテリーを使って蓄電池としました。ソーラー等の自然エネルギーは不安定であるため、これを安定させるための蓄電池としてバッテリーを利用する形です。この電源を一般世帯も使えるように、バーチャルパワープラント(=VPP)という仕組みを導入しています。

一般家庭では、大きな火力発電所等から電気を送電して使っており、つまりこれは、発電所側で需要をコントロールしています。それをVPPにおいては、発電所はずっと一定出力で稼働していて、一時的に電力が足りなくなった時は、一般家庭側の蓄電池から供給するという仕組みになっています。これはまさに集中型から分散型への移行であり、供給側ではなく需要側でコントロールする仕組みと言えます。

---:なるほど。つまり、ベースのパワーソースは電力会社から従来通りもらってきて、一時的な需要のピークを家庭側で吸収しましょうということですね。

二見:そうなんです。従来はこの“波”の部分に対応するために火力発電所が必要でしたが、こういう仕組みができてしまえば発電所というのはそんなにたくさんいらないという話になってきます。しかも、ここにEVが入ってきます。蓄電池としても使える、という時代になってきます。

分散型のネットワーク、VPPの仕組みによって、調整電力をローカルで処理できるので、電力不足時に炊き増しをしなくて済む。その分電力会社側のコストが下がります。その差額分をいただいて関係者で分配する、という仕組みです。様々なエネルギー事業者はこういう仕組みを作ろうと動いています。この仕組みを作るためには蓄電池とEVがカギを握っています。

電力供給は集中型から分散型へ


---:FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)を利用している家庭は、太陽光パネルで発電をしていても、蓄電はせず、すぐに売ってしまっているということでしょうか。

二見:はい、すぐに売ってしまっています。ですので、2019年にはそういった電力を売り買いする市場を作ろうとしています。2019年問題というのは、ちょうど10年前の2009年にFIT(固定価格買取制度)が始まり、当初は40円という、非常に高値で買ってもらえたので、比較的短い時間で利率も回収できました。

最近は、FITの電気買取価格がどんどん下がってきているので、そのメリットは出にくくなってきています。しかも、2019年には固定価格の買取期間10年が経過する家庭も出てきます。そうなると、屋根に付けたソーラーパネルは、発電はできるが自分の家では使えないので無用の長物になってしまいます。これを自分の家で使うためにはどのようにすれば良いかと言うと、一度蓄電しなければなりません。

発電している時間は家に人がいない時間であることが多いですよね。一般家庭が電力を使いたい時間は、朝や、夕方以降であることが多いわけですから。昼間に発電して、いったん蓄電池でためて、夜使うという仕組みが必要になります。この仕組みができれば、電力会社から電力を買って消費するというニーズはどんどん減ってくる傾向になります。年間通じて、自分で蓄電池を購入して発電して自家消費することによってかかる費用と、電力会社から電気を買う値段とがほぼイコールになる価格帯というのがあり、そういった時期が2019年以降やってきそうということです。

---:蓄電池のコストも入れても、費用がイコールになる時代がやってくるということなんですね。

二見:はい。今はまだ実証段階ですが、2019年あたりには商用になっていくと思います。我々は中古バッテリーを量産できる体制というのを国内で作ろうとしているわけです。
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EVをグリッドに接続


---:そして、EVの普及も2019年問題と絡んでいくわけですよね。

二見:はい。EVを動かすためのエネルギーは電気であり、その電気を再生エネルギーに転換していくという動きになります。とはいっても、いきなり再生エネルギーに転換するというわけではなく、まず初めは省エネから入ります。省エネというのは、火力発電所の炊き増しのようなものを無くすことです。次に、再生可能エネルギーを導入すること。そのためにはまず蓄電池として定置型も必要ですし、EVも必要になる、ということですね。

---:EVはクルマなので、ずっと繋がっているわけじゃないですよね。。

二見:ハワイのマウイ島で、リーフを200台くらい使ってエネルギー実証試験を5年くらい前にやりました。マウイ島は30%ほどの電力が風力発電です。エネルギーの元となる風は昼も夜も吹いているので、夜に電力が消費しきれず余ってしまいます。これを放っておくと電圧が変動したり周波数が変動したりするので、それをEVで吸収させるというのがまず一つ。

昼については、電力が足りないケースがあるので、ビークルtoホーム(=V2H。EVを家庭の電力の供給源として利用すること)などで電力を供給し、全体の電力をコントロールをするというプロジェクトでしたが、EVをケーブルに繋いでいるのにも関わらず、電力を供給している人は5台に1台くらいしかありませんでした。

---:つまり、EVをケーブルに繋いでいても、電力供給するスイッチをオンにしない人が多かった、ということですね。

二見:そうですね。バッテリーを減らしたくないという意識もあったかもしれません。これから(バッテリーの)容量が大きくなっていけば変わってくると思いますが。何が言いたいかと言いますと、V2Hと言っても100%のユーザーが対応してくれるわけではないということと、そして当然EVが繋がっていない時もあるので、やはりその時は蓄電池は当分の間は必要ということになってくるということです。

充電インフラはグリッド化必須


二見:日本の場合、エネルギー屋はエネルギーのことしか考えていませんし、モビリティ側はモビリティのことしか考えていませんし、IoTはIoTばかりを考えているような状況です。欧州はこれらをすべて繋ぎ合わせて考えています。

VPPができない充電インフラは意味がありません。そして、ビークルtoホームだけではなく、蓄電池も必要です。

---:VPPを実現させるための政策の後押しはいかがでしょうか。

二見:経産省を中心にあることはありますが、まだマイナーな存在ですので、費用の掛け方が十分ではありません。VPPの実証事業としては、V2Hもあり、蓄電池もあり、ということなので初めは費用がかかりますので、それなりの補助金が出ないと民間企業はなかなか参入しづらいのが現状です。その費用の付け方としては甚だ不十分であると思っています。

---:実証実験ができない状況にあるということでしょうか。

二見:実証実験は、例えば横浜市と東芝と東京電力がVPPの実証実験をやっていますが、そういう案件が一つあると、予算の半分くらいを使ってしまうような状況です。日本には急速充電器が今7000基くらい普及しているようですが、それらはVPPに対応していません。

---:充電器がグリッド化されてないのでVPPにならないということですね。

二見:日本においては、クルマは時間にして97%は停まっている状態です。ということは、大半の時間はどこかしらのパーキングに停まっているということです。充放電機が駐車場に行く度にあるという社会になってくると、EVだけでも、蓄電池ネットワークがある程度できてくる可能性があります。

---:駐車場に蓄電池を置いておきたいですね。何なら公共の駐車場では、電力のやり取りによって駐車料金が変わってくるということもありそうですね。

二見:その通りです。VPPが十分普及してくると、放電した人は駐車料金が安くなる、ということにもなってきます。逆に、グリッドに繋がらない、VPPが成立しないということは、つまり、IoTに参加できないということです。

インターネットで何が行われているかというと、情報共有が世界レベルで行われているということですよね。エネルギーで言えば、エネルギーを持っている人から持っていない人に平準化・共有化していくということです。

VPPをIoTとして捉えるべきだ


---:VPPは、2019年以降2025年あたりでどのようになる、といった構想はあるのでしょうか。

二見:まだそこまで正確なロードマップがあるわけではありません。一番重要なことは、EVというのは車だけ売るのではなく、充放電機が付いたインフラを同時に普及させていくということです。同時に普及させる場所はどこかというと、まずは家、駐車場、企業の事業所です。こういった場所にEVの普及とセットでインターネットにも接続ができて、蓄電池も付いていて、充放電もできる、というような機能を持った、VPPが可能なインフラを並行して2019年から構築していく必要があります。

ドイツではIoTといえば、最初の応用範囲がエネルギーと決まっていました。アメリカでは、VPPをインターネットやITとして扱っています。ヨーロッパも同じです。いっぽう日本のVPPは経済産業省がやっていて、エネルギー分野で扱われていました。例えば、経産省の中のエネルギー課のようなところで扱っています。

---:日本ではIoTとエネルギーを組み合わせて考える人はあまりいないのでしょうか。

二見:そうなんです。グーグルの副社長だった村上さん(註:村上憲郎氏。元Google米国本社副社長兼Google日本法人代表取締役)も、そこが大きな問題だと言っています。日本が早くそこに気が付かないと、他の国とすごく差がついてしまいます。自動車会社はまだまだ意識が低いです。

再生可能エネルギーについては日本は本当に豊富です。なので、IoTの意味を正しく理解して一直線に進み始めたら、ドイツを簡単に追い越せると言っている方もいます。

---:日本は今はエネルギーを買っている側ですよね。買っているということはそれだけ資金があるということですし、リソースもあるわけですし、本当はもっとモチベーションが上がってもいいはずですよね。

二見:資源エネルギー庁ではエネルギーのことしか考えられていません。エネルギーのことしか語らないというのは、国際社会の場では本当におかしいことで、必ずエネルギーとモビリティとそれ以外のこともセットで考えないといけません。日本の場合は縦割りなのでどうしてもこうなってしまいます。もちろんやる気のある人もいます。全員が理解していないわけではありません。警鐘を鳴らしている人も何人かいらっしゃいます。

しかしこれは、好むか好まないかではないですから。インターネットも初めは抵抗があったはずです。でも今はインフラになっていますよね。通信もブロードバンド化されて、ワイヤレスで通信することに何のストレスも感じなくなってきています。そういった周辺環境が整ったからこそ、いよいよ、IoTも実態のあるものとして認知されてきたわけです。そういったことが見えていないと、EVのことだけを見てしまう。視野が狭くなってしまいます。

---:VPPとIoTという別の言い方をするのもナンセンスですよね。エネルギーネットワークを作っていくということなんですよね。

二見:そうですね。分散型のエネルギーネットワークを作っていくということですね。
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《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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