トヨタ 新型 カムリ(米国仕様)で5000km、アメリカで「99年ぶり」の皆既日食を見た

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新型カムリと皆既日食。幻想的な光景だった。
  • 新型カムリと皆既日食。幻想的な光景だった。
  • ロサンゼルス南部、トーランスの北米トヨタ自動車オフィスで新型『カムリ』を借り出す。3000マイル超のロングツーリングはここから始まった。
  • ロサンゼルス・ダウンタウン界隈のハイウェイで早引けの人々による金曜渋滞に捕まる。
  • 州際高速道路5号線でロサンゼルスからサンフランシスコへ向かう途中、日暮れを迎えた。
  • 空力処理とデザイン性の両立にデザイナー、モデラーが腐心した痕跡がうかがえた。
  • ロサンゼルス近郊の住宅地にて。カムリはこういう景観には大変よく溶け込んだ。
  • 一見エキセントリック、その実シックなデザインで、意外にワル目立ちしない。
  • 皆既日食ハンティングのため、ワイオミング州へ1000 miles a dayの旅へ。カリフォルニア東部、シェラネヴァダ山脈の山中にて。

全米を沸きに沸かせた2017年8月21日の北米皆既日食。幅約100kmの皆既日食帯が北西部のオレゴン州を皮切りにアイダホ、ワイオミング、ネブラスカ…と横切り、南東部のサウスカロライナから大西洋上に抜けるという、ダイナミックきわまりない天体ショーゆえ、エキサイトするのも無理からぬところ。その北米皆既日食をトヨタ自動車の新型『カムリ』2018年モデル(米国仕様)を駆って見に行った。

用意されていたクルマは中間グレードの「LE」。車体、パワートレーンともトヨタの新しいクルマづくりの技術基盤である「TNGA=Toyota New Global Architecture」によって作られたオールブランニューであるという点は日本モデルと同じだ。

異なるのはパワートレーン。量産非ハイブリッドカー用エンジンとしては世界で初めてピーク熱効率(燃焼で得られた熱のうちどれだけ動力に利用できるかを示す割合)41%を達成した新開発の「ダイナミックフォースエンジン」2.5リットル直4と、これまた新開発の8速ATの組み合わせである。
ロサンゼルス南部、トーランスの北米トヨタ自動車オフィスで新型『カムリ』を借り出す。3000マイル超のロングツーリングはここから始まった。
ロサンゼルス南部のトーランスにある北米トヨタで車両を受け取り、まずはロサンゼルスから友人の家のあるサンフランシスコまでの420マイル(676km)をドライブした。

到着日の18日は金曜だったが、ハイウェイは午後の早い時間から週末ライフを楽しもうと会社をさっさと去る人たちのクルマで大渋滞。聞けば、ロサンゼルスに限らず都市圏では毎週末の風物詩であるという。言うなれば、毎週が“プレミアムフライデー”というわけだ。Interstate(州際高速道路)5号線を通り、途中数回サンフランシスコに到着する。この程度の距離のドライブでは、新型カムリにとっては何の苦難も伴わなかった。

◆「99年ぶり」に盛り上がるアメリカを走る

アメリカに渡ってみると、現地では皆既日食の話題で持ちきりだった。キャッチフレーズは「99年ぶり」。西海岸から東海岸へとアメリカ大陸を横断する格好で日食が発生するのが1918年以来という意味だ。

皆既日食とは太陽と地球の間にちょうど新月が入り込み、太陽をぴったりと覆い隠すことで見られる現象。宇宙からは太陽を遮ってできる月の影が地球に落ちているように見える。

その影は北太平洋からまず西海岸北方のオレゴン州にかかり、次いでアイダホ、ワイオミング、ネブラスカ…と移動し、南東岸のサウスカロライナ州から大西洋に抜けると計算されていた。今回の皆既日食を見ることができる皆既帯の幅は100km前後。その中心線に近ければ近いほど長時間見ることができるのだが、最も長くても2分台。まさに瞬間の自然美だ。

その話題沸騰の皆既日食をどこで見るかという判断は、天候および交通状況との相談である。

情報によれば、最初に月の影がかかるオレゴン州はカリフォルニア州やワシントン州、カナダなどからアプローチしやすいということで大人気。何日も前からツアーやキャンピングカーが大挙して乗り込んでいるとのこと。絶景ポイントの争奪戦におっとり刀で駆けつけるのは不確実性が高すぎる。隣りのアイダホ州は人口密集地帯からはやや遠いが国立公園やリゾート地が多く、ここも場所選定のリスクがある。
皆既日食ハンティングのため、ワイオミング州へ1000 miles a dayの旅へ。カリフォルニア東部、シェラネヴァダ山脈の山中にて。
そこで候補に上がったのが、アイダホ州の隣りのワイオミング州。人口密度わずか2.3人/平方km。「シェーン」をはじめとする数々の名作西部劇の舞台となったカウボーイスタイルの地である。人口密集地帯から遠く離れており、ネブラスカ州と並んで最も観測しやすいであろうことは想像に難くなかった。

だが、ワイオミングのなかでも観測に適した地までの距離は、サンフランシスコから1000マイル(1609km)以上。長距離移動の文化があるアメリカでも“1000 miles a day”というのは思い切ったドライブのひとつのボーダーラインである。20日に出発し、この距離を1日で走破することが、ワイオミングで皆既日食を見る絶対条件だ。

ロサンゼルス~サンフランシスコ間でのロングドライブの疲労度合いからみて、チャレンジする価値ありと考え、思い切ってサンフランシスコと東海岸、ニューヨーク・メトロポリタンシティを結ぶ長大な州際道路、Interstate80号線(I-80)で東に向かうことにした。

◆新型 カムリ で“1000 miles a day”

午前5時半、サンフランシスコを出発。途中の大都市サクラメントを通過すると、ほどなく広大なシェラネヴァダ山脈へ。信用樹林帯を縫う美しい風景の中、標高2206mの峠を越えると、そこは砂漠の広がるネヴァダ州。カジノとエアレースの街リノと出会う。

リノを通過すると、ほどなくI-80の制限速度は80マイル時(約130km/h)に。昨年、制限速度が5マイル時引き上げられたのだが、乗用車はおおむねその10マイル時プラスで流れている。ドイツのアウトバーン無制限区間を除けば、今や世界でもクルマへの負荷が最も高い道路のひとつだ。
州際高速道路80号線。南北方向の合衆国高速道路95号線との重複区間。ちなみに95号線を北に向かうとアイダホ州の皆既日食帯に到達する。
長大な高速道路をひたすら東へと向かう。その風景は本当に呆れるほど、行けども行けども変わらない。淡いベージュの山肌に、乾燥に強いくすんだ緑色の背の低い植物がチラホラと生えているだけである。2時間、3時間…これだけのスピードで走っているのだからそろそろユタ州が見えてきてもいいのではないかと思いはじめたが、景色は一向に変わる気配がない。

それもそのはず。ネヴァダ州は全米で面積第7位、28万9000平方kmもの広大な州だ。日本のように細長くないぶんまだ救われているが、州内のI-80の東端と西端の間は公称410マイル(660km)だが、実際はもっと長い。日本で言えば、高速道路で東名東京から広島の福山インターチェンジに至るよりまだ遠いのだ。

午後、日も傾いてきた頃にようやくユタ州との州境に到達した。遠方には真っ白な平原が彼方まで広がっている。自動車の最高速度チャレンジの聖地として有名なボンネビル・ソルトフラッツだ。州境を超えるさい、太平洋標準時から山岳部標準時へと、時計の針を1時間進める。出発からすでに600マイル強を走破していたが、残りはまだ400マイル以上もある。

I-80は塩で覆われたソルトフラッツの真っ只中を一直線に走っている。ボンネビル・スピードウェイの向こうには、蜃気楼でサツマイモのように歪んで見える岩の島があったりと、その光景はなかなか幻想的だ。そのソルトフラッツを過ぎ、日暮れどきにユタ州の州都、ソルトレイクシティに着いた。
ソルトフラッツをバックに記念撮影。
山岳部という名の通り、ソルトレイクシティは平地のようであっても標高1200m超という高地だ。が、その先、ワイオミングはさらに標高が上がる。州内で標高が最も低い地点でも945m。日食を見られる中部は1400mから1600mといったところだ。とっぷりと日が暮れた頃、ロックスプリングスという町でI-80に別れを告げ、いよいよワイオミングの核心部へと入っていく。州際道路は80マイル時がリミットであったが、センターラインあり、片側1車線の地方道も制限速度は緩く、70マイル時(113km/h)だ。途中、ひと息入れるために車外に出てみると、街の灯りの少なさと高地であることがあいまって、星空が壮絶に美しかった。筆者は子供の頃から天体マニアだったのだが、一瞥しただけでは星座がどう並んでいるかわからなくなるほどの密度だった。

そして日付が変わる頃、ついに第一目的地に設定していたボイセンダム貯水池の湖畔に到着した。道すがらキャンピングカーなどを少し見かけたものの、ほぼ無人に近い。読みどおりだ。サンフランシスコからの走行距離は1077.8マイル(1734.1km)。身体に痛み、違和感はなし。新型カムリは悠々と1000 miles a dayをこなすことのできるロングツアラーに仕上がっていることが実感された。

翌朝、日の出とともに目覚める、夜は周辺の様子をうかがい知ることはほとんどできなかったが、朝日に映し出された大地は、まさに西部劇のロケ地そのものというウェスタンな岩山が散在する大平原だった。

オフロードを経由して岩山の中腹に登り、日食を待つ。ワイオミングのこの地は年間降水量が200mm台というステップ気候で、晴天率は高い。この日は上空に寒気が入っていた影響で当初は高高度に雲が出ていたが、時間とともに快晴となっていった。オレゴンから遅れること15分ほど、現地時間の午前10時19分53秒に太陽の右上に月の影がかかった。第一接触という日食の始まりである。

◆“エクリプスハンター”達が熱狂する

ここから約1時間20分をかけ、太陽は皆既日食へと食分(直径に対する隠蔽部分の割合)を増していく。始まってからしばらくの間は、日食が始まっていることを直接体感することはできない。が、食分が30%に差し掛かる頃から、空の色は真っ青なままなのに光が少しずつ弱まっていっていることにふと気が付く。写真を撮るとその変化はもっと顕著で、日食前は直射日光の強さでクルマの陰の部分が黒々としか写らなかったのが、とくに陰の部分を補正せずともクルマ全体がバランスよく写るようになっていく。

食が進むにつれて光はどんどん弱まっていき、日食フィルターで太陽が三日月のようになったとき、空の半分が黒味を増した。時間的にオレゴン、アイダホ方面で皆既日食が起こっている頃で、その影が高層大気を覆うことによる現象のようだった。
食分0.9に近づいた状態。気温がやや下がり、風が吹く。ただし、今回は皆既帯の幅が100km程度という比較的規模の小さい皆既日食だったため、2009年の日本での皆既日食(荒天のためコロナは限られた地でしか見ることができなかった)の時のようにごうごうと風が吹くほどではなかった。
現地時間午前11時39分、劇的に周囲の景観が変わる。空全体がすーっと黒くなり、それまでは肉眼で直視することが出来なかった太陽の光が真っ白な一点の輝きとなる。第2接触、ダイヤモンドリングだ。その点はどんどん小さくなっていき、見えなくなった瞬間、写真では映らないごく淡い虹色を帯びたコロナが太陽の周りに広がった。皆既日食である。遠くから「ワーオ」「オーマイガッ」等々、“エクリプスハンター”と呼ばれる日食ファンの叫び声が聞こえてきた。

継続時間はわずか2分20秒あまりだが、月の影がコロナの中を微妙に移動しているのがわかる。空には一等星がいくつか輝き、周囲を見回すと遠方、皆既帯の外の陽光が暗い橙色に見える。こんなとき、クルマのヘッドランプを点灯させるのは周囲に迷惑であるし、何より無粋だ。皆既日食とシルエットしか見えないカムリを同一フレームに入れて写真を撮り、あとは沈黙の天体ショーに見入った。
2017年北米皆既日食。
闇が最も深くなったとき、やおら太陽の光が鋭く周囲を突き刺した。第3接触、皆既日食明けのダイヤモンドリングである。周囲は急激な夜明けのようにさっと青みを取り戻し、日の光が少しずつ強まりだした。本当にあっという間の出来事であったが、熱狂に値する天体現象であることは確かだと思った。帰り道、ワイオミング北西部の大森林地帯を通過するルートを通ってみたが、皆既日食帯の中にあったネイチャーリゾートの地、デュボワでは、興奮冷めやらぬ人々が楽しげに祝杯を上げ、バーベキューに興じていた。

◆冒険心あふれるオーナーの愛着に応えるカムリ

感動を胸にロサンゼルスに帰着したさいの総走行距離は3192.5マイル(5136.7km)。その長大なツーリングを通じて感じられたカムリの3大美点は、疲労知らずのシート、高い静粛性、そして荒れた路面でも快適性を保証する乗り心地の良さだった。クルマという商品はコンセプト、技術力、コスト等々、あらゆる制約のもとで作られており、すべてにおいて秀逸というものはない。カムリにももちろん短所はあるが、冒険心あふれるドライブをしたいというアクティブなオーナーの愛着に応える資質はミディアムクラス屈指のものであると言えそうだった。
ワイオミングの山をバックに記念撮影。
◆テストドライブ車の仕様
車名:トヨタ カムリ LE(米国仕様)
モデルイヤー:2018年
エンジン:2.5リットル直列4気筒直噴DOHC
車体寸法:全長4879×全幅1838×全高1445mm ホイールベース:2824mm 空車重量:1495kg

日本仕様は、2.5L ダイナミックフォースエンジンと、新世代ハイブリッドシステム「THS II※」を組み合わせ、優れた動力性能と低燃費を実現。※Toyota Hybrid System II
日本仕様について詳しくは画像をクリック!

カムリ

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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